かくて少年は破滅に向かう …6
いたたまれない気持ちになった。
こんな感情は久しぶりだ。何だか、酷く、申し訳なく、哀しい感情。
「ううっ……響輝……さん」
「……何だ、よ」
俺より背の低い、俺より年長者の少女が顔を上げる。
その端正な顔は、今、涙に濡れていた。
「あなたと別れて、病院を探索していた時に……、急に、あなたの心が揺らいだのを感じま……した」
「……」
俺は黙ってしまう。話に驚かされたからでも、いまさら恐怖におののいたわけでもない。
ただ、この泣いている少女に対し、無性に情けなく、謝りたい気持ちになってくる自分に対して、驚愕していたのだ。
「それから……だんだん、あなたの心が……壊れて、真っ黒になっていって……」
「……」
「……嫌だったんです」
急に、鈴は言った。
「……何がだ」
「……あなたの眼を見た時から、感じていた、この、感情。……あなたは、酷く、とても酷く、私に似ていた。鏡を見ているような感覚でした。まるで、常に自分を見せつけられているような、羞恥にも似た感情」
……そう、か……。
今分かった。
俺は確かに感じていた。この少女の話を聞いた時からずっと。
同族意識に近い何か。むしろ、感情の拠り所を探し合うかのようなやりとり。
俺に、似ているのではない。
……否、俺が、こいつに似ていたのだ。
こいつが自分の“鍵”を失ったのは、はるか昔。それこそ俺なんか一片たりともこの世に存在していなかったころ。
そのころから、何十年、何百年もの時を、この少女は復讐のために生きてきたのだ。
……いや、闘ってきたのだ。
……いつだったか、自問自答した問題。
『なぜ俺みたいなやつが、こんな少女と行動を共にしているのか』
……深く考える必要もない。答えは酷く単調なものだった。
“俺は、この少女が、祗園鈴が壊れるところを見たくなかったのだ。”
そばにいたかった。同じものを見ていたかった。
きっと、鈴もそうなのだろう。
ようやく分かった。どことなく、警戒心も抱かずに接していた理由。
鈴が、時間を浪費してまで、打ち上げられていた俺が目を覚ますのを待っていた理由。
「……どうしようもなく似ているのか、俺達は」
「……そうですね」
鈴は続ける。
「私も、あなたが壊れるところを見たくなかった。同じ存在が壊れるのを阻止したかった。理由なんて、実際は軽い物なのですよ」
「そうだな」
「だから……あなたが壊れて行くのを感じた時は、胸が……張り裂けそうでした」
一言ずつ、紡がれていく言葉。
その言葉は、俺を気遣ってくれている少女の、ほんの一片の、心の欠片。
「誰もあなたの味方じゃない? そんなわけないじゃないですか。あなたの心の叫びが聞こえました。……“独りぼっちは嫌だ”」
やめろ、復唱するな。
「そんな言葉、あなたからは聞きたくなかった。諦めてほしくなかった。何より、あの“支配者”の所為であなたが壊れるなんて、あってはならない」
「……」
「どうして、思い込むんですか? 一度よく見回してみなかったんですか? あなたの周りには、きっと、たくさんの味方がいてくれたのに」
俺はその言葉に、息をのむ。