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僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~  作者: 破れ綴じ
農村セティ

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絶滅危惧種シエル

 あの制圧から……もう五日も経つのか。


 エスクリの背中で揺られながらでも、あの地下施設の空気を思い出してしまうのは……それだけあの出来事が印象深かったからなんだろうか。

 あの湿った、生臭い、甘ったるい空気の質感がまだ刀身にこびりついてるようで……。

 まぁ気のせいだろうけどね。剣が匂いを覚えてるだなんて、我ながらおかしな話だ。


 水槽から救い出した『犠牲者たち』は、今セティの宿や民家に分散して収容されてる。

 心神喪失に近い状態の人がほとんどで、外の世界を知らないせいか、自発的に動ける人はほとんどいない。水槽の中が世界の全部だった人たちにとって、この村の日常すべてが──朝の光も、鳥の声も、風の匂いも──未知のものでしかない。


 しかも、ルメドが犠牲者全員の体を精密に解析した結果……。

 ……全員の体内に爆発魔法が仕込まれていたことまで判明して。


 施設が制圧された際の情報漏洩防止用、あるいは敵陣での作戦失敗時のための──要は自爆装置。犠牲者が施設の外に出たまま何日も戻らなかった場合に起動する仕掛けだったらしい。

 もしルメドが「この後も精密な診断を繰り返しますから」って言ってなかったら……善意で外に連れ出した結果、全員吹き飛んでた可能性があった。

 実際にはルメドの解析とシュヴァの補助魔法を組み合わせて、丸一日かけて全員分を無事に解除できたから良かったんだけど。


 それでもセティの村人たちが献身的に世話をしてくれてるから、なんとかなっている。亜人種も関係なく、種族を問わず手を差し伸べてくれる村だからこそ、余所者も優しく受け入れようとしてくれるんだ。


「エペー、起きてるー?」


『起きてるよ。というか僕は寝ないんだけど』


「そうだった。なんかずっと静かだったから」


 悪いね、ちょっと考え事してた。

 そういうエスクリはいつも通りの足取りだね。

 このパーティーで一番足が速いのは間違いなく君だから--村と拠点を行き来する連絡役兼物資運搬役を任されるのは当然の帰結なんだけど。


「ボクの仕事が終始荷物持ちってどうなの? 大事な役回りなのは分かるけど……」


『適材適所だよ。君が走れば数分で済む距離を、他の誰かに任せたら一時間かかるんだから』


「そうだけどさぁ……」


 不満そうにしてるけど、足を全然緩めないのが証拠じゃないか。

 背中の荷物もそこそこの重さがあるはずなのに、強化のおかげで、こうして普通に会話しながら全速力を維持できるんだから。シュヴァ様様だよね。

 まぁ、僕が荷物の一部なんだけどさ。




 あの拠点急襲を経て、現在。

 初めは全員で固まって動いてたけど、エスクリのそのスピード感から、次第に彼女が物資や情報を運ぶ役割に落ち着いていった。

 僕はこうしてエスクリに背負われてるのがデフォルトだから、拠点側や村の最新情報は彼女経由で仕入れるしかない。自分の足で確かめに行ける体があったらどんなに楽か……ってのは、もう何年も思ってることだけど。


「ヴィクはよくあんな文字読めるよねー」


『そうだね。本当に……』


 ヴィクはマージュとリュトを連れて、施設に籠り切りで中の記録をずっと解読中。あの古代文字? とやらを読めるのはヴィクだけだからね。あの拠点での情報収集にはヴィクが必須になる。

 施設の全体図とか、実験の記録とか……あとなんか、他の拠点との連絡記録みたいなのもあるって言ってたな。全容把握にはまだ時間かかるんだったっけ。

 朝から晩までぶっ通しらしいけど、ちゃんと休憩自体は取ってるみたいだからそこは安心かな。シュヴァの「読める」はハッタリだし、彼に何かあれば解読作業が完全に止まっちゃうから……無茶をされると困る。


「ボクもヴィクに着いていきたかったなぁ……」


『……本当に無自覚なのか? これで?』


 マージュはヴィクについていって照明係を担当中。

 あの施設はある程度明かりがあったけど、それでもやっぱり地下は暗めだから。ヴィクに続いて解読に必須な要員の立場が様になって来たね。

 精密な制御ができるから明るさの調整も自在だし、あの空間はしっかり換気もされてたから火を焚き続けても窒息する危険もない。

 派手さはないけど、替えの利かない仕事ってやつだね。それでもあんな地味な仕事で、マージュがずっとすごく満足そうにしているのはよく分からないけれど。


 リュトはヴィクについていって施設の中や周辺をうろうろ探索中。

 あの施設には他にも人除けの魔法陣が山ほど仕込まれてて、奥の部屋とか、重要な情報が隠されてる部屋とか、別の入り口を探すぞってなったときに彼女がいるとすごい重宝する。

 ソワンでの卵潰しの経験が見事に活きてるってことだね。本人は「使命なんかどうでもいい」って顔してるけど、結果的に重要な仕事をしてるっていう……この皮肉は本人に言ったら怒るだろうな。

 そういえば、ヴィクが先に気づいた様子を見せたこともあったな。彼も何か耐性があるんだろうか。


「ルメドとシュヴァは……ものすごく頑張ってくれてるよね。ボクたちにはできないことを簡単にこなしてみせるっていうか」


『二人とも、ちゃんと地位のある立場だったからね。旅人とは取れる手段が違うんだよ』


 シュヴァはシズィ時代の人脈をフルに活かして、色々と手配中。

 保護された『犠牲者たち』はきちんとした治療を受ける必要があるし、僕たちもお金を払って頼んではいるけれど……いつまでもセティに置いておくことはできない。

 そこでシュヴァはこの五日間の間に、シズィ経由でソワンまでの商隊を手配して、護衛も書類も着々と準備を進めてくれたんだ。セティ自体に来たことは無くても、シズィ周辺の地域ではシュヴァの名前が知れ渡ってるから、そこから便宜を図れるっていう訳だね。

 このパーティーはお金持ちだから、十分な報酬も用意できるし。


 ルメドは……今も犠牲者たちから突かず離れず、様子を観察中。

 爆発魔法を解除しても終わりじゃない。あの人たちは長年にわたる肉体改造の後遺症を抱えてて……普通の治癒術師じゃ手も足も出ない症例ばかり。いずれはソワンに送られる訳だけど、それに至るまでの間、できることを十分にしておくってのが彼の考えみたいだ。

 ソワンにはルメドの弟子や、それこそ彼の名前さえ聞けば動いてくれる人が山ほどいるから、到着後の受け入れ態勢だって期待できる。どういう対応を取るべきかの手紙も合間合間の時間で認めているらしい。


 牧場での情報収集という観点でも。

 救い出した人たちの救済という観点でも。

 このパーティーは現状、すごく順調な足取りを歩めている。

 いくらほぼ自分自身で構成されているとはいえ、役割分担含めてものすごく息が合っているっていうか。


「そういえばあの占い師──プレヴィ……さん、最近見かけなくなったね」


『そういえば……そうだね。最後に見たのは……いつだった?』


「分からない。いつの間にいなくなったんだろ。盲目のはずなのに」


『……大丈夫かな。そもそもどうしてこんなところまで来てたんだろう』


「それも分からない……あっ、エペ、見えてきたよ」


 おっと。

 小さな屋根が肩を寄せ合うように並ぶ、のどかな集落。セティの村だ。

 ここに辿り着くまでのこの時間が、僕にとっては貴重な思考の整理時間。


 でもまぁ、到着しちゃった以上、本来の仕事に戻らないと。

 さて! ここからまた忙しくなるよ。


 いや、実際動くのは僕じゃないんだけどさ。











 セティに着いたはいいけど、物資の準備にはまだ少し時間がかかるらしい。

 報告を受けるなり、シュヴァは辛うじて意識のある人に声かけをしに戻ったし、ルメドも特に衰弱している人のとこに戻っていって……おかげで待ち時間ができてしまった。


「……重いね、やっぱり」


『うん……』


 村のあちこちに、彼らの姿がある……けど、どの顔にも、生気がない。

 生きてはいるけど、生きてるって自覚があるかどうかすら怪しい。


 数百年前からずっと変わってない。

 こんなものが、現代でもまだ動いていただなんて。

 それが、つい最近まで、世界の誰にも見つかってすらいなかったなんて。


「数日経っても……こうなんだね」


『……前世の記憶を思えば、これでもマシな方だよ』


 通りを進むエスクリの歩調は……もうさっきほど軽やかじゃなくなってる。

 普段ならもう少し自信のある態度を見せてくれるのに、この光景の前には黙ったまま。視線だけがあちこちに動いて、一人一人の様子を確かめてるみたいだ。

 僕もあんまり軽口を叩く気分にはなれないから、自然と二人とも静かになっちゃうんだけど。


 ……でもさ。

 重い気持ちを抱えながらも、思うことはある。


 この人たちを助け出せたのは事実なんだ。

 あのまま水槽の中にいたら、実験材料として消費されるか、兵士に仕立て上げられるか。どっちにしろ人間として扱われることは一生なかった。

 少なくとも今は--村の人たちが作ったスープの匂いが漂う場所で、毛布にくるまれて横になれてる。それだけでも、あの地下とは天と地の差だ。


「……ねぇ、エペ」


『うん?』


「護送の準備が整ったら、この人たちはソワンに行くんだよね」


『そうだね。ルメドの弟子たちが受け入れてくれるはずだし、環境としてはここより整ってる』


「新しい場所で……やっていけるのかな。この人たち」


「それは……」


 正直、分からない。

 前世でも同じだったから。


 犠牲者の牧場を潰して、中の人たちを外に出して。でも解放しただけじゃ何も終わらなかった。

 外の世界を知らない人間に「自由だよ」と言ったところで、その自由をどうすればいいか分からない。恐怖で支配されてきた心は、鎖が外れても勝手には動き出さない。

 怯える人、暴れる人、何の反応も示さない人……前世で何度も見た光景と同じだ。


『時間がかかるよ。前もそうだった。でも──時間をかければ、少しずつ変わっていく人もいた』


「……うん。そうだよね」


 エスクリの声に、いつもの色ボケした感じはない。

 ただ静かに、目の前の現実を受け止めようとしてる。

 こういう時の彼女は……嫌いじゃないな。というか、好きだよ。

 前世の自分が、ちゃんと生きてるって感じがするから。


 すぐには無理でも、外の世界に触れ続けることで……少しずつ。

 本当に、少しずつだけど変化は起こってくれるはず。

 そう……信じるしかない。

 僕たちにできるのは──助け出すことと、その先を、用意してあげることだけなんだから。


 窓際で眠っている犠牲者の上に、午後の光が薄く差し込んでいて。

 その光が温かいものだってこと、あの人はまだ知らないんだろうな--




「──あ、の」


 ……え?




「えっ……と?」


 待って。僕も一瞬、何が起きたか分からなくて……。

 だって、この数日間で--犠牲者の方から声がかかったことなんて、一度も無かったし……。


 でも、さっきの声。

 声は掠れてて、弱々しくて、聞き逃してもおかしくないくらい小さい。

 ルメドや、シュヴァや、村の人たちの声じゃない。

 でも今のは……確かに、意思のある声だった。


「……エスクリ」


「う、うん。聞こえた」


 声の主は……ああ、いた。

 通りに面した民家の、開け放たれた扉の奥の人だ。

 壁にもたれかかるようにして座り込んでいた犠牲者の一人。

 さっきまで他の人たちと同じように、ただぼんやりと虚ろな目をしてたはずのその人だ。


 こっちを見てる。


「あ、あの……キミ。何か?」


 あれは、ぼんやりとじゃない。明確な意志を持ってる。

 焦点が合ってるんだ。この数日、誰もがそうだったみたいな、どこにも向いていない視線じゃなくて--はっきりと、こっちを……いや、エスクリの--顔に釘付けになってる?


 いや、顔じゃない。

 あの目線は──エスクリの、瞳に。


 あの金色を、見てる。




「その瞳は……『勇者シエルの生まれ変わり』、なのですか」











「えっ!!? いや! その! 何を!?」


「いえ、どちらでも……いいのです。聞いてください」


「……え、あ、うん、うん?」


 エ、エスクリ! 慌てすぎだ! 白状してるようなものじゃないか!

 いや僕だって驚いたけど……でもいきなり何を言い出すの!?


 ヴィクは……いや、ここにはいない。大丈夫。

 でも、こんな話……見ず知らずの相手に、はいそうですなんて認めていい話じゃ……!


「金色の……瞳。特別な意味を……持つ色だと……教えられて、いました。あの目を持つ者は……いずれ大きな、脅威になる……と」


「……っ!?」


「治療して、くれた人の……目も。同じ色、だった。だから……もしかしたら、と……思って……」


 待って、どういうことだ。


 治療してくれた人っていうのはルメドのことだ。彼の金色の瞳を、この人は間近で見ていたはず。それは間違いない。

 そこにまた、エスクリが同じ目を持って現れたから、もしかしたら、と。そう思って、声をかけたってことか?


 どうしよう。ルメドとシュヴァを呼ぶべきか?

 でもそれは自分たちがシエルであるということを認める行為にならないか? 何だ、何がこの場面の正解なんだ?


「わたし、は……魔王軍の、兵士でした」


「……! やっぱり……」


「施設で、生まれ育ち……恐怖で、支配され。命じられるまま、動いて……いました」


 でもこの人、声が震えてる。無理に何かを言おうとしてるみたいな。

 体だってまともに動かないはず。なのに、そうするってことは──何かを伝えようとしてる……?


「魔王軍には……指令が、ありました。勇者シエルの──生まれ変わりを……排除、せよ、と」


「ま、待って。整理させて。それって、つまり……」


 いや違う、エスクリ。整理なんて言っている場合じゃない。

 排除。シエルの生まれ変わりを、排除する指令。

 それが現存している魔王軍全体に共有されている。

 今聞かされているのはそういう事実なんだよ。


「……そして、これまでに」




「生まれた時に……強い魔力を、感知されて……その場で、殺された者を……二名」


「記憶を、すぐに取り戻し……子供の頃から、目立つ活動を……していた者を、七名」


「記憶を……徐々に取り戻して……それを、匂わせる行動を、していた者を、三名」


「シエル、としての活動を再開し……明確な、危険因子と……判断された者を……九名」


「合わせて……二十一名が──殺害、済みです」


 ……!!?




「う、うそ……キミは、何を……」


 ……二十一?

 二十一人のシエルが--既に殺されてる……?


 そんなまさか、信じたくないけれど。

 でも、確かに。僕たちは既に死亡したシエルの「前例」を知ってしまっている。


 僕たちが旅をして、ボスを倒して、少しずつ仲間を見つけて──こうしてここにいられること。

 それは実力のおかげなんかじゃなくて……ただの、偶然なのか。

 もし少しだけ目立つのが早かったら。もし生まれた場所が違ったら。もし記憶の戻り方が違ったら。僕たちだって、あの二十一の中に数えられていたかもしれないのか……?


「これを……伝え、たかった」


「つた、伝えたかった……って--ねぇ、キミ!?」


「もし……あなたが、そう、なら……気をつけて、ほしい。わたしたちの、行いの……」


「!? だ、大丈夫!? ねぇ! ……ルメド! ルメド!」


「は、はいっ! 呼ばれました! 何事ですか!」


 ……っ!

 ……なんて、ことだ。


 もし、さっきの言葉が事実なら。

 今、彼は……意識も朦朧とする中、これまで自分が行ってきた行いを救い出された今こそ。警告として、懺悔として、僕たちにこの事実を伝えようとした……ってことになる。

 それは……つまり……。




 今の魔王軍が--勇者シエルの転生を認知しているということを。

 そして、勇者の魔力や金色の目という特徴を把握した上で--組織的な狩りを行っていることを……意味している。




 ……どうして? どこから漏れた?

 あるいは魔王側が独自にそれを突き止めた?

 僕の転生は秘中の秘だったはずなのに。

 あの言い方じゃ、完全に見透かされている。


「エペ……これ、は……」


『……エスクリ。勇者会議だ、今すぐに……』


 転生して、世界の抑止力になるっていう──あの計画そのものが。

 最初から、敵に筒抜けだったのかもしれないってことに……なるんだから。

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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