からくも彼は漆黒に …5
――――――――――――――――――――――――――――――HIBIKI side
「――響輝さん!!」
――声が、聞こえた。
意識は闇の中。どうして自分がこの闇に包まれているのかも思い出せない。
ただ自分の名前が聞こえる方へ、ひたすら意識を向ける。
目を開けたら、そこには祗園鈴が泣きじゃくりながら俺を抱きしめていた。
……何だこの状況は?
そしてすぐに理解する。思い出す。
“漆黒化”。俺は闇に堕ちかけていた。
それまで思い出せなかった記憶が枷が外れたかのように溢れだしてくる。
あの時、どこにそんなに武器があったのか、数々の武器で武装した人々に囲まれ、俺は死を覚悟した。
その時である。
――おや、諦めちゃうのかい? 面白くないなあ。
拡声器か雑音混じりのボイスレコーダーを通したかのような声が、頭に響いた。
――君はいわば成金や龍王みたいな存在だっていうのに。ああ、将棋のことだよ?
なんだお前は。ついに俺は幻聴まで聞くようになってしまったのか。
――オイラは通りすがりの“黒帽子”さ。
まあ、何でもいいさ。それで? 幻聴よ。何が言いたい?
――幻聴じゃないってのに。まあいいや。君の質問に対する回答は、これさ。
……『“漆黒化”をするんだ。それですべて解決する』
声はそう言っていた。
だから、俺はその内なる声に意識を委ねた。それだけだった。
祗園鈴の声は言っていた。確かに聞いた。
『……あなたを、待っていてあげます』
……全く、何の冗談なんだか。
『ぎゅって、してください』
これは冗談だろ。
「響輝さん、あなたはいつもいつも、いつもいつもいつもいつも!」
鈴が叫ぶ。
「いや、すまない。これに関しては、謝ろう」
「何ですか、その譲歩したみたいな態度は。あなたは人に心配をかける才能がありますよ」
相変わらず酷い言いようだ。
だが、その顔は涙を流しながらも微笑んでいる。
まあ、それはともかく。今はだな。
「おい、鈴」
「……何ですか?」
「……その、あれだ。服、直せよ」
「え?」
鈴が下を見下ろす。
何があったのかは知らないが、酷くその和装を乱れさせた鈴が、顔を真っ赤にした。
「あ、あああああああ!! 見ないでください!! 見ないでくださいいいいいいいい!!」
「ぐああッ!!」
次の瞬間、大鎌の峰が俺の腹にめり込んでいた。
意識が遠のく。
空気を変えるにはこういうイベントを起こしてがらっと変えるといい、とどこかで聞いた覚えがあります。
次から新章です。