ただ少年は辛みも喰わず …3
「――――――――――――」
声が、聞こえた。
「―――――――ん」
俺をまどろみと睡眠から呼び戻す、声。
まるで鈴の音のような、凛とした音色。
「―――――き―――さん」
うるさいな。俺は眠っていたいんだ。
どいつもこいつも俺の邪魔ばかりしやがって。……別に何かをしている最中という訳でもないが。
しかしあの“偽魔女”め。出たい時に出てきやがって。
出るなら本物の方に出てほしかったところだ。全く。
「―――――響輝さん!」
「ぐはっ!」
いや、分かってた。今起きようとしてたのに。
「起きてください、響輝さん。起きてください」
「いや、痛いから。柄は止めろ峰もやめろ」
もう起きてるから。
「死なないでください! 響輝さん!」
「死んでないッ!」
痛い痛いお前何か俺に恨みがあるのか? あるなら今のうちに言っとけよ。
「いえ、別に」
無いのかよ。
「ここ最近響輝さんの態度がらしくないので、鬱憤を晴らさせていただきました」
敬語にムカつくなよ、俺。もうこいつと戦っていけないぞ。
「もう、眠気が覚めるまでそこにいてください」
鈴が部屋の外に出て行く。
「よお、兄ちゃん。目は覚めたか?」
ふと顔を上げると、ライフルを持った男がこちらを見下ろしていた。
あの時銃を突きつけていた男か。
「俺は五十嵐という。お前は?」
「……巽野響輝」
「そうか。まあ、よろしく頼むぜ」
そういえば、休息を取る前に一通り残っている人々の紹介はされたが、この人だけはされてなかったな。
「ああ。実銃を持ってるのは俺とあと二人だからな。俺は見回り係さ」
「そうですか」
そうか。今は化け物共との負け試合の最中だったか。
五十嵐が部屋から出て行く。
「はあ……」
『ほう。お前がため息とは、珍しいな』
「五月蠅いな。ほっといてくれよ」
『む。五月蠅いとはなんだ。もう話してやらんぞ』
「すいません」
しかし、暇だな。
ここは恐鬼の襲撃は無いのか。
「ガキの癖に生意気な。お前なんざが敵を侮るのなんて百年速いぞ」
浅滅が俺が壁にもたれて眠っていた部屋に入ってきた。
「お前がその台詞を言うと何故か様になるな」
「当然だ。俺にしてみれば、人類は全員年下だからな」
そういやそうだ。
特にすることも無いので、そんな事を吟味しながら、人類皆年下! などと叫びながら部屋を出て行く浅滅を眺める。