サレド少女ハ朦朧ニ …4
閉ざされた街。
いわば、そこは狂気と恐怖の溢れた化け物の巣窟。
それと同時に、法も秩序も人徳も外道も関係の無いただの盤上でもある。
“支配者”はゲームマスター。
俺達や“恐鬼”、そのすべてが盤上の駒。
駒は自分勝手に動き回り、誰も想像の出来ない方向にゲームは進んでいく。
祗園鈴はこの闘いを負け試合と称した。
理由は、所詮、自分たち“逸れ者”と“鍵”は世界に見放された要らない存在だから、だそうだ。
「クソ餓鬼が!」
そう男が叫び、引き金に手をかける。
瞬間、銃弾が腕をかすめる。
だが俺はそれを感じない。
意識の全てが標的に集中していた。
地面を蹴り、ナイフを展開しながら走る。
「ちょ、何なのこのガキ!」
女が包丁を取り出し、こちらに切りかかる。
が、その刃は俺のナイフのギザギザした峰に受け止められる。
いわゆる、破壊峰。くぼみに相手のナイフなどをはめ、相手の刃をへし折るための峰だ。
思いっきりナイフを曲げるように手首をひねり、それと同時にばきっ、という音がする。
「なっ……」
根元から刃をへし折られた女が驚いたようにたじろぐ。
その瞬間を逃しはしない。
「ぎゃあっ!」
女の懐に拳を打ち込み、翻える。
「おい、手前、化け物か……!?」
男の方に向き、ナイフを構える。
「……半分はな」
「お、おい、待ってくれよ。止せって。分かった分かったら」
男が焦ったように言い、ハンドガンをぽいっと捨てる。
「ほら、これで俺の武器は無いぞ! 俺は攻撃出来ない。だから見逃してくれよ、な?」
「……」
俺はナイフを閉じ、ポケットに収める。
そして、男を置いて病院の正面玄関の方へ歩きだ―――――
「――――なんてなあっ!!!!」
男が懐から大型ナイフを取り出し、無防備な背中に斬りつける――――
「――――黙れ」
「な……」
俺の手はそのナイフの刃を受け止め、握りしめている。
隙間から血が流れ、地面に滴る。
「な、何なんだよ手前、頭おかしいだろ!? 普通手で受け止めるか? 手だぞ!?」
ポケットからベレッタを取り出し、男の眉間に突きつける。
「……お、おい、待ってくれ。今のはちょっとした気の迷いなんだ。な?」
弾を装填し、引き金に指をかける。
「おい、マジかよ!? 止めてくれ、頼むから、な? おい、止めろって。お―――」
引き金を引く。
ぱあん。
いい音がした。
男が泡を吹いて転がっているのを見ながら、俺は病院の正面玄関をくぐった。