いかに少女が辛くとも …4
コンクリートで固められた地面を踏みしめ、階段を一段一段登っていく。
一歩踏み出すたびに乾いた音が鳴る。
……良く考えると、ホラーアクションとかでよくある病院内での戦闘は、人間側にとってはかなり不利な条件が揃っているよな、などと考えてみる。
リノリウムは底の堅い靴だと音が立つし、病院には曲がり角も多い上に、災害時の安全のためか、建物自体かなり頑丈で、なにより音がよく反響する。
相手が積極的に攻めて来ないと、ホラー映画の主人公たちはどうしようもないのではだろうか。
まあ、狙う側にとってはどうでもいいことか。
『しかし響輝よ。貴様、戌海が死ぬまでの時間とは言ったが、それは具体的にいつまでだ?』
「うっ……」
そういえば。
あること無い事言って逃れていたが、ここで突かれるか。しかし、結局のところ、人間が生きるのに理由なんて無いぜ?
『それも逃げの一手であろうが』
「うぐ……」
最近のこいつは痛いところばかり突いてくるな、全く。
などとくだらないことを考えながら、壁の階表示を見る。
三階。その上は四階だが、確かここは七階まであるはずだ。
そう思った時だった。
「くあっ……」
再び、階段に反響して銃声が響いた。
くそっ。騒音被害だ。
しかし、相手が銃を持っていて、俺がその前に立って、はたして交渉など出来るのだろうか。
仮に仲間を増やして、“支配者”や恐鬼どもに戦いを挑んだとして、だからなんなのだろう。
俺はどうしてここにいる?
戌海の代理? 否、それは他愛もないただの戯言だ。逃げ場の無い狂言でしかない。
……そうだ。俺は怖がっているのだ。
昔も今も変わらない。復讐の炎が思考を焼き尽くし、それ以外のことを考えられなくなった。
そして、その復讐が果たされた後には、その炎のあった空間にぽっかりと穴が空いた。
炎は消え、後には冷たい風が吹き荒れるだけ。
俺は人が怖いのだ。もしかすると、あの戌海の偽物以上に。
……そうだ。何故気付けなかったのか。
いや、気付きたくなかったのだ。自らの手で封印していた。
俺は冷静沈着を越えて冷酷無情の域に達しつつある人間だ。自覚している。
人を寄せ付けないオーラを放って生きてきた。いや、むしろ死んできた。
だが、本当は恋しかったのかもしれない。
姉さんを失ってから、俺は両親にもどこかよそよそしく接するようになった。
俺は、きっと怖かったのだ。
化け物に対する恐怖よりも、それはずっと大きい。
だからこそ、俺は恐鬼にとって異常でイレギュラーなのかもしれなかった。
「……いけないな。柄じゃない」
何をいまさら考えているのだか。
俺はそういうものは捨てたのだ。人とはかかわりたくない。
『それは自分を騙しているだけではないのか?』
「そうなのかもな」
……全く、こいつはいつもいつも……。
だが、結局のところ、俺は後悔しているのだ。
戌海を逃がしたことに。
仮に再びあいつに会ったとしても、俺は何も言えないだろうな。
――六階にさしかかったときだった。
ぴし……
「?」
急に壁にひびが入った。
なんだ? 地震なんか起こってな……。
『響輝! 上だ!』
「ッ!」
その声にとっさに身体をかわすと、さっきまで俺が居た場所を突きぬけていく“何か”があった。
何だ……?
さすがに壁を破るような相手とは戦える自信がないぞ。
そう思った時、開いていた非常口の向こう、七階の廊下の方から、叫び声が聞こえた。
「どけ! ガキが!」
否、怒号だった。
短い(汗