そして偽少女は高らかに嗤う …4
「心で勝っていれば、まだ勝機はあるよ。でも、体格差と思考能力の問題から、“大蛇”は無理だろうけど」
“偽”が俺の向かいの席に腰を下ろした。
改めて、こいつの顔が真正面に来る。寸分の狂いも無く戌海と同じだ。ただ性格が違うためか、若干目元が違う気もする。うろ覚えだが。
「そうだよ。“私”は響輝君の記憶の欠片にすぎない。でも、時間っていうものはそれ自体が膨大な情報量だから、“恐鬼”はそれの源が例え刹那の間の記憶でも人間を越える力を有するの」
人より強くあれど、“恐鬼”は影から人の感情を喰うに留まっていた。
その均衡を、法則を“鍵”というイレギュラーが崩壊させた。
「正確には、実体の無い“恐鬼”が人の記憶から時間を模写し、情報量というエネルギーを糧に存在しているわけか」
どうにか自分の中で結論付ける。
「そうだね。そういうコンピュータに例えた考えの方が分かりやすいかも」
そこで、“偽”はずいっと顔を近づけてきた。
「ね? 私、嘘は言ってないよ。むしろ響輝君にとって有利なことを教えてあげたよ」
“偽”がどうだ、とでも言いたげにこちらを見つめる。顔が近い。
「だからって根っこまで信用するわけにはいかない」
こいつには散々痛い目に遭わされているのだ。そう簡単に信用しては相手の思うがままである。
「強情だなあ」
五月蠅い。
「……そう言えば、お前」
「何ー?」
二階を歩きまわっていた“偽”が答える。
「俺の夢に入ってこなかったか? 二回くらい」
「……」
そう訊くと、“偽”はしばらくぽかんとした後に、
「……ぷっ、あははははは!」
吹き出した。
「まさか響輝君、“鍵”じゃなくて“私”の夢見てたの?」
「う……いや……」
まさかこいつの所為じゃないのか。ウソだろ。
マジかよ。俺ってば情けねえ。
「あははははは!……まあ、冗談は置いといて」
こいつ……。
思わず立ち上がって殴ってやろうとした俺を“偽”が手で制する。
「ねえ、響輝君。こんな話、聞いたことある?」
ならば思いつく限りの罵詈雑言を浴びせてやろうと口を開きかけた俺を“偽”が手で制する。
「残酷な同じ夢を見続けると、三回目で死んじゃうっていう話なんだけれど。……ほら、電車がどうこうってやつだよ」
それなら聞いたことあるな。……いや、確かネットで見たことがある。
「確か名前は……」
「あ、ストップ!」
その怪談だか都市伝説だかの名前を頭に思い浮かべた時、“偽”が声を上げた。
「どうした?」
「そういう、この場合は夢だけど、実体を持たずに広範囲に渡って人を喰らう“恐鬼”は現象の伝聞と、何より名前に反応するの。だから、今響輝君が“それ”の名を口に出したら本物がやってきちゃう」
「……本物?」
何を言ってるんだこいつは。
俺が聞き返すと、“偽”は微笑みながら、
「そうだよ。私は“偽”、だから自分の知りえる本物に基づいて、ニセモノとしての行動をとることができる。まあ、短絡的に言うと、後一回“私”が響輝君の夢に入り込んだら、響輝君は死んじゃうわけ」
……え。
一瞬、思考が停止した。
分かりにくいですかね。
話の中にちょろっと出てきた都市伝説は、知ってる人は知っている“猿夢”です。
ちなみにフェイカーが言っているのは、本物の現象に対して、アレンジを加えた偽物の現象を起こせる、という事です。
ある意味本物より強い。