でもだけどそれでも少年は …2
目の前で“アルマジロ”だったものが真っ赤な血を断面から吹き出している。
「……」
続いて目の前に、見覚えのある制服を着た、“戌海琴音”が降ってきた。
……否、“戌海琴音の姿をした恐鬼”が降ってきた。
片手に短刀を持った“偽琴音”が身軽そうに地面に着地する。
「……またお前か」
さんざん会ってきたからさすがに分かる。
また出やがったな、偽魔女め。
「……久しぶり、響輝君。元気そうでなによりだよ」
“偽”が微笑みながら片手に持った短刀を腰の鞘におさめた。
「何の用だ? ようやくお前が俺を殺すシーンになったのか?」
「……ふふふ、それも面白いんだけどね。そうもいかなくなったんだよ」
戌海と同じ顔で全く違う雰囲気の笑みを浮かべる“偽”。
「響輝さん、そいつは何ですか? 何で“鍵”と同じ姿を……」
鈴が近寄るに近寄れない、といったふうに遠巻きにこちらを見る。
「……こいつは偽物の戌海琴音だ。俺の恐怖から生み出された“恐鬼”なんだとよ」
そう。こいつは最初に学校で戦った、戌海琴音の“偽物”。
そういえばこいつ、何度か夢にも出てきたな。あの現実感からして、あれがただの夢だとは思えない。こいつは他人の夢に入る能力でも持っているのか。
「……ふふ、やっぱり焦らないね。自分の命を狙っているかもしれない相手が目の前に現れたのに、響輝君は全然恐怖してくれない」
“偽”がつまらなそうに口をとがらせた。
「響輝さんを狙って……?」
「そうだ。こいつは俺を殺すためにここにやっ――」
俺が最後まで台詞を言い終わる前に、鈴は動いていた。
瞬時に距離をつめ、その手にもった大鎌を“偽”に向かって振り下ろす。
が。
「……ふふ、考えなしに行動しない方がいいよ、大鎌の少女」
こちらを向いたまま、抜き身の短刀で後ろからの大鎌を受け止めた“偽”は、そんなことはどうでもいいとでも言いたげに、呟いた。