かくて少年は破滅に向かう …7
「あなたの周りにはたくさんの人がいたはずです。あなたが歪んでしまう前にも、その後にも。きっと皆があなたを心配して、気遣ってくれていたはずです」
「……それは……」
一言ずつ、ただ、たしなめるかのように、鈴は言う。
「あなたは拒絶しすぎた。あまりにも孤独過ぎた。きっと誰もが、あなたが心を閉ざしてしまったと思って、関わるのをやめていったのでしょう」
「だから、それは俺が……」
「でも」
鈴が語調を強める。俺に反論する権利は無いらしい。
「きっとそれは大きな勘違いだったんじゃないですか? あなたは待っていた。自分の歪んだ心を見ても、自分と接しても、変わりなく、普通に接してくれる人を。こんなあなたにも、心からの笑顔を向けてくれる人を」
「……」
一つ、一つ。叱られているわけではない。優しい口調。
でも、今の俺には、それがあまりにも苦痛に思えて仕方なかった。
思い出す、顔。母さんや、親父。学校のクラスメイト達や、姉の知り合い。
みんなが、俺を見てくれていた。
……なのに、思い出せるのは、心配そうな、自分の声が届いていないと確信した時の、皆の落胆の表情。
拒絶。圧倒的で、看破することのできない心の壁。
「それが、引っ越した先、自分の暗い過去なんて知りもせずに声をかけ、笑いかけてくれた、お隣の、ただの女の子。“鍵”であり、このクソったれの運命に巻き込まれた少女、戌海琴音だったのでしょう?」
「…………」
返す……言葉も無い。
「あなたは表面上は変わっても、心の底では求めていた。確信を持って言えます。なぜなら、……わたしも同じだから」
「何だ……」
ぎゅっ。
「……と……」
俺の言葉は、そこで中断された。
「だから、わたしは辛かった。心配……してたんです……よ……この……大うそつき……」
俺の背中に手を回し、その華奢な身体を押しつけて、祗園鈴は再び泣きだし始めた。
「やっと……共有できる……人を見つけたんです。……長かった……さみしかった……よう……。独りぼっちは……嫌……嫌なの……」
「…………」
本音だった。
いや、衝撃とも言おうか。
抱え込んできた感情。
この小さな女の子が抱えている何百年分もの感情が、今、俺に向かって流されていた。