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Lost Days  作者: 陽炎煙羅
六章 Near rulernism~そして支配者はほくそ笑む~                                         
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かくて少年は破滅に向かう …7

「あなたの周りにはたくさんの人がいたはずです。あなたが歪んでしまう前にも、その後にも。きっと皆があなたを心配して、気遣ってくれていたはずです」


「……それは……」

 一言ずつ、ただ、たしなめるかのように、鈴は言う。


「あなたは拒絶しすぎた。あまりにも孤独過ぎた。きっと誰もが、あなたが心を閉ざしてしまったと思って、関わるのをやめていったのでしょう」

「だから、それは俺が……」


「でも」

 鈴が語調を強める。俺に反論する権利は無いらしい。


「きっとそれは大きな勘違いだったんじゃないですか? あなたは待っていた。自分の歪んだ心を見ても、自分と接しても、変わりなく、普通・・に接してくれる人を。こんなあなたにも、心からの笑顔を向けてくれる人を」


「……」

 一つ、一つ。叱られているわけではない。優しい口調。


 でも、今の俺には、それがあまりにも苦痛に思えて仕方なかった。

 思い出す、顔。母さんや、親父。学校のクラスメイト達や、姉の知り合い。

 みんなが、俺を見てくれていた。

 ……なのに、思い出せるのは、心配そうな、自分の声が届いていないと確信した時の、皆の落胆の表情。


 拒絶。圧倒的で、看破することのできない心の壁。


「それが、引っ越した先、自分の暗い過去なんて知りもせずに声をかけ、笑いかけてくれた、お隣の、ただの女の子。“鍵”であり、このクソったれの運命に巻き込まれた少女、戌海琴音だったのでしょう?」

「…………」


 返す……言葉も無い。


「あなたは表面上は変わっても、心の底では求めていた。確信を持って言えます。なぜなら、……わたしも同じ(・・)だから」

「何だ……」


 ぎゅっ。

「……と……」

 俺の言葉は、そこで中断された。


「だから、わたしは辛かった。心配……してたんです……よ……この……大うそつき……」

 俺の背中に手を回し、その華奢な身体を押しつけて、祗園鈴は再び泣きだし始めた。


「やっと……共有できる……人を見つけたんです。……長かった……さみしかった……よう……。独りぼっちは……嫌……嫌なの……」

「…………」

 本音だった。


 いや、衝撃とも言おうか。

 抱え込んできた感情。


 この小さな女の子が抱えている何百年分もの感情が、今、俺に向かって流されていた。

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