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第三章 雨の夜
大型プレゼン前日。
会社に残っていたのは、澪と神谷だけだった。
「まだ帰らないの?」
「資料の修正が……」
「手伝う」
「え?」
「一人より二人のほうが早い」
神谷は自然に椅子を引き寄せた。
近い。
肩が触れそうな距離。
澪の鼓動が速くなる。
「白石さんってさ」
「……なに」
「人に頼るの苦手でしょ」
図星だった。
神谷は画面を見ながら続ける。
「でも、弱いのって悪いことじゃない」
澪は思わず彼を見る。
その横顔が、妙に優しかった。
会社を出る頃には、雨が降っていた。
「送るよ」
「だ、大丈夫」
「こんな雨で?」
神谷は自分の傘を差し出した。
二人で入るには少し狭い。
肩が触れる。 スーツ越しの体温が近い。
澪は息を呑んだ。
ふわりと、神谷の香水が香る。
落ち着いた、少し甘い匂い。
「寒い?」
「へ?」
「手、冷えてる」
神谷がそっと澪の手首に触れた。
その瞬間。
街灯が一斉に明滅した。
「!?」
澪は慌てて手を引っ込める。
「……白石さん?」
「な、なんでもない!」
しかし次の瞬間。
突風が吹き、傘がひっくり返った。
「わっ!」
バランスを崩した澪を、神谷が抱き寄せる。
胸元へ引き込まれる。
近い。
あまりにも。
澪は神谷の鼓動を感じた。
自分とは違う、落ち着いた心音。
「危ない」
低い声が耳元で響く。
澪の顔が熱くなる。
雨の匂い。 夜の湿った空気。
その全部が、妙に甘く感じた。




