いかに少女が辛くとも …1
「だいたい、響輝さんが悪いんですよ」
俺の目の前で、銀髪の少女が大鎌を携えて立っている。
「全くだ」
「開き直らないでください」
結局俺は驚くべきスピードで道路を駆けていく祗園鈴に追いつくことが出来ず、走り込みで土下座することにより、ようやくお許しを得た。単に引かれただけかもしれないが。
「場所はこまめに移動した方がいいようですね」
鈴が目の前にそびえる龍ヶ峰総合病院を見上げながら言う。
「そうだな」
俺はそれに感情を込めず答える。
龍ヶ峰総合病院は、龍ヶ峰市の中で一番大きい病院だ。
なんでも、少し前に一度そうとう難しい手術に成功したらしく、名声は高いらしい。
そういえば、この街が閉ざされてしまってから数日が経過しているな。
外はどうなっているんだ?
「外……ですか」
そのことを問うと、鈴は難しそうな顔をして少し上を向いた。
「……口で説明するのは難しいのですが、今“街”は外界から隔離された空間にあります。今外では、この街は無かったことになっているのです」
「無かったことに……だと?」
「はい。文字通り、亡くなっているのです。既にこの街は存在自体がなかったことになっています。地上から、歴史上から、消えて亡くなっているのです」
そんなことが……。
「知っている者は、その現象を時間錯誤と呼んでいます。歴史が修正されることは、世界に多大な負荷を与えるのです。いくつもの矛盾が生まれています。しかし、そこに私たちが突く隙があります」
隙……な。
「はい」
鈴が先んじて病院の入口に歩いて行く。
俺はそれに続く。