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外れスキル《導き》を授かった俺、辺境の村を最強にする 〜作物も農具も村人も、可能性をつなげれば村ごと強くなる〜  作者: 冬月 しるべ
第3章 村に勝ち筋を作ろう

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第12話 石室の奥で、敵の通路とつながる


 朝の光が井戸端に届くころには、準備はほとんど終わっていた。


 縄は昨夜より太いものに替えられ、油灯も四つに増えている。

 ベルンは木材で入口の支えを組み、ディルは引き上げ用の縄を何度も確かめていた。


 ミナ婆は傷薬と気つけ薬を布に包み、母は水袋と干し果物を小さくまとめている。


 井戸の周りには人がいる。

 けれど、誰も大きな声では話さなかった。


 これから降りるのは、ただの地下ではない。


 村の真下にずっと隠れていて、敵が欲しがっているかもしれない場所だ。


 ノアは半ば開いた石板の前に立ち、深く息を吸った。


 怖い。


 それでも、もう目を逸らせない。


 敵はここを狙っている。

 なら、こちらが先に知らなければ守れない。


 視界の奥に、淡い文字が浮かんだ。


 〖井戸下の入口〗

 状態:開放準備中

 注意:足元/空気の悪さ

 可能性:短時間なら調査できる


 〖地下通路〗

 状態:未確認

 注意:崩れ/古い罠

 可能性:奥に石室あり


 ノアは目を細める。


 短時間なら行ける。

 ただし、長居はできない。


「降りるのは四人だ」


 村長が低く言った。


「ハンス、ノア、ルド、カイル。ベルンとディルは上で支えろ。縄が三回引かれたら、何があっても引き上げる」


「わかった」

「任せろ」


 ベルンが支え木を叩き、ディルが縄を握った。


 父がノアの肩に手を置く。


「昨日より奥へ行く」

「うん」

「無理だと思ったら、すぐ戻るぞ」

「わかってる」


 母は何も言わず、ノアへ油灯を手渡した。


 その目だけが、昨日より少し強い。


「……帰ってきなさい」

「帰る」


 短い言葉だった。

 けれど、それで十分だった。


 ミリアが母の後ろから顔を出す。


「兄ちゃん」

「何」

「びっくりしても、変なもの触らないでね」

「注意の仕方が雑じゃないか?」

「でも大事でしょ」

「……大事かもしれない」


 小さな笑いが起きる。


 その一瞬だけ、張り詰めていた空気が少しだけほどけた。


     ◇


 四人は、井戸脇の石段を降りた。


 先頭はハンス。

 次にノア。

 父が続き、最後にカイル。


 石段は冷たく、わずかに湿っている。

 油灯の明かりが揺れるたび、壁の古い石目がゆらりと動くように見えた。


 地上の朝の気配は、すぐ遠くなる。


 水滴の落ちる音。

 靴裏が石を踏む音。

 誰かの息を殺す気配。


 それだけが、地下の狭い通路に響いていた。


 踊り場を越え、昨日見つけた敵兵の死体がある場所へ進む。


 死体はそのままだった。


 革鎧。

 腰の短剣。

 胸に突き刺さった石の矢じり。

 割れた油灯と、こじ開け道具のような鉄具。


 敵もこの下へ来た。

 そして途中で止められた。


 その事実が、通路の奥をさらに重く見せていた。


「扉だ」


 ハンスが低く言う。


 通路の先に、石の扉が立っていた。


 両脇に細い柱。

 中央には丸い紋。

 右端には、指一本入るかどうかの細い隙間。


 そこから、冷たい空気が途切れずに流れている。


 ノアは油灯を近づけた。


 扉の表面には、古い線が刻まれている。

 水の流れを図にしたような、円と細い筋。


 〖石扉〗

 状態:半分閉じている

 注意:無理に開けると危険

 可能性:紋を押しながら回せば動く


 〖扉の紋〗

 状態:古いが残っている

 反応:水に関係する印

 条件:押し込み/回転


「ここだ」


 ノアは呟いた。


「開けられるのか」

 父が問う。


「たぶん。でも、力任せじゃないです」


 ノアは扉中央の紋へ手を伸ばした。


 冷たい石の感触。

 その奥に、噛み合った歯車のような、固い手応えがある。


 押す。


 違う。


 右へ回す。


 少しだけ動く。


 中心を押し込みながら、さらに回す。


 ご、と鈍い音が返った。


「動いた」

 カイルが息を呑む。


 扉がほんの少し内側へ沈み、そのまま横へずれた。


 重い。


 だが、開く。


 父とハンスが左右から手をかけ、無理のない範囲で押し広げる。


 石と石が擦れる低い音が、地下通路に長く響いた。


 そして、扉の向こうがゆっくりと姿を現した。


     ◇


 そこは、石でできた広い部屋だった。


 丸い部屋ではない。

 長方形に近い空間で、天井は思ったより高い。


 左右の壁には、浅い水路のような溝が走っている。

 中央には低い石台。

 その上には、青白い石盤のようなものが埋め込まれていた。


 ただの貯水庫ではない。


 何かを隠す場所であり、何かを動かすための場所でもある。


 〖石室〗

 状態:長く閉じられていた

 使い道:水を動かす部屋

 注意:敵が触れた跡あり


 〖中央石台〗

 状態:保存良好

 反応:《導き》に反応

 可能性:地下の水路を示せる


 カイルが小さく息を吐いた。


「……なんだ、ここ」

「ただの井戸の下じゃないな」


 父は壁を見回しながら言う。


「人が使うために作られてる」


 ハンスはすぐに床を見た。


「足跡がある」


 ノアも灯りを下げる。


 薄い砂の上に、浅い足跡が残っていた。

 複数ではない。

 一人か、せいぜい二人。


 石台の前で止まり、それから北側の壁へ向かっている。


 〖床の足跡〗

 状態:新しい

 人数:一〜二人

 注意:敵が先に入った可能性


 やはり、敵はここまで来ていた。


 だが、中央の石台は壊されていない。

 無理に破壊した跡はなく、ただ周囲にこじ開けようとしたような傷だけが残っている。


 ノアは石台へ近づいた。


 青白い石盤には、扉と同じような丸い紋が刻まれている。

 その周囲には、細い線が何重にも巡っていた。


 水の流れ。

 通路。

 分岐。


 そんなものを図にしたようにも見える。


 〖水を導く石盤〗

 状態:眠っている

 反応:《導き》に合う

 可能性:地下の水路を映せる


 《導き》に合う。


 ノアの心臓が跳ねた。


「これ……俺に反応する」

「何?」


 父が振り向く。


「たぶん、動かせます」

「危なくないのか」

「わかりません。でも、敵は動かせなかったみたいです」


 石盤の下には、新しい傷がいくつもある。

 鉄具を差し込んだ跡。

 無理にこじった跡。

 だが、途中で諦めたような浅い傷ばかりだった。


 〖石盤の根元〗

 状態:新しい傷あり

 備考:敵が開けようとして失敗


 ノアは、そっと石盤の縁へ手を置いた。


 冷たい。


 だがその瞬間、指先の奥へ、薄い光が流れ込むような感覚があった。


「っ……」


 肩がびくりと揺れる。


「ノア?」

「大丈夫」


 そう答えた次の瞬間、石盤の線が淡く青く灯った。


「光った!?」


 カイルの声が石室に反響する。


 床を走る細い溝にも、青白い光が広がっていく。

 壁の刻み。

 水路の跡。

 そして北側の壁へ向かって、一筋だけはっきりした光の線が伸びた。


 〖水を導く石盤〗

 状態:微かに起動

 反応:地下の水路を映している

 可能性:北へ続く道あり


「地図……?」


 ノアは息を呑んだ。


 光の線は、この石室だけを示していない。


 井戸の下から北へ伸びる地下の流れ。

 途中の分岐。

 そしてさらに奥、もっと大きな空間へ向かうような広がり。


 敵が狙っていたのは、この部屋だけじゃない。


 この先だ。


「北に続いてる」

 ノアは言った。

「この部屋で終わりじゃない」


 父とハンスの顔が険しくなる。


 そのとき、カイルが北側の壁際を指さした。


「おい、あそこ」


 そこには、石室の壁とは少しだけ違う継ぎ目があった。


 一見するとただの石壁だ。

 だが、青い光がそこに触れた部分だけ、薄く輪郭が浮かび上がっている。


 隠し壁。


 〖北側の壁〗

 状態:隠し壁

 注意:向こう側から触られている

 可能性:別の通路へ続く


 父が低く言う。


「やっぱり、ここか」


 壁際の床には、さらに新しい跡が残っていた。

 砂を払った跡。

 金具で擦った跡。

 そして、わずかな泥。


 ノアはしゃがみ込む。


 泥の跡は、こちらから北へ向かっているだけではない。

 北側から戻ってきたような、浅い跡も混じっていた。


 〖床の泥跡〗

 状態:新しい

 注意:向こう側から戻った跡あり


「……戻ってる」


 ノアの声がかすれた。


「誰か、向こうからこっちへ戻ってる」


 室内の空気が、一気に張り詰めた。


 敵がこの壁を開けようとしていたのではない。

 もしかすると、すでに向こう側と繋がっている。


 その瞬間。


 北側の隠し壁の向こうから、音がした。


 ――こん。


 ――こん。


 昨夜より近い。


 今度は、はっきりこの壁の向こうだ。


 カイルが短剣を抜く。

 父が槍を構える。

 ハンスは油灯を下げ、音の方向へ体を向けた。


 ノアの視界に、鋭く文字が浮かぶ。


 〖隠し壁の向こう〗

 状態:未確認

 注意:敵が近い

 危険:高


「敵だ」

 父が低く言った。


 その直後、壁の継ぎ目に外側から力がかかった。


 ぎり、と石が軋む。


 誰かが向こうから開けようとしている。


「下がれ!」


 ハンスが一喝した。


 四人が一斉に構える。


 石室の青い光は、まだ床の溝を淡く照らしている。

 その真ん中で、北側の隠し壁がわずかに揺れた。


 敵も、この場所へ辿り着いた。


 ノアは息を呑み、青く光る石盤と、揺れる壁の継ぎ目を見つめる。


 井戸の下にあったのは、ただの秘密ではない。


 敵と奪い合う“入口”だった。


 次の瞬間、北側の隠し壁が、わずかにこちらへ押し返された。

石扉の向こうには、井戸の下だけで終わらない地下の水路がありました。


しかも、敵も別の側からそこへ近づいています。

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