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外れスキル《導き》を授かった俺、辺境の村を最強にする 〜みんなの可能性が見える力で、今度こそ誰かの役に立てる〜  作者: 冬月 しるべ
第5章 村を組み直す夜

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第38話 役目が噛み合う夜


 北の外れに見えた灯りは、じわじわと数を増やしていた。


 夜の闇の向こうで、火が動く。


 一つ、二つではない。

 低い位置を揺れるもの、高く掲げられたもの、消えかけてはまた現れるもの。

 歩いている火だ。


 ノアは集会所を飛び出し、村の北端が見える高台へ駆け上がった。


 父。

 ハンス。

 カイルも続く。


 夜風が頬を打つ。

 見下ろした先、畑の向こうの細道を、いくつもの灯りが列になって進んできていた。


【北外れ】

状態:敵接近中

危険:高

人数:先見隊超過


【敵灯数】

状態:多

備考:主力未満/試圧の可能性


 試圧。


 ノアの喉がひりつく。


 全力の襲撃じゃない。

 だが、様子見でもない。


 村がどう動くか。

 井戸がどこまで守られているか。

 誰が前に出るか。


 それを見に来ている。


「ノア」

 父が低く言う。

「どう組む」


 ノアは高台から村全体を見た。


 井戸。

 集会所。

 北の畑。

 東の柵。

 南の裏道。

 家々の隙間。

 昼間に描いた見取り図が、そのまま夜の村へ重なる。


 視界の中で、人の位置が線になって見えた。


 ベルンは北へ。

 ディルは東の柵。

 母は井戸。

 ミナ婆は集会所。

 村長は中央。


 まだ決めただけの配置だ。

 だが、今夜はそれを本当に噛み合わせる夜になる。


「父さんは北正面」

「わかった」

「ハンスさんは高台。灯り持ちと後ろの指示役を狙ってください」

「了解した」

「カイルは村の中」

 ノアが言うと、カイルが眉を上げる。

「中?」

「うん。北だけじゃない」

 ノアは灯りの動きを睨んだ。

「これは試しだ。正面を見せて、中を見に来る」


 その瞬間、視界に細い赤線が走った。


【北灯列】

役割:正面圧

可能性:本命ではない


【南裏道】

状態:薄

危険:潜行向き

可能性:別働あり


 やっぱりだ。


「南も来る」

 ノアは言い切った。

「カイル、南裏道を見て。入ってきたら合図、戦えるなら止める。でも無理はするな」

「無理するな、は余計だ」

「余計じゃない」

 ノアは振り向く。

「今夜は一人で勝つな。役目を守れ」

 カイルの口元がわずかに動く。

「……言うようになったな」

「最初からそうするつもりだった」

「はいはい」

 だが、その目はもう冗談じゃなかった。

「南は任せろ」


「ノア、お前は」

 父が問う。


 ノアは一瞬だけ迷った。


 前に出るべきか。

 中央で見るべきか。


 視界に、井戸から広がる薄い青線と、村の中に散る細い光が重なる。


【井戸】

状態:村側応答済

危険:再接触注意


【村中央】

状態:役目集中点

可能性:指示起点に適性


 見えた。


「俺は中央」

 ノアが答える。

「井戸と村の動きを見ながら、ずれたところを繋ぐ」

「了解だ」

 父は短く言った。


 もう、誰もそれを“後ろに下がる”とは思わなかった。


     ◇


 村は、初めて明確に役目で動き始めた。


 ベルンは北柵の前で、若い男たちを三人並べる。

 正面に立つ者。

 一歩後ろで石を渡す者。

 さらにその後ろで灯りを絞る者。


 ディルは東柵へ回り、縄と木板を手に、隙間の補強を始めていた。

 器用な指が、暗い中でも迷いなく動く。


 母は井戸のそばで、桶も縄も片づけさせる。

 水を汲む者を止め、子どもたちを各家へ返し、井戸へ近づく足を切っていく。


 村長は集会所の前で人を受ける。

 走れる者、火を扱える者、力のある者を、その場で分ける。


 ミナ婆はその横で、古い帳面を開いたまま井戸と北外れの方角を交互に見ていた。


 ノアはその全部を走って繋いだ。


「ベルンさん、正面は下がらないでください。でも前へも出ないで。灯り持ちを近づけてから!」

「わかってる!」

「ディルさん、東は板一枚じゃ足りない、下にも噛ませて!」

「今やってる!」

「母さん、井戸のそばに灯り置かないで! 影で縁が見える!」

「もう消させた!」


 息が切れる。

 それでも足は止まらない。


 《導き》は、戦いの道筋だけじゃない。

 今は、村の中の流れそのものが見えていた。


【ベルン】

状態:正面維持適性・高


【ディル】

状態:補強処理適性・高


【母】

状態:生活流整理適性・高


【村長】

状態:全体統制適性・高


 強い。


 村人たちは一人では戦士じゃない。

 けれど、役目が噛み合えば、もう“ただの村人”じゃない。


     ◇


 最初の矢は、北の畑の向こうから飛んできた。


 ひゅっ、と夜気を裂く細い音。


 ベルンの立つ柵の手前へ刺さる。

 威嚇だ。


「来たぞ!」

 北から声が飛ぶ。


 次の瞬間、敵の灯りが一斉に広がった。

 正面からだけじゃない。

 横へ散る。

 見せつけるみたいに。


【北正面】

状態:圧示開始

危険:中高

備考:突破より揺さぶり優先


 ハンスの矢が飛んだ。


 先頭の灯りが弾ける。

 火が地面へ落ち、列が一瞬乱れる。


「灯り持ちを落とす!」

 高台からハンスが叫ぶ。

「正面を見るな、火を見ろ!」


 ベルンが吠えた。


「前に出るな! 柵を越えさせるな!」


 村の男たちが石を投げる。

 火の揺れる位置へ。

 顔じゃない。

 足元と灯りを狙う。


 敵が近づく。

 だが、まだ本気で踏み込んではこない。


 やっぱり試している。


 そのとき、南から短い笛の音が鳴った。


 カイルだ。


 来た。


【南裏道】

状態:侵入反応あり

人数:二

可能性:井戸探り


 ノアは即座に走った。


     ◇


 南裏道は、家と家の影が折れ重なる狭い通りだった。


 月明かりも薄い。

 だが、ノアには見えた。


 壁沿いに、二つの影が低く走っている。

 井戸へ向かうつもりだ。


 その進路の先、塀の角に張りつくようにカイルがいた。


 短剣を逆手に持ち、息を潜めている。


 いい位置だ。


【カイル】

状態:待機

可能性:初撃成功率・高


【敵潜行】

状態:索敵不足

危険:中


 敵が一歩、二歩、角へ近づく。


 次の瞬間、カイルが飛び出した。


「遅い!」


 短剣の柄が、先頭の男の顎を打ち上げる。

 もう一人が反応して刃を抜く。

 だがその足元へ、ノアが走り込みざまに置いていた木桶を蹴り込んだ。


 転がった桶が足首へ当たる。

 踏み込みがずれる。


「っ!」

 カイルの足払いが綺麗に決まる。

 男の身体が石畳へ崩れた。


「井戸か」

 カイルが低く言う。

「やっぱり来たな」


 倒れた一人が、すぐに笛へ手を伸ばす。


【敵潜行】

状態:伝達意図あり

危険:高


「鳴らすな!」


 ノアは近くの石を掴み、その手首へ投げた。


 鈍い音。

 笛が転がる。


 その隙にカイルが喉元へ短剣を突きつけた。


「動くな」


 もう一人は逃げようとしたが、その背後の屋根から小石が落ちてきた。

 上だ。


 ディルだった。


 いつの間にか東柵から回っていたらしい。

 屋根の上から、器用に石を落として逃げ道を塞ぐ。


「そっち行かせるか!」

 珍しく大きい声だった。


 敵は足を止める。

 その一瞬で、ノアたちの勝ちだった。


【南裏道】

状態:侵入阻止成功

効果:井戸探り失敗


 ノアは息を吐く。


 防げた。

 だが終わっていない。


「北へ戻る」

 ノアが言うと、カイルが頷く。

「こいつらは縛る」

「頼む」

「任せろ。今夜は役目守れ、だろ」

 ノアは一瞬だけ口元を緩めた。

「そうだ」


     ◇


 北では、圧が一段上がっていた。


 灯りの数が増えている。

 だが、敵はまだ柵を越えない。


 代わりに、火矢が二本、三本と飛んでくる。


「火だ!」

 ベルンが怒鳴る。


 乾いた藁束の近くへ刺さった一本に、母が井戸端から走ってきた娘へ水桶を渡す。

 だがノアは首を振った。


「水を持っていくな!」

「えっ」

「布だ! 叩いて消して!」


 娘は一瞬止まり、それからすぐ布を掴む。

 火へ被せて押し潰す。

 水より早い。

 しかも井戸を空けない。


【火矢対応】

状態:布消火有効

備考:井戸接触最小化


 見えた対応が、その場で役目になる。


 ディルが屋根から叫んだ。


「東、異常なし!」

 ハンスが高台から返す。

「北の後ろに二人、回してる!」


 村長は中央で人を振る。

 ベルンは正面を崩さない。

 父が北柵の外へ半歩だけ出て、敵の踏み込み線を槍で切る。

 ノアは走りながら、その隙間を埋める。


 噛み合ってる。


 まだ未完成だ。

 だが、もう“その場しのぎ”じゃない。


 そのとき、北外れの灯りが一斉に止まった。


 敵が動きを止める。

 引く前の止まり方じゃない。


【北正面】

状態:観察移行

危険:中

備考:反応確認中


 見られている。


 ノアの背筋が冷える。


 今夜の狙いは、壊すことじゃない。

 村の反応を見ることだ。


 どこに人が集まるか。

 井戸に誰が近いか。

 誰が指示を飛ばしているか。


 敵はもう、それを見た。


「退くぞ!」

 北の暗がりから声が飛ぶ。


 灯りが、ひとつ、またひとつと下がっていく。

 畑の向こうへ、細い列が溶けるように消えていく。


 追うべきじゃない。


【北正面】

状態:離脱開始

可能性:情報取得後の後退


 父も同じ判断だった。


「追うな!」

 槍を上げて怒鳴る。

「ここで崩れるな!」


 ベルンが大きく息を吐き、男たちへ手を振る。

 ハンスは最後の灯りが消えるまで矢を下ろさない。

 カイルが南から戻り、倒した二人を引きずってくる。


 ようやく、村の夜に少しだけ静けさが戻った。


     ◇


 北柵の前で、ノアは息を整えた。


 勝った、とは言いきれない。

 守れた。

 それがいちばん近い。


 父が隣へ来る。


「どう見る」

「試しだと思う」

 ノアは答えた。

「本気で取りに来たんじゃない。どこをどう守るか、見に来た」

「同感だ」

 父は低く頷く。


 ハンスが高台から降りてきた。


「見られたな」

「うん」

「だが、こっちも見た」

 ハンスは短く言う。

「正面圧、火矢、潜行、観察。今夜ので向こうの癖も少し出た」


 カイルが縛った敵を足元へ転がした。


「それと土産もある」

 その一人の胸元に、見覚えのない印が縫いつけられている。

 外套の男たちの印とも違う。

 灰衣の男の紋とも違う。


【捕縛者】

状態:軽装斥候

備考:別系統印あり


 ノアの目が細くなる。


 別系統。


 敵はひとつじゃないのか。

 それとも、役割で印を分けているのか。


 村長がゆっくり歩いてくる。


「今夜は守れた」

 静かな声だった。

「だが、もうこの村は“何も知らない村”の顔ではいられん」

「はい」

 ノアは答えた。


 ミナ婆が井戸の方を見やる。


「井戸も、たぶん今夜で終わりだよ」

「終わり?」

 ディルが訊く。

「誰でも気軽に寄れる井戸って意味さ」

 ミナ婆は言った。

「明日からは、村の目だ」


 その言葉に、誰も反論しなかった。


 母が静かに井戸端へ立つ。

 あの手で、地下へ返した人だ。


 ノアの視界に、薄い線がまた浮かぶ。


【村の今夜】

状態:初動防衛成功

効果:役目再編の有効性確認


【次の急ぎ】

候補:井戸管理の固定化

候補:村人役目の常設化

候補:捕縛者の確認


 確認できた。


 役目は噛み合う。

 村は組み直せる。

 そして、それは机の上の話じゃなく、本当に守りへ変わる。


 村長が言う。


「集会所へ戻るぞ」

「今から?」

 ベルンが目を丸くする。

「今だからだ」

 村長の声は揺れない。

「敵は見た。なら、こっちも今夜見えたものを、今夜のうちに形にする」


 ノアは頷いた。


 そうだ。

 戦いはまだ続く。

 だが、今夜ひとつだけ、確かになったことがある。


 この村は、噛み合わせれば戦える。


 ノアは北の暗がりを見た。


 敵は退いた。

 けれど次はもっと深く来る。


 だからその前に、こちらが先に組み上げる。


 村を守る形を。

 村を強くする形を。


 夜風が、北の畑を低く渡っていく。


 その音を聞きながら、ノアはゆっくりと拳を握った。


 ――村は、もう試され始めている。

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