そして佳境は訪れる …4
規則正しい寝息が聞こえてくる。
どうやら響輝さんは眠ってしまったらしい。
そして、私は再び黙想を始めた。
……ふと、響輝さんの方を見る。
いつも自分以外のすべてに対して威嚇姿勢を崩さない彼も、この時ばかりは普通の寝顔を浮かべていた。
急に胸の内に駆け巡る“何か”を感じ、私は目を逸らす。
……この気持ちは何だろうか……。
そんな理由もわからない、得体の知れない動揺を隠すため、別のことを思案する。
彼は、どうして戦っているのか。
生きるため、と言ってしまえばたやすい話なのだが、彼からはそのような空気を感じることは出来ない。
……しばらくして、答えは見つからないだろうと自問自答を止め、別の思案を始める。
「私が……、待っていてあげます」
あの時、“漆黒化”した響輝さんに向かって言った言葉を、今一度復唱してみた。
“彼”に戻ってきてほしい。その一心で叫んだ言葉の数々。
それは“逸れ者”である響輝さんにだからこそ、残酷なほどに通用するものだった。
大事な人を死なせてしまい、その復讐のために、人を殺した。
自分は人でなし。悲しみと怒りのあまり、そんな方法しか取ることが出来なかった。
きっと、そんな後悔を抱えながら、この人は今も生きているのだろう。
「でも、忘れないでくださいよ、響輝さん。私も……同じなんですから」
私も、人の事を言えた立場ではない。
ただ、復讐を果たしていない。
私と響輝さんの差はそこにある。私は今だに、憎き敵を斃せていない。
……それでなくとも、私と彼は同位相に存在する“逸れ者”なのだ。
もう一度、響輝さんの寝顔を見る。
彼の寝かされているベッドの傍らで椅子に座っている、私。
手を伸ばして、彼の頬に触れてみる。
……温かかった。それはまさしく、人の温もりだった。
どんなに迷っても、“漆黒”に堕ちても、この人は変わることなく“巽野響輝”なのだ。
そして、それはこれからも変わらないのだろう。