そして少年は目的を惑う …4
五十嵐が人々を先導しているのを横目に、俺も部屋を出ようとする。
「おい、巽野の坊主」
急に五十嵐がこちらに寄ってきた。
「……逃がしちゃいけないぜ?」
そして、俺の耳元にそう囁く。
「……なんのことだ?」
いきなりそんなことを言われても何の事だかさっぱりだぞ。
そう言うと、五十嵐は少し驚いたように首をすくめながら、首を横に振った。
「……そうか坊主。お前も苦労してるんだな」
なぜか同情するような表情をされ、肩を叩かれる。
何だと言うんだ、全く。
「まあ、ちょっかいをかけなくても、祗園の嬢ちゃんは攻める派みたいだからな。うんうん」
と、五十嵐は一人でふっかけて一人で納得して仕事に戻ってしまった。
『頑張れらなななくてもいいぞ響輝。お前はそれでいい……わけがない』
「文法しっかりしろよ」
何なんだ? どいつもこいつも。
頭を抱えながら、慌ただしい病室を後にする。
……中央市街、か。
この街に来る前に、一度ガイドブックというか、パンフレットを見たことがある。
竜ヶ峰市の市庁があり、この街唯一のテーマパーク、“ロストランド”もある、まさに街の中心部とも言うべき区画だ。
まあ、市庁はもう機能していないし、どの区にいたところで危険であることに変わりはない。
……『恐鬼にはシチュエーションも何も関係ない』。いつだったか鈴が言っていた。
「不味いな」
病院の玄関で立っていた浅滅が苦い顔を浮かべてこちらを振り返った。
「どうしたんだ?」
「見ろ」
浅滅が顎で外を指す。
目を向けると、外にうっすらと白い霧のようなものが漂っているのが見えた。
「何だ……霧か何かか?」
「その通りだ。あれが濃くなるに連れて、あの中での戦闘はこちらに分が悪くなる」
「……どうしてだ?」
「奴らの中には視覚を必要としないやつもいるからな」
浅滅はそうとだけ答え、玄関の扉を開けた。