例えば少年の場合 …5
決まり切った法則。
変えることの出来ない鉄則。
復讐と言う名の楔。
そこから抜け出せない少女。
“恐鬼”に関する事を除けば、やはりこの少女――祗園鈴――は幾年か前の俺にそっくりだった。
分かってしまうのだ。
こうして隣で辛そうに顔を歪めているこいつを見るだけで、何を感じているのかが、伝わってきてしまう。
悔しさ。辛さ。憎しみや呪念。
「……余談です。この状況には関係ありません」
鈴が気を取り直したように言う。
「今回は取り逃さない、私は“あの子”にそう誓ったのです。逃げられなくても構いません。止めることが出来ない方が気が楽です。でも……」
そこで鈴は俺の方に近づき、至近距離でこちらを見つめてきた。何のつもりだ。
「あなたには、私のようになってほしくない。“鍵”を失って彷徨うだけの咎人になってほしくない。今度は失敗しない。“あの子”のために。私を庇って死んだ、あの子の為にも……!」
少女の瑠璃色の瞳が俺を見据える。
表情はいつものように無表情だったが、その瞳には静かな炎が灯っていた。
俺は黙る。喋らないことで返答する。どう取るかは相手次第だ。
「……話が過ぎました。はしたない真似をして済みません」
「いや……、別に……構わない」
なんだろうか。
最近、いやここ数日で自分の性格がずいぶんと丸くなったような気がする。
この状況がそうさせているのだろうか。
それとも、戌海に……“鍵”に、出遭ったからだろうか。出逢ってしまったからなのだろうか。
俺には分からない。
まだ解りたくない。
『確かにな。普段のお前なら何を言われても一蹴していただろうに。どういう風の吹きまわしだ?』
「それを俺に訊くなよ」
そう答えた時だった。
う、うわああああああ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああ!!
「ッ!?」
階下から悲鳴が聞こえた。
鈴がさっと振り向く。
きゃあああああ゛……あ゛あ゛あ、ぎゃあああああああああああ!!!!
「何……!?」
続いて、連鎖していくように悲鳴が連なっていく。
「不味い……まさかッ!!」
鈴が駆けだし、教室のドアを開けた瞬間。
あ゛あ゛あああああああああああ……ぁ…………
全ての悲鳴が、途絶えた。