サレド少女ハ朦朧ニ …3
『それで、どうするつもりなのだ?』
腰でハーテッドが話しかける。
「襲っている奴らを無力化する」
俺は端的に答えた。
『ふむ。“襲われている人を助ける”ではないのか?』
「……意味は変わらないさ。ちなみにこの場合、その奴らには“恐鬼”も含まれるからな」
『分かっている』
手元にはナイフが一本。ベレッタが一丁。ただし、銃弾の補給は無い。
地上を歩く“恐鬼”はまだここの戦闘に気付いていないようだった。
だから今警戒するべきなのは、空を移動できる“恐鬼”。
羽根を持つ、異形のモノども。
ハンドガンでは五階建ての病院のはるか上空を狙撃することは出来ないだろう。
なら、まずは病院の中に入らなければならない。
「……だがッ!」
病院の正面玄関の近くの道に出て、俺は歩みを止められた。
瞬間、足元の土が何がが当たったかのように抉れる。
コンマ数秒遅れて、乾いた音が耳に反響した。
『狙撃か!』
ハーテッドが声を上げる。
顔を上げると、病院の端の方、三階の端の窓できらりと光るものがあった。
もうあそこまで入り込まれているのか……。
もしかすると、大半の人が助からないかもしれないな。
『だが、やれることはやる、であろう?』
言われなくても。
銃弾が髪の毛をかすめる。
俺は無造作にポケットからベレッタを取り出すと、弾を装填し、片腕を上げた。
グリップを握り、引き金を引く。
ぱあん、というお決まりの音と共に、三階に居た狙撃手が銃を取り落とした。
そのまま銃は落ちて行く。拾いに戻るには、一度一階まで下りなければならない。
病院内の狙撃手は無力化。
次は。
「おい、ガキが一人でのこのこ歩いてるぜ?」
「あらボクゥ、こんなところで遊んでちゃ駄目じゃないの~」
正面玄関の前で佇んでいる、太り気味の男と、にやにやしている女。
おそらく見張りなのだろう。
「おいクソ餓鬼、止まれよ。止まらないと……」
男がポケットからリボルバーを取り出す。
「撃っちまうぜぇ?」
「駄目よ。せっかく子供を見つけたのよ。たっぷり苛めてあげないと」
男も女もにやにや笑っている。
そうだな。しばらく忘れていた。
そういえば、大人からしてみれば、俺はただの子供なのだ。
こんな狂った街でも、未だにそんなくだらない年功序列に似た何かが残っているらしかった。
結局のところ、生きるか死ぬかなんて、個人の技量次第だというのに。