表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lost Days  作者: 陽炎煙羅
六章 Near rulernism~そして支配者はほくそ笑む~                                         
142/261

からくも彼は漆黒に …3

「響輝さんッ!!」


 あの男は左腕を銃弾にもがれた。

 おそらく出血多量で助からない。それでもまだ“巽野響輝”が追おうとするのは、すでに人としての理性や判断力が残っていない証拠。


 どうしてこんなことに……。


「…………」

 ふと、前に彼に向かって言った言葉を思い出した。


 ――『あなたが闘うと言うのなら、私はあなたの鎌となりましょう。あなたが諦めると言うのなら、今度こそ、死に損ないも終りましょう』


 ……何だ。わかっていたではないか。

 そう言ったのだ。


 言ってしまった。


 言葉の強制力、なんてものではない。

 同じ、全くの同じ、見た目ではなく、中身やしぐさの共通点。

 一枚の鏡の裏と表。


 それに()ってしまうことは、ある意味一種の麻薬。

 自らがこうである、という事実を常に見せつけられているような羞恥。

 私もただ、出会ってしまったのだ。


 彼と“鍵”のように。


 物語を左右するのは……否、盤上を翻弄するのは、決まってイレギュラーな存在。

 彼について行けば、私はこの復讐の楔を解き放てると思っていたのだ。


 そう、ある一種の依存性。それこそが、私の感情。彼に対する無表情を形作る全て。


 だった、はずなのに。



「ッ……」


 思わず立ち上がり、“巽野響輝”を後ろから抱き締めた。


 漆黒の血液が白い和装にしみこみ、色を変えていく。


 それでも“巽野響輝”は、ただ機械仕掛けの人形のように、男の駆けて行った方へ向かおうとする。


 だが、私が抱きしめていた事も相まって、片足だけで立っていたその身体が床に倒れ伏した。


「響輝さん……。……響輝さん!!」

 顔面には黄色の球。

 表情なんてものはない。


 それでも呼びかける。

「どうして!? どうしてあなたはそうやって、一人で抱え込もうとするのですか!? 人々を守る? “鍵”を奪還する? “恐鬼”と斃す? 寝ぼけたことを言わないでください!!」


 それまで私の腕から逃れようとしていた“巽野響輝”の身体が停止する。


「“鍵”……戌海琴音を奪還して、敵を倒してハッピーエンド? 笑わせないでください! みんなが最後に笑えても、そこにあなたの骸が転がっていたら駄目なんです!!」


 もう言葉を濁さない。私は最後に、親友に伝えきれなかった。

 二度と、その過ちは犯さない!


「あなたが死んで、堕ちて、それで何もかもが解決すると思っているんですか!? 違います!! 確かに、あなたも私のように大事な人を守れなかった。復讐までして。……確かにそれを聞いたら。誰もあなたを認めないかもしれません。死ぬしかないと思ったのかもしれません!! でもッ!!」


 だから。せめてこの人を――

「死んだら終わりです! たとえ誰もあなたの帰りを待っていなくても、私がッ! 私……が……」


「……あなたを、待っていてあげます」


 ――失いたく、ない――


「……はあ」

 ふと、そんな間の抜けたような声が聞こえ、上を向く。


 涙でくらむ視界に映る、その人の顔。

「……全く。何の冗談なんだか。お前に慰められるようじゃ、俺はこの先生き残れないかもしれないな」

 響輝さんを覆っていた漆黒の液体がはがれおちるように床に流れて行く。


 元の位置にもどった両腕を鳴らしながら、響輝さんがこちらを見下ろした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ