そして偽少女は身を委ねる …1
今回の話には、“猿夢”がどんなものであるかを知っていないと、分かりづらい描写が若干含まれます。別に知らなくても若干ですので影響はしませんが、興味のある方は検索してみてはいかがでしょうか?
ここは龍ヶ峰市の中央市街にある“ロストランド”だ。
確かに“ある”場所や座標は同じだが、空間が違う。
ここは存在するはずの無い、偽物の空間なのだ。
「さあ、さっさと済ませてあげるよ。まずは、なんだっけ。……そうそう、最初は“活けづくり”ッ!」
“偽”が叫んだ瞬間、急に辺りが殺気に満たされた。
途端、“偽”の横に紅い軌跡を視認する。間違いない、“黒蜘蛛”だ。
「ッ!」
とっさに横に飛び退くと、そこを“黒蜘蛛”が視認できるぎりぎりのスピードで通り過ぎて行った。
ポーチに手を突っ込み、バタフライナイフを取り出す。
「ふふふ、ふふふふふふ……」
“偽”が不気味に嗤い、再び今度は右から紅い光が見えた。
だが、いつまでも逃げているようでは体力を削られて殺されるだけだ。
幸い、“黒蜘蛛”との戦闘はこれで三回目。なんとか相手の動きにも反応出来る。
“黒蜘蛛”が迫って来るのを感じつつも、その感覚を引きつけ、ギリギリのところで右手を勢い良く振るった。
……確かな手応え。右を向くと、バタフライナイフの刃先には“黒蜘蛛”の頭部が刺さっており、胴体はびくびくと痙攣を繰り返しているのが見えた。
「……へえ」
“偽”がニヤリとした表情でこちらを見る。
「もう“黒蜘蛛”の動きまで追えるんだ。驚いたよ」
散々お前にちょっかいを出されてきたんだ。これ位のことは出来るさ。
「まあでも、まだ足りないな。これなら……どうッ?」
そう叫びながら“偽”が片手を振り上げた。
すると、それに呼応するように次々と“黒蜘蛛”が辺りに出現する。
数は……六体。
「まだ足りないよ、響輝君。苦しみから解放されて死ぬか、それとも別の道を行くか。まだ、“私”は満足できてない!」
その声と同時に、六体の“黒蜘蛛”が一斉にその場から消えた。
……いや、違う。時折視界を横切る紅い光の軌跡が、それらが消えたのではなくやはり、高速で空中を飛び交っているのだということを示していた。