でもだけどそれでも少年は …4
「♪♪♪~~」
“偽”がこちらを見ながら鼻歌を歌い始めた。シンキングタイムとでも言いたいのか。
「響輝さ……」
「止めろ、鈴」
なおも立ち上がろうとする鈴を制する。
「でも……」
今の俺と鈴ではこいつを斃せない。取引に従うしかないだろう。
「……いいだろう。その取引とやら、受けてやる」
「わあ、ありがとう、響輝く……」
“偽”があからさまな笑顔を顔に浮かべかけた時だった。
「……散れよ」
と言う声が耳に届き、その声を聞いた鈴がとっさにその場から飛び退く。
次の瞬間、
「紛い物がぁぁッ!」
“偽”の後ろの方の角から浅滅が飛び出し、ショットガンの引き金を引いた。
乾いた銃声と共に、幾多もの鉛玉が“偽”の方に飛んでいく。
「“魔弾”か。姿が見えないと思ったら、そんなとこにいたんだ」
“偽”がふっと笑うと、足元にあった真っ二つの“アルマジロ”の遺骸を蹴り飛ばした。
“アルマジロ”だったものの断面に弾丸が突き刺さり、ただでさえ中身の見えてえぐい状態だったそれは、蜂の巣をあけたぐちゃぐちゃの、ただの肉塊になった。
どちゃり、と地面に落ちたそれが真っ黒な塵になり、空気中に霧散していく。
角から姿を見せた浅滅は、そのままひざを曲げ、そばにあった電柱にもたれかかった。
「……クソッ」
「……ふふっ。“魔弾”、こんなところで全力は使わない方がいいよ。ただでさえ、あなたは本来の人間の寿命どころか、“狩り人”の寿命をも引きのばしてるんだから。今回までが限界だろうね」
浅滅が限界……? どういうことだ?
「あれ、知らないの? 響輝君。“狩り人”も“逸れ者”も半永久的な寿命があるだけで、絶対的な不死ではないんだよ。ただ、気力と根性さえあれば、それをちょこっとだけ引き延ばせるんだけどね」
“偽”がこちらを向く。
浅滅。“アルマジロ”がビルの上から落ちてきたあたりから姿が見えなくなっていたが、どこにいたんだ?
「……お前ら、あの“恐鬼”がただ一体だけだと思っていたのか?」
浅滅が息を荒げながら言った。
「あういう潰したり高速で移動する“恐鬼”は大抵集団で行動する。俺はそこの道に隠れていた残党を始末してきただけだ」
「そういうこと。ここからは、ありとあらゆる、魑魅魍魎、奇想天外、怪力乱神、異類異形の“恐鬼”があなた達を襲って来るんだから。私に付いて来るなら、その危険性も減ると思うんだけどな」
そう言い、“偽”が嗤った。