からくも彼は漆黒に …4
響輝さんが苦笑いを浮かべる。
「……“漆黒化”した状態で受けた傷は戻ったら反映されないらしい」
――まあ、もうなることはないだろうがな、と響輝さんが続けた。
「一体、どうしてあなたはこんな方法で……」
いや、むしろどうして“漆黒化”から戻ってこれたのか。
本来世界に見捨てられたら、消えてしまうはずなのに。それすら覆したとでもいうのか。
「そうではないさ。俺だって人間だ。でも……帰ってこれた。そういうことだろ?」
「ごまかさないでください。わたしはあなたが何故“漆黒化”したのか、と訊いているのですよ?」
響輝さんがうっ、と言葉に詰まる。
「……いや、なあ、ハーテッド」
『うむ。仕方ない話だ』
なぜ話を濁すんですか。
「いや、別に」
『うむ。特に問題ではない話だ』
「……もしかして、理由がない、とかじゃないですよね?」
「『ッ!』」
響輝さんが視線を逸らす。
「あ、あなたって人は……」
「いや、仕方ないだろ? さすがに全方位からナイフに銃弾にってのは、な?」
「五月蠅いです。ていうか、理由を言ってください」
「五月蠅いのはお前だろうが。気が付いたらああなってたんだよ」
「防衛機構だと?」
「そうだ」
自動発動? 世界の排除機能が?
「その話自体どうなんだよ。誰に訊いたんだ?」
「そ、それは……そう言われてるわけでして……」
「ほらな。そもそもお前らは“漆黒化”が何なのかすらわかってないんだろ? なのに俺が消されようとしてるなんて考え方は決めつけがすぎるってもんじゃないのか?」
「そんなことはありません! 一度見たことがあるんです。狩り人が一人、感情を暴走させて死んだところを。だから、間違いじゃないはずです」
「だが、俺は戻れたじゃないか。お前が呼びかけたおかげで」
「はうッ……」
不意打ちだった。
途端に、先ほどまで自分が叫んでいた台詞が頭の中を駆け巡る。
「ああ、あ、えーと、ですね。あの台詞は、えーと……」
「……ありがとう」
「えっ……」
一瞬、何を言われたのか、分からなかった。
それほどまでに、私は巽野響輝という人間を冷酷だと、そう見ていたのかもしれない。
だから、その言葉に、私の顔面は業火の如き温度で赤面した。
「えっ、今、何て……」
「何度も言わせるな。ありがとう、それだけだ」
「……ふふっ」
自然と、笑みが漏れた。
「……そんなにおかしいか?」
「いいえ、ふふっ……別に、おかしくなんか……ふぇっ……」
「笑いたいのか、泣きたいのかどっちかにしてくれよ……」
「響輝……さん」
「何だ」
何だか、あんな事を言ってしまったせいか、歯止めが効かなくなっている。
そんな、気がした。
「ぎゅって、してください」
「はあ!?」
たじろぐそのしぐさが面白かった。
「ちょ、お前、それはどうかと……」
改めて思う。
この人は、とても優しいのだと。