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Lost Days  作者: 陽炎煙羅
七章 Ubiquitous grotesque~そして市街は腐朽する~
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そして佳境は訪れる …5

 きっと、この人はこれからも、例え“琴瑟調和”の影響を受けたところで、人を遠ざけるその冷たい姿勢が完全に克服することは出来ない。

 それを自分でわかって、行動しているのだ。


 ……私は、そんな彼の居場所になりたいと思っている。


 でも。

 こちら側に共通する目的は、戌海琴音を奪還し、守ること。

 それすなわち、響輝さんの生きる目的もそれ(・・)であるということ。

 “鍵”とそれの“逸れ者”には切っても切れない縁があり、二つは相互しあう関係にある。


 その両者の関係は、いかなるモノの干渉をも退け、ただ法則に従って廻り続けるものとなるのだ。


 それは磁石の極の考え方に近いだろう。“鍵”がN極、“逸れ者”がS極。

 “鍵”と“逸れ者”は魅かれあう。

 一方で、同じ存在である“逸れ者”同士が引かれ合うことは……ない。


 ないはずなのに。


 ……この気持ちはなんだろう……。

 再度、その自問が脳内に浮かぶ。

 いつもの白い和装を着ている無い所為か、それとも、あんなことを叫んでしまったせいでたかが外れてしまったのか。

 頭の中でいい訳というか、勝手な理由をつけながら、私は立ちあがった。

 そして、片方の膝を彼の眠るベッドの上に乗せる。

 ぎし、と古いそれは鈍い音をたてたが、響輝さんは目を覚まさなかった。


 そのままもう一方の足も動かし、ものの数秒で私は響輝さんの上を膝で跨いでいた。


 そのまま、彼が怪我人だということすらも忘れ、彼の胸板の上に頭を乗せる。


「……響輝さんが悪いんです……」

 消え入るように囁きながら、仰向けに寝ている彼に身を任せ、背中に手をまわした。


「あなたが、私を助けたりするから……」

 這うように上に進み、彼の顔がものの数センチというところで停止する。

「庇ったり、するから……!」

 心臓が早鐘を打つ。

 右手で垂れ下がっているポニーテールと耳横の髪をかきあげ、ゆっくりと彼の口に私の唇を重ね――――

(――――ヤメロ)

「ッ!」

 そんな声が頭に響き、私は反射的に跳ね起きる。


(――――ヤメロ、イラナイ、トモダチ、コイビト、スベテ、イラナイ)

 それはいわば、本能の叫び。


「や……やだ……」

 小声で反論をする。

 本能に、抗う。

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