そして佳境は訪れる …1
人は、恋をする。
だがそれは永遠の物ではないらしい。
俺は恋なんてしたことが無いからわかりっこないし、何をど素人が、という話なのだが、何はともあれ愛が永遠でないのなら、はたしてそこに意味はあるのだろうか。
ただ、限られているからこそ、その希少価値が跳ね上がるのだという説もある。
だからといって、永遠の命を求める人が居なくなるわけではないし、“そういう”人並みはずれた連中の生き様に意味がないと断言はできないだろう。
……ああ、何考えてんだかな。
近頃、自分のなかの他人に対する感情と言うか、冷たい部分が柔らかくなっているような気がする。
琴瑟調和……か。戌海の力がそれほど強力なのかは知らないが、俺の心が溶けはじめているのなら、それは、傍目にはいい能力なのだろう。
俺にとっては、……どうなのか。
まだ結論は、出ていない。
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声が、聞こえた。デジャヴである。
「あ、起きましたか?」
どうやら俺は仰向けに寝かされているらしい。
背中の方にやわらかい感触があった。
目を向けると、鈴がわきに座っているのが見えた。
「あばら骨が何本か折れていたのと、腕の筋を痛めていましたね。他にも火傷が少々。……全く、これだけで済んでよかったものを。もし首から落ちていたら助からなかったかもしれませんよ」
鈴がカルテのようなものを見ながら言う。
「……お前が診たのか?」
「まさか。生き残りの中に医者の人がいたんですよ」
そう言う鈴は、最初に会った時よりずいぶんと風変わりしていた。
着ていた白い和装は暴走族と戦った時に駄目になってしまったらしい。
今の鈴は、白ではなく、黒い服を着ていた。
無造作に伸ばしていた髪をまとめ、いわゆるポニーテールにしている。
「どうしたんだ? 髪なんかまとめて」
「えっ……?」
鈴が自分の身なりを確認する。
「ああ。これは仕方ないのですよ! 服が駄目になっただけで、別に、別に……」
鈴が慌てたように言った。