第一章 最悪の出会い
「白石さん、資料できてる?」
朝一番。 上司の鋭い声が飛ぶ。
「は、はいっ!」
澪は慌てて立ち上がり、資料を落とした。 紙が雪みたいに床へ散らばる。
周囲が静まる。
「あーあ、またやってる」
笑いながら助けに来たのは、営業部のムードメーカー、藤崎 春人だった。 茶色がかった髪に、人懐っこい笑顔。 誰とでも仲良くなれるタイプだ。
「ありがと……」
「白石ってさ、絶対朝弱いよな」
「ち、違うから」
「いや顔が完全に寝起き」
春人はケラケラ笑う。
その軽さに、澪は少しだけ救われていた。
「でも無理すんなよ。倒れそうな顔してる」
「平気」
「“平気”って言うやつほど平気じゃないんだよなぁ」
その言葉に、澪は返事ができなかった。
昼休み。 澪が自販機の前でコーヒーを選んでいると、背後から低い声がした。
「ブラック飲めるんだ」
振り向く。
そこにいた男を見た瞬間、澪は息を止めた。
整った横顔。 涼しい目元。 無駄のないスーツ姿。
そして、空気まで静かになるような存在感。
「新しく来た企画部の神谷です」
神谷 恒一。 二十九歳。
社内でも有名になるほどのエース社員だった。
「し、白石です……」
澪はうまく目を見られない。
神谷は缶コーヒーを一本取り、静かに言った。
「君、いつも頑張りすぎてるね」
その瞬間。
澪の胸の奥で、何かが揺れた。
小さく。 けれど確かに。
ポケットの中のペンが、勝手に浮き上がる。
「っ!?」
澪は慌てて手で押さえた。
魔力が乱れている。
ありえない。
たった一言で?




