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Lost Days  作者: 陽炎煙羅
七章 Ubiquitous grotesque~そして市街は腐朽する~
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そして少年は目的を惑う …3

「どうしてあなたはいつもこうなんですか!」

 鈴が我慢がならないといったように叫ぶ。


「五月蠅えな。お前みたいに甘い考え方では、いつか痛い目を見るぞ」

 浅滅が言う。


 確かに両方の意見には参同すべき部分もあれば、反対すべき部分もある。


 浅滅の言うことはもっともだ。

 考え方に差はあるが、目的を最優先するべきというのも正しい。戌海を奪って“支配者”を斃しさえすればいいのだからな。


 ただ、鈴の言うことも倫理にかなっている。

 無駄に死んでいい人間なんて存在しない。正論だ。人として、その考えを失ってはいけない。


「問題にしているのは時間だろ? 浅滅、こっちはかなり寄り道ばかりしてるが、のんびりしていたら戌海が取り込まれてしまうんじゃないのか?」

 訊くと、浅滅は何をいまさら、とでも言いたげに舌打ちをし、

「“鍵”が討たれる心配は、今のところ無い。だが、時間の問題でもある。少なくとも、俺達が生きている間は無いだろう。チカラを取り込むのには時間がかかる。その上、取り込んだ後はしばらく行動が出来なくなる。奴が好き好んで隙を見せるとは思えん」

 と言った。やけに詳しいな、お前。


「奴は既に三人の“鍵”をその身に取り込んでいる。この、一帯を異空間に閉じ込める能力もそのうちの一人のものだ」

 ……お前、一体いつからあの黒ローブと戦ってんだよ。


「かれこれ二百年と少しか? どうでもいいだろうが、そんなこと」

「……」

 もう何だかキャリアがどうとか以前の問題だな。まあ、気にしないが。


「響輝さん」

「ん?」

 鈴が横に来る。

「ここからは私達は互いを庇い合う余裕はおそらく、ありません」

「……まあ、そうだろうな」


「だから、だから絶対に、私が危なくなっても、庇うなんてバカなことはしないでくださいね?」

 と、鈴は微笑みながら言った。


「……」

 一瞬、言葉に詰まる。


 自分がこいつを庇ったことを思い出したわけではない。

 こいつのこの笑顔が、あまりにもあの時を彷彿とさせるものだったからだ。


「そんな真似をしてあなたまで怪我をしては元も子もないですから」

 そう言って部屋を先だって出て行く鈴の微笑みは、


 あまりにも、あの時の姉さんの微笑みに、そっくりだった。

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