表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lost Days  作者: 陽炎煙羅
七章 Ubiquitous grotesque~そして市街は腐朽する~
159/261

でもだけどそれでも少年は …1

 竜ヶ峰市の中央市街。

 先ほども説明したが、この区画には市庁もあり、竜ヶ峰市の重要な建物も集中している。

 よって、他の区画よりもビルや大きな建物、舗装された大きい街道も多い。

 陸を移動する“恐鬼”だけならともかく、飛行するような“恐鬼”が来ると視界の確保に困るだろう。


「しかし、“中央市街”に来たというのに、何もいませんね」

 鈴が言う。

「油断するな。これからは“支配者”自体を相手にしていると考えた方がいい。あいつの思い通りに闘いを進められるわけにはいかないからな」

 浅滅が言った。

「それで。そのロストランドまではどれくらいの距離があるんだ?」

「……? 可笑しな事を聞きますね。あなたはこの街の住人でしょう?」

 あれ。まだ言ってなかったっけか。

「俺は数日前にこの街に引っ越してきたんだ。別に生まれた時からこの街に住んでるわけじゃない」

だから地理的な話で俺に期待するのはよしてくれよ。

そう言うと、鈴は納得がいったとでも言いたげな顔をした。

「成る程。何で響輝さんはこんなに街の住民の死や争いに無関心なのだろうと思っていましたけれど、そうですか。響輝さんは元々“街”の外の人間なんですね」

「街の外の人間であることに意味なんかあるのか?」

そんなこと関係無く“恐鬼”共は襲ってきたが。

「いえ、大したことではないです。ただ、街の外からやってきた人間には、“街”が隔離されていくうえでの記憶への干渉、時間錯誤(タイムパラドックス)の影響がほとんどないのですよ」

それは初耳だな。……ああ、だからあの、色んな建物に描かれていた解読不能の文字が見えたし、変貌していく“街”に対して疑問を持つことができたのか。どうりで、道行く人々はあの文字に見向きもしなかったわけだ。


しばらく歩き、ビルの目立つ街道に入った時だった。

「……?」

「どうした?」

浅滅が問いかけてきた。

俺は上を見上げて目をこらす。


「……あのビルの上、何かいないか?」

「何だと?」

二人も上を見上げる。

少し先にあるビルの屋上。そこに何か、丸い何かがいるのが見えた。

……と、それが屋上をさっと離れ、こちらに落下してきた。


「何ですか? あの丸いの」

落下してきた丸い物体を見て鈴が言う。

少し先の路上に落下してきたものをまじまじと見る。

俺の記憶が正しければ、あれは……。

「……アルマジロ、じゃないか?」

「何ですか、それ」

鈴が訊いてくる。

「北アメリカからアルゼンチンあたりに分布する哺乳類だ。特徴は、あのようにボール状に丸まーー」

と言いかけた時だった。


「避けてッ!」

鈴が叫び、俺を突き飛ばした。

「ッ……、何を」

と文句を言いかけた俺の目の前を、ぶん、と風を切るような音を立てながら“アルマジロ”が転がって行った。

「……」

「気をつけてください! あいつ、かなり速いです!」

鈴が叫ぶ。というか人の話は最後まで聞けよ。

まあ、そうしたら俺が死んでたわけだが。


考えていても仕方あるまい。

そう考え、“アルマジロ”の方にベレッタの銃口を向け、引き金を引いた。

が。


“アルマジロ”の甲羅に当たった銃弾はあっけなく跳ね返り、乾いた音を立てつつ明後日の方向に飛んで行った。

「銃が効かない!? ……響輝さん‼」

鈴が叫ぶ。

とっさに“アルマジロ”の方に向き直ると、すでに“アルマジロ”は俺の目の前まで転がって来ていた。


間に合わないーー!


そう思った時だった。


「……ふふふ、死にそうだね、響輝君」

そんな声が聞こえ、次の瞬間、


目の前の“アルマジロ”が真っ二つに切り裂かれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ