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Lost Days  作者: 陽炎煙羅
七章 Ubiquitous grotesque~そして市街は腐朽する~
158/261

そして少年は目的を惑う …8

「来るぞ!」

 橋の中盤まで差し掛かった時、浅滅が叫んび、ハンドルを強く握った。

 “火車”との距離はおよそ五十メートル。


「行くぞ。落とされんなッ!」

 浅滅が勢いよくブレーキを踏み、ハンドルを回した。

 バギーの車体が斜めに曲がり、タイヤがアスファルトに擦れる音が響く。


「ぐうっ……」

 慣性の法則に従い、車体自体に強力な力がかかる。

 鈴の方もとい、前方に身体が押しつけられた。

「うう……」

 その力に耐えていたのも、数秒の間。

 すぐに、急停止を機と見た“火車”が加速し、


 斜めになっているバギーに追突した。


「熱いッ!」

「クソッ、ここまでとは……」

 もはや火の塊と言っても過言ではない状態の“火車”が数メートル先にある。

 一瞬でバギーの車内が高温に満たされた。


「落ちろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 浅滅がサイドブレーキを引き、ブレーキとハンドルを握り、衝撃に耐える。


 車体と車体の擦れる、激しい金属音。

 耳に金属音が響き、体中が焼けるように痛い。

 いや、もうすでに半分蒸し焼きの状態なのか。

 さすがにきつい。熱すぎて意識が一瞬遠のく。


 斜めを向いていたバギーの側面に、“火車”の車体が擦れていく。

 バギーの表面を溶かしつつ、勢いを殺しきれず、“火車”がバギーの側面に沿って、方向転換を余儀なくされる。


 そして、すれ違いきった次の瞬間、“火車”は歩道の段差にぶつかり、半回転しつつ、そのまま手すりをジャンプするようにして越えて行った。


 しばらくして、ざぱあん、と“火車”が水面に飛び込む音が聞こえた。



――――――――――――――――――――――――――――――。


 彩柳川の水面から、“火車”だったものの車体が一部飛び出ている。


「はあ……ったく……」

 浅滅がコートのポケットからスキットルを取り出し、中身を(あお)った。

「……はぁ……はぁ……」

 鈴はさきほどの灼熱地獄に耐えきれなかったらしく、川の水で顔を洗いつつ、身体を休めている。

「……」

 そして俺はというと、同じく暑さにやられ、足湯ならぬ足冷やしをしていた。


 “火車”はおそらく暴走する自動車への恐怖が炎という形で表されたものだ。

 あの火炎が車を操っているのであれば、まずはあの火炎をどうにかして無力化しなければならない

 火には水。バギーで“火車”の進行方向を変え、橋の上から川に落とす。

 ……なんとか上手く行ったが移動手段は無くなった。ここからは歩きである。


 ここまで乗ってきたバギーはコンソール内のコンピュータが熱さのあまり焼き切れてしまい、もはやただの鉄塊と化していた。今もそれは橋の上で静かに細い煙を伸ばしている。


「……ふう。まさか、ここまでのものとは」

 鈴が顔を上げた。顔がほてっている。

「ったく。蒸し風呂に来たんじゃねーんだ」

 さすがの浅滅でも先ほどの戦闘……というかカーチェイスは苦しいものがあったらしい。

 スキットルをしまった浅滅がこちらを向いた。

「そろそろ行くぞ」

「……ああ」

 まだ身体にだるさが残っている。

 だが、止まるわけにはいかない。こうしている間にも、戌海の危険性は増すばかりだ。


「あの野郎。本気で俺達をこの“街”で始末するつもりらしいな」

 浅滅が言った。

「……どういうことだ?」

「さっきの……“火車”だったか。ああいうタイプの無機物の“恐鬼”は多いが、あそこまで強力な者は滅多にいない。それに、この濃霧も……いや、そもそも奴がこれまでに一つの“鍵”に執着するのも珍しいのだ」

 彩柳川の向こう、対岸の北区を覆いつつある濃霧を見ながら、浅滅が呟く。


「幸い、こちらの武器に損傷はない。身体はじきに治る」

 そう言い、浅滅が立ち上がった。

「ここからが正念場だ。今回の盤上(ゲーム)も、そろそろ終盤だぜ」

「……そうだな」

 そう言い、俺も立ち上がった。

「敵を見つけても遅いものはスルーしてください。浅滅はともかく、響輝さんのベレッタには替えのマガジンがありません」

「分かってるよ」

 病院に居た人の中に、たまたま同じ種類の弾丸をいくつか持っていた人がいたから、それを貰って、それでも最大装弾数に二発足りない状況だ。

 後はバタフライナイフだが、こちらは峰側の破壊峰が攻撃を受け過ぎてぼろぼろだ。刃の方はまだ無事だが、いつ使い物にならなくなるか分かったものではない。

 だが、それでもやるしかないのだ。

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