ならば少女は悲愴に浸り …2
リノリウムがわずかな病院内の明かりに反射してうっすら光っている。
その中に響く三つの足音。
「しかし、お前、事情は分かったが、何で壁ぶっこわしてまであそこまで来たんだ? 別に普通に階段を上ってくればいいだろうに」
「えっ……」
前を歩いていた鈴が足を止める。
「そ、それはですね……」
急に声が不安定になった鈴が片手に持った大鎌を下ろす。
「それは、えーと、何と言いますか……。響輝さんが壊れて行くのを感じたら、居ても立ってもいられなくなって……あーもう! 何なんですか!? 今はそんなことどうでもいいでしょう!」
なんか怒られた。
「ほら見ろ、少年。あいつはあんな奴なんだよ。見たかよ? あの顔」
「あなたは五月蠅いです! 黙っててください」
わざとらしい浅滅のからかいにも過敏に反応する。
よくわからんな。
『お前もつくづく嫌な奴だな、響輝』
「今度はなんだよ」
『いいか? 人にはな。聞かれたくないことというものがあってだな……』
何か機械が人間について語り出したし。
「ここが西病棟の三階です。たしか、ここの奥に……」
そう言いながら、鈴が廊下の突き当たりの大きな扉を開け、すたすたと中に入って行った。
「はあ……まだ生き残りが居たと……」
俺もそれに続いて部屋の中に入った瞬間、
「は、な……」
俺の顔に、二丁分の銃口が突き付けられた。
「うおおっ!?」
反射神経(どうやらこれも強化されているらしい)を無意識に使って銃口をかわす。
「こいつ! 嬢ちゃんをつけてきやがったんだ!」
横目で見ると、がっしりした男がその手にライフルを持っているのが見えた。
「この外道! ここでハチの巣にしてやる!」
もうひとつの銃口は、若い青年の持つ、マシンガン。
こいつら、何勘違いしてやがる……!
「こんの……」
「はいはい通りますよーっと」
俺が激昂しようとした瞬間、俺と銃口の間を、浅滅が悠々と通って行った。