いかに少女が辛くとも …2
病院には誰もいない。まあ、当然だが。
「奴らはここにはいないのか?」
無人の病院なんて、絶好のシチュエーションだと思うが。
「奴らにシチュエーションなんか関係ありませんよ」
前を歩く鈴が振り向かずに言う。
リノリウムの床が歩くたびに乾いた音を立てる。
これでは音が立ちすぎる。ここでの戦闘は避けた方がいいな。
「そうですね。元より、救命用具を頂いたらここに用はありませんし、すぐに出ますよ。“恐鬼”は人間の居る数だけ存在します。それはつまり、数で勝れないですが、人があまりいない場所の方が安全だということなのです」
人の数だけ恐鬼は存在し、人のそばには恐鬼が存在する。
仲間が多い方が、むしろ危険……。
「ですね。助けを求める人々は助けます。ですが、それ以外は……」
どうかしてるな。
この世界の仕組み自体、間違っている。
「ですが、それが現実です」
相変わらず冷たい奴だ。俺みたいだ。
「人聞きが悪いですね。響輝さんに似てるだなんて、この上無い屈辱ですよ」
酷い言われようだ!
「あまり騒がないでください。奴らに気付かれます」
鈴が医療室に入り、懐に救急バンなどを入れながら言う。
その時だった。
「きゃあああああああああああああああああああ!!」
「!」
悲鳴……だと!?
「生存者がいたんですか!?」
鈴が焦ったように言う。
「行くのか?」
しばらく鈴が俺を見据える。
「……当然です。人として。私はまだ、人でいたい」
鈴は思い直したように、俺を見、言った。