そして少年は目的を惑う …3
「どうしてあなたはいつもこうなんですか!」
鈴が我慢がならないといったように叫ぶ。
「五月蠅えな。お前みたいに甘い考え方では、いつか痛い目を見るぞ」
浅滅が言う。
確かに両方の意見には参同すべき部分もあれば、反対すべき部分もある。
浅滅の言うことはもっともだ。
考え方に差はあるが、目的を最優先するべきというのも正しい。戌海を奪って“支配者”を斃しさえすればいいのだからな。
ただ、鈴の言うことも倫理にかなっている。
無駄に死んでいい人間なんて存在しない。正論だ。人として、その考えを失ってはいけない。
「問題にしているのは時間だろ? 浅滅、こっちはかなり寄り道ばかりしてるが、のんびりしていたら戌海が取り込まれてしまうんじゃないのか?」
訊くと、浅滅は何をいまさら、とでも言いたげに舌打ちをし、
「“鍵”が討たれる心配は、今のところ無い。だが、時間の問題でもある。少なくとも、俺達が生きている間は無いだろう。チカラを取り込むのには時間がかかる。その上、取り込んだ後はしばらく行動が出来なくなる。奴が好き好んで隙を見せるとは思えん」
と言った。やけに詳しいな、お前。
「奴は既に三人の“鍵”をその身に取り込んでいる。この、一帯を異空間に閉じ込める能力もそのうちの一人のものだ」
……お前、一体いつからあの黒ローブと戦ってんだよ。
「かれこれ二百年と少しか? どうでもいいだろうが、そんなこと」
「……」
もう何だかキャリアがどうとか以前の問題だな。まあ、気にしないが。
「響輝さん」
「ん?」
鈴が横に来る。
「ここからは私達は互いを庇い合う余裕はおそらく、ありません」
「……まあ、そうだろうな」
「だから、だから絶対に、私が危なくなっても、庇うなんてバカなことはしないでくださいね?」
と、鈴は微笑みながら言った。
「……」
一瞬、言葉に詰まる。
自分がこいつを庇ったことを思い出したわけではない。
こいつのこの笑顔が、あまりにもあの時を彷彿とさせるものだったからだ。
「そんな真似をしてあなたまで怪我をしては元も子もないですから」
そう言って部屋を先だって出て行く鈴の微笑みは、
あまりにも、あの時の姉さんの微笑みに、そっくりだった。