そして佳境は訪れる …5
きっと、この人はこれからも、例え“琴瑟調和”の影響を受けたところで、人を遠ざけるその冷たい姿勢が完全に克服することは出来ない。
それを自分でわかって、行動しているのだ。
……私は、そんな彼の居場所になりたいと思っている。
でも。
こちら側に共通する目的は、戌海琴音を奪還し、守ること。
それすなわち、響輝さんの生きる目的もそれであるということ。
“鍵”とそれの“逸れ者”には切っても切れない縁があり、二つは相互しあう関係にある。
その両者の関係は、いかなるモノの干渉をも退け、ただ法則に従って廻り続けるものとなるのだ。
それは磁石の極の考え方に近いだろう。“鍵”がN極、“逸れ者”がS極。
“鍵”と“逸れ者”は魅かれあう。
一方で、同じ存在である“逸れ者”同士が引かれ合うことは……ない。
ないはずなのに。
……この気持ちはなんだろう……。
再度、その自問が脳内に浮かぶ。
いつもの白い和装を着ている無い所為か、それとも、あんなことを叫んでしまったせいでたかが外れてしまったのか。
頭の中でいい訳というか、勝手な理由をつけながら、私は立ちあがった。
そして、片方の膝を彼の眠るベッドの上に乗せる。
ぎし、と古いそれは鈍い音をたてたが、響輝さんは目を覚まさなかった。
そのままもう一方の足も動かし、ものの数秒で私は響輝さんの上を膝で跨いでいた。
そのまま、彼が怪我人だということすらも忘れ、彼の胸板の上に頭を乗せる。
「……響輝さんが悪いんです……」
消え入るように囁きながら、仰向けに寝ている彼に身を任せ、背中に手をまわした。
「あなたが、私を助けたりするから……」
這うように上に進み、彼の顔がものの数センチというところで停止する。
「庇ったり、するから……!」
心臓が早鐘を打つ。
右手で垂れ下がっているポニーテールと耳横の髪をかきあげ、ゆっくりと彼の口に私の唇を重ね――――
(――――ヤメロ)
「ッ!」
そんな声が頭に響き、私は反射的に跳ね起きる。
(――――ヤメロ、イラナイ、トモダチ、コイビト、スベテ、イラナイ)
それはいわば、本能の叫び。
「や……やだ……」
小声で反論をする。
本能に、抗う。