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僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~  作者: 破れ綴じ
農村セティ

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君は私の特別なんだぞ?

 食事を置いてから、もう随分経ったな。

 肉体を治すのは僕がやる、貴女は人に寄り添える人だから、彼らの精神を支える役をやってもらえないか……そう、ルメドに言われて、これで何人と話をしてきただろうか。多い数ではない。

 犠牲者達のほとんどは自我すら復活していないが、何人かはこうして落ち着いたり、場合によっては意思疎通も可能になったりする。そういう人に対し、一早く社会復帰ができるようにと……。


 ああ、いやいや。関係ないことを考えていてはいけない。

 私は彼らに対し真摯に向き合う必要があるのだ。

 勇者たるもの、人を慰める時に話半分の集中だなんて、許されてはいけないから。


「……ぁ……うぅ……」


「食べたくなったら、食べればいい。無理はしなくていいから」


 焦っても仕方がない。こういう時に急かすのは一番やってはいけないことだ。

 声は低く、穏やかに。相手の間合いに踏み込まない距離感で。

 怯えている人間に急に近づかない。声のトーンを上げない。無理に目を合わせようとしない。前世で何度も犠牲者の牧場を解放してきた時に染みついた所作が、今こうして手足を動かしてくれる。


 彼らは──魔王軍として、これまで多くの暗躍を行っていた。

 魔王復活のため訳も分からず働かされ続け、一般人としての演技を行ったり、時には殺しや──ボスの誘導だって行うこともあったという。

 その手を下したのは、目の前の彼及び彼を含む『犠牲者』の数々。


 だが……ここで怒りを向けて、それでどうなるというんだ。

 彼らは逆らえなかった。命じられ、恐怖で支配され、従うしかなかった。

 拒む術を持たず、魔王軍の手駒として動く他なかった。

 知識も自由も感情も奪われて生きている彼らに、勇者がさらに重荷を足してどうする。


 生きている。今こうして、この村で息をしている。

 それだけで──私の守るべき対象だ。


「……今日は暖かいな。窓を開けておいたから、風が入ってくるだろう」


 返事はない。

 でも──さっきよりは、ほんの少しだけ肩の力が抜けたように見える。気のせいかもしれないけれど。こういう小さな変化を見逃さないことが大事なんだ。


 --「むむ。良い人そう。流石ヴィっくんの仲間だけある」


 えっなんだ今の声。

 ……気のせいか? 




「もし食べにくいなら、パンだけでもどうだ。スープより手が出しやすいかも」


 そうだそうだ。こんな大きいパンだと、弱り切った上で酷使されてきたその体には無理があるかも知れない。ちょっとちぎって、手が届くぎりぎりの……少しだけ近くに置けば。彼も取りやすいだろう。

 犠牲者の牧場から解放された人間にとって、「手の届く範囲に何かがある」ということ自体が恐怖の引き金になることもある。だから、相手が自分から手を伸ばせる位置に。取るかどうかは彼が決める。


 それだけで十分だ。

 勿論、「悪を滅すること」も大事だが……それ以上に、「弱きを助けること」。

 勇者にとってこの二つは最初から両輪であって、片方だけでは成り立たない。

 剣を振るう腕と、こうして食事を差し出す手は、私の中では同じ意味を持っている。


「……あの」


「ん?」


 ……話し合いをする気になってくれたのか? 

 大丈夫、聞こえてるぞ。


「あの……これ、は」


「パンだよ。この村で焼いてもらったものだ」


「……どう、して」


 ん? 




「どうして……優しく、するんだ」




 ……さっきまでとは違う目だ。

 怯えはまだ消えていないけれど……これは、困惑か。純粋に困惑しているのか。


「あんたは……知っている、だろ。俺たちが……何を、してきたか」


「……ああ、知っている。知っているとも」


「俺たちは……平和の、敵……側だった。それなのに……なぜ」


 なるほど。

 彼は自分の行いが悪事であったときちんと認識しているんだな。

 思考能力だってほとんど奪われていたはずだが……微かな意識の中でこの行いが間違っていると自覚し、その葛藤を抱えつつ、結局止められる訳もなく。犠牲者としての活動を続けていた……と。


 すぐ、返答してはいけない。

 彼の言葉を受け止めて、噛みしめて。

 急いで返すべき言葉じゃないと分かっている。

 だから、少し間を置きつつ……


「……君は今、こうして生きている」


「……」


「生きている以上──私は君を守り、支え、導く。それが私の使命だ」


 君の罪を否定するつもりはない。君は悪くなかったとも言わない。

 実際に手を下した事実は消えないし、それを軽くしてやることは私にはできない。


 だけど──悔いている者を。

 勇者が見捨てるということだけは、絶対にあってはならない。


 君だけじゃない、他の全員もだ。

 勇者の存在がすべての人類の重荷になってはいけない。

 そのために全ての勇者は全力をかけて人を救うのだから。


「だから、食べたまえよ。君が生きるために必要なものは──ちゃんと、ここにあるから」


 大きなリアクションなんていらない。

 今、この瞬間。何かが──ほんの少しだけ、届いたのだと信じたい。


 例えそれが、あの話を聞いた後の話だとしても──






 *






『マージュとリュトはいないけど……第三十九回勇者会議だよ』


「議題は──殺された勇者シエルについて……」


 エスクリが急にルメドを呼んで、その後すぐだった。

 ヴィクは拠点でマージュやリュトと一緒に作業中。だからこうして勇者だけで集まれる時間ができた訳だけど──正直、この内容について話すのに「丁度いいタイミング」なんてものがあるはずもない。


 二十一名。

 二十一名の自分自身が──既に殺されている。


「そ、それは、事実なんですか……!?」


「いや、事実かどうかは、断言はできないけど……」


『僕たちが転生していることを知られているのは確定なんだ。安易に嘘だと見なすのは無理があるよ』


「……っ、そう、ですか……」


 なんということだ……! 

 既に魔王軍は、勇者シエルの転生を把握して、脅威を排除するための活動を開始してしまっている……ということになる。

 なんて、なんて卑劣な……! 


 そしてそれ以上に。

 私が私というだけで、殺されてしまっている自分が既に複数人存在しているという……。


 なんだ、何がダメだったんだ? 

 魂が分割された状態で転生した判断は間違っていないはず。もしシエルの人数がもっと少なければ、さらに早急に排除が進められ、私の……僕としての存在は完全に消滅していた可能性が極めて高い。

 ただ、分割してしまったことによって、死亡した人数が増えてしまったのも……悔やむべきこと。自分は運よくそれを免れたが、あの分割が──結果として惨劇の数を増やしているのだ。


「ボクたちは……旅を続けてきたから、目立ってないかもしれないけど」


『ルメド、シュヴァ。君たち二人は特に注意が必要になる』


「ええ……長い間、同じ場所で目立つ活動をしてきた訳ですからね」


「私も……名を知られている訳だからな。把握されていないと考える方が不自然だ」


 ……ルメドの声が、思った以上に硬い。

 無理もないか。彼女はかつて公的な地位にいて、あの金色の瞳を隠しもしていなかったらしい。しかも、既に他に三人いたとされる勇者が殺されていることも事実。

 私だってそうだ。シズィで「金髪の戦乙女」などと呼ばれて、素顔を晒して活動してきたんだから……標的にされていない方がおかしい。


 まさか、こんなことになっているだなんて……。


『だから……僕は気になってる。これはもしかして、罠なんじゃないかって』


「……それは、どういう?」


『セティまでの道中──ボスが、一体もいなかったんだよね。今思えば、あれは……誘導だったんじゃないかと』


「……っ!」


 ……言われてみれば、確かにそうだ。

 シズィを発ってからセティに着くまで、一度もボスに遭遇していない。道中の村でも魔物被害の報告は無かった。

 平和であるなら、それは喜ぶべきことなのだけれど──今この文脈で振り返ると、確かに違う意味が浮かんではくる。


『もし魔王軍がこのパーティーの存在を把握しているなら……行く先々にボスを差し向けてくるのが自然じゃないか。でも、そうしなかった』


「……泳がせていた、という可能性ですか?」


『あるいは──この牧場に辿り着くことを、想定済みだったのかもしれない』


 ……そういう、ことか。


 その発想は無かった。いや、考えたくなかったのかもしれないが。

 だが、エペの言葉には否定しがたい説得力がある。

 もし敵が私たちの動きを把握していて、なおかつ妨害しなかったのだとしたら──それは「妨害する必要がなかった」ということに他ならない。

 ただ、待ってくれ。それなら……。




『つまり、牧場を制圧することも。犠牲者を救い出すことも。全部、敵の想定の範囲内だった可能性がある、ということだよ』


 ……ヴィクトールの判断は、間違っていたと? 




 あの夜。

 ヴィクトールが「次の日まで待てなかった」と言った時の、あの顔。

 人命がかかっている以上、即座に動くべきだという──あの揺るぎない意志。

 あれが、間違いだったなどと。


「いや、あれは間違ってはいない。あれを無視することこそ勇者の名折れだ」


『僕も間違いだとは言わないよ。あの場で見捨てる選択肢なんて無かったし、あるべきじゃない』


「……ボクだってあの判断は正しかったと思ってる。ヴィクじゃなくても、ボクだって同じことをしたはず」


「僕もです。あの場で立ち止まる選択は──勇者としてあり得ません」


『うん。だから否定してるんじゃないんだ。ただ、最悪の可能性は想定しておくべきだと思う。救うことを選ばせること自体が、敵の意図だったかもしれないって』


「……」


 エペは否定している訳じゃない。

 分かっている。彼は観察者として、冷静に状況を見ているだけだ。

 感情を排して、最も不都合な可能性を机の上に並べる。それが彼の役割なんだろう。

 人の体を持たないからこそ、一歩引いた視点でものを見られる。


 ただ、あのヴィクトールの剣幕が、理不尽への怒りが。

 牧場に対しての憎悪によって引き起こされたあの行動が──間違っていたとは、やはりどうしても思えない……。




 ……待てよ? 


 魔物を前にしたヴィクトールは──いつもああいった感じだ。

 ヴィクトールが魔物に対して強い敵意を持っていることは知っている。

 それこそ旅を始めた当初から──魔物を見れば迷わず剣を抜く男だった。

 ある程度は余裕があるように見えるが、彼の取る行動は、彼の提案する作戦はすべて──魔物をいかに迅速に殺しきるか、殲滅しきるかというものに基づいている。


 でも、それはどうして? 

 彼は何故、そこまで魔物に対して憎悪を募らせている? 


 昔は勇者としての「僕」がその理念に激しく賛同していたから気にならなかったが……彼の相棒としての「私」は、もっと彼のことを知るべきだと、今になって思っている。


 どこで生まれたのか。聞いたことも無い。

 誰に剣を教わったのか。「師匠に叩き込まれた」としか聞いていない。

 なぜあの古代文字が読めるのか。「勉強した」の一言で済まされている。

 なぜあれだけの殺意を魔物に向けられるのか。理由を語ったことがない。

 知っているのは、彼の強さと、彼の優しさと、仮面恐怖症くらい。


 最初の──最初の相棒のはずなのに。

 私は彼のことを、何も知らない。






 *






 ……びっくりした。

 中々眠れないから、寝間着のまま外の空気でも吸おうと部屋を出てみれば……。


「……ヴィクトール?」


「シュヴァか。起こしてしまったか?」


「いや……というか、戻って来てたのか?」


「ああ、さっきな。マージュはもう寝かせたし、リュトも寝に行った」


 ヴィクトールがいるんだが。

 星空が綺麗に見えるくらいの真夜中で、他のシエル達も全員眠りについた時間帯なのに……今帰って来たってことか? 急ぐ必要があるから、寝る間も惜しんで移動しておきたい気持ちは分かるが。

 ということは……調査が終わった? それとも何か問題があった? いや、エスクリは何も連絡してこなかったし……。


 というか、今の私は大丈夫だよな。

 寝間着姿だけど……どこも変じゃないよな。

 鎧が無いと、彼にほぼ裸を見られた思い出が蘇って……。

 ああダメだ! 考えるな! ごほん! 


「調査は全部終わった。報告は明日、皆が起きてからしよう」


「そ、そうか。そうだったのか……じゃあ、おかえり。お疲れ様」


 そうか、そうだよな。真夜中だものな、当然だ。

 今から全員起こすのは流石にパフォーマンス的にもよろしくない。

 ただ、拠点からここまでの移動だって楽じゃないだろうに……君はこんな時間まで作業をしていたのか。相変わらず、熱心というかなんというか。


 ……でも。

 こうして完全に二人きりになるのは……シズィ以来か。


「じゃあ……ヴィクトール」


「ん?」


 もう少し前置きとか、切り出し方を考えるべきかもしれないけれど。

 こういうのは性分だ。回りくどいのは得意じゃない。


 ……だから。

 聞くなら今なのかもしれない。


「君は、その……故郷や、師匠とやら。自分のことを教えて、くれないよな」




「ん? それぐらいなら別に喋るぞ?」


「えっ」




 ……は? 

 え、そんなあっさり? 


「聞かれなかったから話してなかっただけだ。別に隠してる訳じゃないぞ」


「え、あ……そ、そうなのか!?」


「ああ。故郷と師匠だったか?」


 え、えぇ……。

 そうだったのか……? 


 自分が馬鹿みたいじゃないか。

 何年も旅をしてきて、相棒なのに何も知らないと悩んでいたのに──聞けば普通に教えてくれるのか、この男は。いや、確かに彼はそういう男ではあるが。

 それでも過去を一切知れなかったから何か事情があるのかと……えっ、本当に聞けばよかっただけ? 


「ほ、本当に……?」


「ああ。俺の故郷はユイヌっていう小さな村でな」


 し、知らない場所だ……。


「師匠はエルフだった。昔は暗殺術を教えていた経験があるらしい」


 ああ、だから、そういう戦法を……。


「俺が子供の頃に、強くなりたいって弟子入りを頼んだんだ」


 しかも自分からだったのか……? 


 本当にいっぱい教えてくれるんだけど……。

 深刻な顔一つせず、まるで昔話でもするみたいに自然な調子で語ってくれているんだけど。何か重い過去を隠しているんじゃないかと構えていた私が、本当に馬鹿みたいじゃないか。


 聞けばよかったのか。そりゃそうだ。当たり前だ。

 むしろなんで聞いてもいないのに教えてもらえると思ってたんだ私は。


「別にこの程度なら隠すほどのことでもないし……せっかくの『相棒』の頼みじゃないか」


「ヴィクトール……!」


 ……多分、他の皆には話していないんだろうな。この話。

 つまり今この瞬間、ヴィクトールの過去を聞いているのは──私だけ。

 もしかしたら、彼は。

 相手が、私だから──一番最初の仲間だから、話してくれているんじゃないか? 


「エスクリから聞いたが、助けた彼らを元気づけてくれてるんだって?」


「まぁ、大したことはしていないさ。ルメドの治療のほうが余程重要な仕事だ」


「いや、助かってる。俺はなんか……怖がられてるからな。流石だよ、シュヴァ」


 ……ふふっ。

 ふふふふっ。


 そうだろうな。私が一番古い仲間なんだから。

 君から信頼されるのも、こうして素直に話してくれるのも、二人星空の下で語り合えるのも……当然と言えば当然だ。私との間に積み重なった信頼があるからに決まっている。

 ……少し、得意な気持ちになってしまうのは許してくれ。


 彼は人の性別を間違えたまま記憶しているような朴念仁ではあるが。

 そういう気遣いとか、相手を不快にさせないための注意はしっかり払ってくれるんだ。


 普段は正義のため、使命のため、世界を救うために身を固めている私だけれど。

 今でこそ、彼らを勇気づけ励ますために、勇者然とした姿を見せている私だけれど。

 こんな風に……意地を張らず、肩肘も張らず、ただ隣に座って馬鹿な話ができるのは。


「おかしな話だな。君は仲間を女の子だけで固めるような破廉恥な奴なのに……ふふっ」


 ……そんな「僕」がここまで自分を出せるのは、君相手だけなんだからな。

 君が私の特別だってこと。覚えておいてくれよ、ヴィクトール。




「何を言っている? ルメドは男だぞ?」


「えっ」

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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