そして少年は目的を惑う …6
バギーは急ブレーキの為か少し道路を滑り、しばらくして停止した。
「ッ……何だ!?」
運転席の浅滅に問いかける。
「……見ろ」
浅滅は苦い顔をしながら前を指した。
「……?」
前を見ると、少し先の道路で“何か”がいるのが見えた。
いや……、“ある”のか?
「あれは……火車?」
鈴が呟くのが聞こえた。
確かに“それ”を形容する言葉があるのであれば、きっと“火車”という表現以外にないだろう。
急停止したバギーの少し向こうでアイドリングしているかのように静かなエンジン音を立てているのは、体中のいたるところから燈色の火炎を吹き出している、一台の“車”だった。
「厄介なのが出てきたもんだ。こっちが車で来てなかったら、即刻俺達は皆殺しだったろうよ」
浅滅がそう言い、シートベルト(着けていたのか。何気に律儀な奴だ)を外し、こちらを振り向いた。
「振り落とされるなよ。ただ、いつでも車外に出られるようにしておけ。ああいうタイプは破壊しつくされるまで襲いかかってくる。時間の無駄だ。回避するぞ」
そう言い、浅滅がハンドルを握る。
「まさか振り切るつもりですか?」
鈴が驚いたように言った。
「あの“火車”を見ただろう。車の“恐鬼”は、大抵交通事故にでも遭った人間の恐怖から生み出されたものだ。ホラー映画のものとはわけが違う」
「確かにここから中央市街まではまだ距離がある。ここから歩きなのは正直きついかもしれないな」
俺も同意する。
「そういうことだ。……来るぞ。どこかにつかまっていろ!」
そう叫ぶと同時に、浅滅がアクセルを勢いよく踏み込んだ。
バギーのタイヤがそれに従い、急加速する。
それと同時に、“火車”についているタイヤもギュルルと削れるような音を立てながら回転した。
二台が正面から互いに向かって突っ込んでいく。
「浅滅!」
「五月蠅い、集中できん!」
正面衝突の寸前、浅滅がハンドルを右、左と順に回し、二台の車はかすりかけですれ違った。
「熱ッ!」
「きゃあッ!」
“火車”とすれ違った瞬間、周囲の温度が物質の如何を問わず、急上昇した。バギーの車内の気温も急上昇する。