かくて少年は破滅に向かう …3
「“支配者”は周到な奴だ。奴は街を囲いきるまでに戌海琴音が出て行くことも視野に入れていた」
声を落ち着かせながら浅滅が言った。
「この空間を解放するには、“支配者”を倒さなければならない。だが、それだけでは駄目なのだ。その時、空間内に“鍵”がいなければ、街は永遠に異空間を漂うことになる」
「だから……、戌海を連れ戻したのか」
「そうだ。物わかりの悪いひねくれたガキに一つ聞こう。……おまえはなぜ戌海琴音を逃がしたのだ?」
それは鈴が言っていた。
戌海の中の鍵、それの持つ琴瑟調和という能力の所為で、俺の性格は変化しつつあるらしい。
その過程でうっかり魔が差して、助けようと思っちまったんだろう。
……それ以外に、あり得ない。
「お前は歪みそのものみたいな奴だな。……いいか? お前は“逸れ者”であり、戌海を助けた。好いてもいないのに」
「だから……何だ」
「いつ死んでもいいとでも言いたげな顔をしておきながら、人を助け、“恐鬼”を狩る」
「……」
「矛盾。行動の矛盾。感情の矛盾……」
浅滅が黙る。
俺は腹部に押し当てられた銃口を見つめる。
「はっきりしろ。今ここでお前の意志を言え。それでもまだ死にたいというのなら、今、ここで俺が殺してやろう」
「ぐっ……」
俺は……。
『……選べ、響輝』
何を……選べというんだ。ハーテッド。
『自分に嘘をつかず、と言えばベタになるが、そういうことだ。茜が死んでからのお前の人生は、全てを拒絶し、否定し、悲感に暮れ、ただの虚寓と化していた。それを切る時が来たのだ』
嘘なんて、ついていない。俺は、俺の為に生きてきた。それだけだ。
固執なんかしていない。姉さんのことはもう振りきったはずだ。
俺はもう独りでも生きられる。
誰にも頼らない。解決し、踏み潰し、生きる。
「その機械もなかなか面白い事を言う。因果に歪まれた、悲劇の少年でも演じているつもりなのか? ふん、甘えるな。お前だけじゃない。お前だって、ただの一人の人間でしかない。誰にでも悲壮に暮れる時はある。諦めたい時だってある。それを知ってなお生き続けるからこそ、人はそこで確固たる“一人”として輝くのだ」
うるさい。
『響輝。お前は手を差し伸べてくれた人々をどうした? 何故受け入れられなかった? 何故拒絶した? 皆はお前のことを一心に考えて、助けてやろうとしてくれていたというのに、貴様はどうしてそれを拒否する?』
うるさい。
うるさい。
「選べ、さもなければ、お前を……」
そこまで言ったところで、浅滅が口をつぐんだ。
「クソッ……奴か。こんな時に……!」
やつ……? だれだそれ。ルラーのことか?
どいつもこいつもうるさい。
カツーン……カツーン…………
「くっ……“支配者”め。今度こそ……」
あさけしがショットガンをとりだす。
ろうかのはしの、まがりかど。
そのむこうから、“そいつ”……“支配者”はあらわれた。
その手で、戌海琴音の胸倉を掴んで……!!
「何……!?」
あさけしがあわてたようにさけぶ。うるさい。
『戌海琴音……やはり、この街に……』
うるさい。
「……ふはは、どうやらずいぶんといいタイミングで出て来れたようだ。やあ、“狩り人”に“逸れ者”。久しいな。今回は貴様らにゲームの佳境を見せてやろうと思い、わざわざ貴様らの求めている“鍵”を連れてきてやったぞ」
「う……くっ……響……きくんっ……」
“支配者”が、いぬかいのくびすじをつかみ、たかだかともちあげた。
からだが、ちゅうにういている。
「では、まだまだ五体満足な貴様らの為に、一つ宣戦布告をしてやろう」
そういうと、“支配者”はそのままいぬかいのくびをにぎるてに、ちからをこめはじめた。
「ぐう゛う゛……響輝……ぐっ」
「まさか、貴様! 止めろ。今のこいつにそんなものを見せたらどうなるか……!」
となりであさけしがさけぶ。うるさい。
「……そうだ。今ここでこの“鍵”の首をへし折れば、そこの“逸れ者”はどうなるか……ふふふふふ」
めりっ。
いやなおとがした。
……いぬかいの、くびをへしおる?
「止めろ!“支配者”! ……くそっ! おいガキ! 見るな!」
「ふはは、では、後半戦だ」
「響……きっ……ごふっ……」
ごき。ばき。
めのまえで、いぬかいのくびがへしおられた。
「……いぬ、かい……」
戌海が死んだ?
いま、こいつに首をへし折られて?
死んだ? 俺なんかに想いを寄せたから?
姉さんのように?
死んだのかいなくなったのかねえさんのようにおれにかかわったからにどとはなすこともわらうこともなくともにあるくこともあさあうこともなにも……
深刻なエラーが発生しました(響輝君に)。
……なんちゃって。