いかに少女が辛くとも …3
まるで風のように院内を駆ける鈴を俺は追う。
しかし、最近俺活躍してないな。まあ、する気もないが。
「ここですね」
鈴が西棟と書かれた掲示の前で立ち止まった。
「強力な“恐鬼”の気配がします。死なないでくださいよ、響輝さん」
誰が死ぬか。元より俺はお前について行った方が戦力増強になるからここにいるのだ。
そもそも俺は生きる理由がない。
あの時、橋から落ちた時に死んだってどうでもよかったのだ。
俺は今、ただ生きているだけなのだ。植物状態となんら変わりない。
「そこまで卑下されると私まで気分が悪いです」
扉を開けた鈴が言う。
五月蠅えな。最近忘れかけていたが、俺はそういうキャラなんだよ。
「まあ、私も同じ“逸れ者”だという理由からあなたと一緒にいるだけなんですけれどね」
その通りだ。お互いの損益が一致しているだけであって、所詮、お前と俺……いや、人と人の関係性などそれだけのものでしかない。たった少しの不都合性や不合理性があるだけで、人は人を切り捨てる。
いらないものと判断する。
「御託は聞き飽きました。まず生存者を捜しましょう。恐鬼に遭ったら斃してください」
そう言うと、鈴は振り返らずに、右の方へ歩いて行った。
「おい……」
「二手に別れましょう、と言ってるんです。私は中央階段から。響輝さんは裏の非常階段から上に行ってください」
……命令するなよ。まあ、従うけれどな。
「御託は……」
「わかったようっさいな」
せいぜい頑張ってやりますよ。
持ち物はバタフライナイフとベレッタ。
なんとも心細いが、鈴が言うには俺の身体能力は向上しているらしい。実感は無いのだが。
戦える。今の俺なら。せめてその力、俺が復讐に燃えていたころに欲しかった。
既に鈴の姿は見えない。
……仕方無い。やるしかないな。
俺は非常階段に続く扉を開ける。鍵はかかっていない。
上に登ろう。
そう思った時だった。
「ッあ……!」
耳をつんざくような鋭い音が上から反響してきた。
銃声だと……!?
生き残りには銃を持っているやつがいるのか。
警戒しなければならないな。
俺は階段の一段目に足をかけた。