そして偽少女は高らかに嗤う …2
「あの“大蛇”には勝てない。巨体は一刀両断するには太すぎるし、鱗も半端なく堅い。戦うだけ無謀だよ」
“偽”が言う。
「け、けれど、そんなこと戦ってみないと分からないですよ。何か弱点があるかもしれませんし」
鈴が食い下がる。
「無理だよ。戦ったもの」
“偽”がさらっと言った。
あの“大蛇”と戦った? どういうことだ? お前らついに共食いまで始めたのか。まあ、それはそれでこっちにとってはいい話なんだが。
「何か勘違いしてるね、響輝君。“恐鬼”は各自が自由に人間を襲っているだけで、共闘するっていう発想自体無いの。“私”は“恐鬼”の中でも異常性が高く、人間に近いから動かす頭もあるけれど、大抵の、それこそ虫の姿をした“恐鬼”なんかは、ほとんど何も考えちゃいないわ。考えているのは、“支配者”に属しているということと、敵だけ」
“偽”がもっともらしく語る。
「私が響輝君のところに向かおうとしたときに、ちょうどバイクに乗った人たちが“大蛇”に追いまわされていたわ。たまたま通りかかったら、“大蛇”にもろともターゲットにされちゃって」
あの暴走族、あんなのに追われてたのか。ご愁傷様としか言いようが無い。
……そうか。あいつが、バイクよりも速く、半端な攻撃ではびくともしない“何か”だったのか。仮想敵にしては酷過ぎる感もあるが。
「何とか逃げ切ったけど、あいつは駄目。多分、目に入った人間、敵をすべて喰らうことしか考えてない」
目に入った物、ね。
……いや、目といっても蛇の視力はそんなに良くないはずだが。
「……いや違うな、ピット器官か」
「その通り。奴は獲物が生きている者かどうかを温度で判別する」
蛇が持つピット器官は、温度を感知して獲物かどうかを判断する。厄介だな。
「つまり、半端な目くらましでも誤魔化せないということか」
一定の範囲内に入ったら車と同程度かそれ以上の速さで追いかけられる。何だそりゃ。遭ったらお終いじゃないか。
「車があれば多分しばらくは追いつかれないけど、時間の問題だろうね。それに、あいつの熱探知を躱すには最低でも建物一つ分の障壁が必要になるわ。直線上にいたらすぐに路地に駆け込まないと、死ぬ」
死。ゲームオーバーだよ、と“偽”が続けた。