サレド少女ハ朦朧ニ …7
人間、自らの危機を理解すると、悪い想像が止まらなくなるものだ。
「くッ……」
度重なる戦闘を繰り返し、身体にも疲労が見え始めている。
男達の組み伏し方は実に正確だった。
いくら身体が丈夫になろうとも、関節や骨の位置が変わるわけではないので、相手の行動を封じることに意味のある関節技を受けてしまうと、大抵の“逸れ者”は無力化されてしまう。
この男、思った以上に計算高い上に狡猾だ。
「リーダー、この娘、どうするんですかい?」
私を組み伏しているうちの一人が今だ銃を構えている男に訪ねた。
「連れて行くぞ。活きのいい娘は大好物だ」
後ろでおびえている人々に銃で威嚇しつつ、男が答える。
「おいおい嬢ちゃん、抵抗はするなよ。後ろの弱そうな連中を撃っちまうぜ?」
「……」
何も言い返せない。
かといって、私がここで力任せに男たちを跳ね飛ばしたら、その間にこの男は後ろの人々を何のためらいも無く撃つだろう。
今の私は、とてつもなく無力だ。
嫌な想像が私の頭を駆け巡る。
これから自分が、どんな凌辱を受けるのか、想像しただけで怖気が走った。
「んー、そうだな。 お前らにもおこぼれやるからよ。ここで襲っちまうってのはどうだ?」
突然、男がとんでもない事を言い出した。
「ええ!? いいんですか?リーダー」
私を組み伏している男が二人とも、私の苦しげな表情を見る。
「ああいいともさ。やりたいことは全てやる。それが俺らのポリシーだろ?」
男たちが顔をにやつかせる。
気持ち悪い。冗談じゃない。
何で私が、こんな目に……。
襟を掴まれ、力任せに吊りあげられ、服をはだけさせられる。
恥辱の極みだ。だが抵抗は出来ない。
後ろに居る人達に逃げるよう言いたいが、男が銃を向けている以上、無謀な賭けはできない。
「さってと。じゃあ俺から……」
と、男が言い始めた時だった。
「あ……あぁ……あ……」
ふと耳に入る、声にならないような声。
目だけを向けると、震えていた女学生が、私達の方を指さして怯えたような声を出していた。
最初、私はそれがこれから始まるであろう酷い光景を暗示したものだと考えた。
男たちもそう感じていたに違いない。
ただ、少しして、その怯えようが尋常ではないことに気付く。
「な……なによ、“あれ”……」
その指が私達を通り越した、さらに向こうを指していると気付いた時、その“感情”は訪れた。
「あ……ぐッ……」
特に何を見たわけではない。何かに触れたわけでもない。
ただ、急に心を抉る、激しい呪詛の念。
猛烈な吐き気が頭を襲った。
そして、それが自分の抱く、“支配者”への復讐の念にも似ていることに気付いた時、私は背後の通路の先にいるモノが“何”なのかを悟った。
「な……なんだよ、あいつ」
男の銃を持つ手ががたがたと震えている。
対する私も震えを抑えきれない。奥歯がかち、かち、と音を立てる。
私を掴んでいた男の手が力無く離れ、身体が床に落ちる。
ゆっくりと振り向く。
「……ぅ……」
その姿を見たとたん、身体の震え、危機感がさらに高まった。
左腕はチェーンソーの刃が絡みついてあらぬ方向へ折り曲げられている。
右腕は切り傷だらけで、ほとんど皮一枚で胴体につながっている。
左足は脛辺りに風穴が空いており、ろくに歩けそうもない。
唯一傷の無い右足で、そのぼろぼろの身体を支え、“その人”は立っていた。
赤ではなく、真っ黒な血を歩くたびに噴き出しながら、後ろに漆黒の血だまりを作りつつ、
一歩、また一歩とこちらに近づいてくる。
顔面も漆黒。左眼と思わしき部分には、電球のように光る光点が一つ。
「…………」
おそらく知っている人にしか判別できなかっただろう。
変わり果てた“巽野響輝”が、そこにいた。