男女の間に友情は……?
多分存在すると思うけど、シエルsに関しては是と言い切れない(・∀・;)
「リュト、少し話が──」
「おうその前に言っとくぞ。オレも勇者シエルだ」
「えっ」
「あーやっと言えた。これでもう変なフリしなくていいんだな? せいせいしたぜ」
「えっ……?」
*
最近なんだがムカムカする。
原因は間違いなくあのお人よしのせいだ。つっても、アイツに腹が立ってる訳じゃなくて、今のこの意味不明な状況に割合がつかなくてイラついてるだけだが。
──「ぼく、自分の気持ちが、本物なのかどうか、分からなくて」
……あれが、始まりだったんだろうな。
あの時の、マージュの声。ふにゃっと頼りなくて、それでいて、奥の方にはちゃんと熱を抱えてて。今思えば、あれが一番分かりやすい兆候だったのかもしれねェ。
相談受けた身だから一応オレなりに話を聞いて、適当に返事したつもりだった。あの時はあれで終わりだと思ってたんだ。マージュ一人がちょっと拗らせてるだけ。そう片付けてた。
……片付けてた、が。
あの頃からずっとなんか引っかかってやがった。
オレに相談しに来たマージュの目つきが、声色が、息の詰まり方が。あんなのもう「友達感覚で話してる」レベルじゃねェんだ。アイツの中で、ヴィクがどれだけの位置にいるか。それが、オレの想像してたところより遥かに上だってことが、あの時はっきり分かっちまった。
オレとは、温度が違う。
いや、温度どころか、種類が違ェ。
それも、マージュどころじゃねえ。他の全員、抱えてるのはオレとは違う。マージュだけが特別ヤバいんじゃなくて──このパーティーが、全体的に、もうそういう方向に傾いてる。
違うのはオレだけだ。
「ヴィクくん。変なこと聞くんだけど──男の人が好きな男の子って……どう思う?」
「……少し考えていいか。すぐ結論は出せない、かも……」
「うん。や、深い意味はないから、そこまで考えてくれなくてもいいんだけどね」
「……」
そのマージュが、今じゃこの有様。
もう一切遠慮せず分っかりやすいアピールするようになりやがった。
オレに相談した時の、自信なさげな声はどこに行った。今じゃヴィクのすぐ横にぴったり寄り添って、スキンシップ取りつつ、ヴィクの反応が逐一変わる度に顔を綻ばせて。
完全に吹っ切れたんだろうが、あの頃のオレの遠慮を返してくれよ。あの時のお前は、もう少しオレに気を遣ってくれてた気がするんだが?
……まァ、いいけどよ。
別に、んなことはどうでもいいんだ。アイツがどうしようがアイツの勝手だし、ヴィクがそれを受け入れてるならそれもアイツの勝手だ。オレが口を出す問題じゃねェ。
……ねェ、はずなんだが。
「ヴィクトール、こういった柄はどうだろうか。君の好みには合っているか?」
「……綺麗な柄だな。俺は洒落てて素敵だと思う」
「そうか。この柄の下着を買おうと思っていたのだが」
「……」
シュヴァの野郎まで、こうだ。
オレとぎゃんぎゃん言い合ってたヤツが……今じゃこれ。
最近のアイツは見るたびに何か変えてやがる。髪型だったり、装飾品だったり、ちょっとしたところに花を挿してたり。今日はなんか、首元に細い銀の鎖みたいなのが見えるし。
堅物の固いヤツが色を覚えると、こうも素直になっちまうのか。あんなに「使命」「正義」「勇者として」って言ってた割に、いざヴィクのこととなると、ぜんぶ脇に置いて女の子モードに突入してるじゃねェか。
オレに使命を強要するなって言ってた頃のシュヴァは、どこ行ったんだ。
ま、別にいいんだ。アイツがどうしようがアイツの勝手で……。
いや、待て。なんかちょっとさっきから同じこと考えてるな、オレ。
「いいでしょ、いいよね別に、もう過ぎたことなんだから」
『過ぎたことって……あれだけヴィクに「誤解だ!」って喚いておいて?』
「だ、だって。もう謝ったし、誤解も解けたし、ヴィクだって何も言わないし」
『誤解は解けてないと思うんだけどな……』
「うるさいなぁ! エペには分かんないよ、女心……男心ってやつが!」
『そりゃ分からないよ、剣だもの』
エスクリには何があったんだ。
ちょっと前からずっとヴィクに近づいたり離れたりを繰り返して。
前に中継した街でヴィクとなんかの話して、そこで「致命的な指摘」をされたっぽいことは後でエペから聞かされたが。何がどうなりゃ前まで「ボクが相棒だ」って堂々と隣を確保してたエスクリが、今はちょっと斜め後ろぐらいに位置取りしてやがるんだ。
まァ理由は大方大したことじゃねェんだろ。別にヴィクから距離を取られた訳でもねェだろうし、本人が勝手に気にしてるだけ。どうせその程度だ。アイツが色ボケなのはずっと前から分かってたんだし。
逆にエペもなんか最近は変だ。
別にエスクリみたいな色ボケじゃあねェが、ヴィクと会話解禁になってからちょっと遠慮がないっていうか。だいぶヴィクに味方寄りの発言するようになって、自分のアイデンティティ強調するようになったって言うか。
「……うぅ、眠い。診察に時間かけ……すぎ……た……」
ルメドは歩き疲れて馬車で寝ちまってるし。
昨日も夜中まで何やってやがったのか。
アイツも大概だな。一番体力がないから、疲れたら一人だけ馬車に乗ってるってのは前々からのことだが……寝言でもヴィクの名前呼んでたりするし。最近のお前が寝不足なのほぼ私情じゃねェか。
ソワンのお偉いさんから色々オファー受けてただろうに全部蹴って着いてきてるんだよな? それでやりたいことが下心マシマシのお医者さんごっこって。信仰心は何処に行ったんだ、お前。
「……はァ」
全員、こうだ。
どこを見てもヴィクヴィクヴィク。
視界に入る人間が全員、何かしらの形でヴィクに向いてる。それぞれの方向から、それぞれの熱量で、同じ一人の男に矢印を向け続けてる。特に変わらないのはサシナぐらいのもんだ。
最初は「偶然シエルの生まれ変わり達がヴィクの周りに集まってる」っていう構図だったはずなのに、今じゃただの恋愛集団じゃねェかよ。
しかも全員自覚があんのかねェのか分からねェまま突き進んでるのが、一番タチが悪ィ。
オレだけだろ、まともなのは。
オレだけだ。間違いなく。
「じゃあ初めから全員シエルで……俺は、これからどうすれば……」
ヴィクだって最近はぎこちなくなってる。
仲間達がシエルだって判明して以降、アイツの態度が分かりやすく揺れてるし。あの鬼教官に告白して玉砕したとは聞いちゃいたが、そこに間髪入れず衝撃の告白を立て続けに受けてるんだ。元々誰にも無下にできない性分なのに、相手が全員「憧れの存在の生まれ変わり」だってんだから、対応に困らない訳がねェ。
自分の気持ちも整理できないまま、全員に同じくらい気を遣おうとして、結果的にどれにも対応しきれてない感じ。周りの距離の近さにも戸惑ってるっぽいし……そりゃ元男だって分かってるやつからあそこまで分かりやすく好意向けられりゃァ混乱もするか。
まァでもこれに関しちゃオレが知ったこっちゃねェか。シズィに着いたところで次のシエルと浮ついた話するだけなんだし、女共をホイホイ引っ掛けるようなこと言って来たのは他でもないコイツ自身。ほとんど自業自得みたいなもんだ。
そもそもオレのこの体にマッサージって名目で触れておきながら微塵も下心出してこねェんだし。そもそも性欲なんてもんがねェんだろ。距離詰められようが別に丁度いいんじゃねェか。
「で、お前はここでなにしてやがる」
「サシナちゃんは後方腕組み幼馴染面しているだけ。気にすることはない……」
面もなにも幼馴染だろうがテメェ
何言ってんだコイツ。
「ああそれと──ヴィっくんのこと、心配してくれてありがとう」
……は?
え、何、急に。
「前々からリュトには礼を言っておきたかった」
「……は、え?」
「リュトは自由を愛する。パーティーも近いうちに抜けると聞いていた。しかし今も残ってくれている。こうやってヴィっくんのことを気にしてくれてありがとうと。幼馴染として謝辞を述べたかった」
「いや、そりゃ、別に……」
……急に何を言い出したのかと思えば、そんな訳ねェだろ。
そんなこと言うためだけにこっち来たっていうのか。
確かに、オレは自由だ。
使命なんざ知ったこっちゃねェし、誰かに縛られる気もねェ。このパーティーに居続けてる理由だって、別に大層なもんがある訳じゃねェ。そう思えば今のオレのスタンスはちょっと違和感がある。いつだって、降りられるはずだったのに。
ただ、オレがヴィクを心配ってのは……違うだろ?
してねェよ。一ミリもしてねェ。サシナ、お前何見てんだ。オレは別にアイツを心配してる訳じゃない。同情は多少してやってもいいが、でもそれは心配とは違う。
全部、ヴィクを心配してた訳じゃねェ。
全部……。
「……別に。そんなんじゃねェよ」
「そっか。それでも──ありがとね」
「おい、なんだその答えは。答えになってねェだろ」
「ふふふ……」
な、なんなんだコイツ。
違ェよ。オレはな、自分の同類達が暴走しねェか見張ってるだけだ。
オレはヴィクのことを仲の良い友人程度には思ってる。そんなヤツが、オレの同類に寄りかかられて困ってたら可哀想じゃねェか。仮にも自分自身なんだから、あんまりなことしてたら自分の恥にもなっちまうし。
オレがパーティーを中々離れられねェのはただそれだけだ。別に心配してるって訳じゃなくて、友人としてそれぐらい普通だろってだけの話。
どうせ、時期が来ればまた勝手にどっか行くよ。そこまで執着してる訳でもない。
どっちにせよ明日にはシズィに着くんだ。あと一日寝て歩くだけでこの旅は終わる。
だから、ヴィクのことを心配してた訳じゃねェ。
アイツとオレは、ただの軽ーい男友達さ。
*
……マッサージ、頼みたい。
これまでずっと頼めてなかったし、もしやるってなれば随分久しぶりだ。明日になればシズィに入るからもう易々と頼めなくなっちまうし、オレだってそこまで来たらいい加減一人旅を再開しようか迷ってた。
だから、この夜を逃せば、次のマッサージは相当後になっちまうかもしれない。そりゃちょっとキツい。
今日の宿はない。シズィまであと少しの野営地で野宿だ。
生憎、今晩の見張りはヴィクが担当だ。他の奴らはそろそろ寝る準備に入ってるし、オレも後は寝るだけだ。じゃあちょっとヴィクのとこまで行ってマッサージを頼むのも悪くないな。
もし邪魔が入るようなら諦めるが……ああ、いたいた。周りには誰もいねェな。マージュのつけた火魔法が光ってるだけで、いるのはヴィクだけだ。よし。
「ヴィク、今いいか」
「ん……ああ、リュト。眠れないのか?」
「マッサージ、頼みたいんだが」
これも初めに提案した頃は「女の体触れるんだから役得だろ」みたいな思いがあったが……最近はめっきり思わなくなっちまったな。
ただ、力加減じは依然として高クオリティだし、面倒ではあるだろうが頼めば基本いつでもやってくれる。デリケートなとこには触れないよう意識してるみたいだし、相変わらず丁寧なマッサージだ。
だから今日もそれでオレを癒し……。
「……リュト、あんまり男にそう簡単に体を預けるべきじゃないと思う」
……は?
「前までやっていた俺が言うのもなんだが、あまりにも無防備すぎだ」
「……いや待て待て待てなんだそれ」
なんで急にそんなこと言い出すんだ。今までずっと応じてくれてたじゃねェか。
オレが今日どんな気持ちで昼間歩いてたか知らねェのか? 周りとの感情のギャップにうんざりしてて、体の疲労もなかなか取れなくて、最終日だし今日こそマッサージ受けてすっきりしてやろうって期待してたんだぞ?
なのにいきなり断りやがって。何か心変わりでもあったのか? 他のシエルに「あのマッサージは卑猥だから止めろ」とか嫉妬交じりに釘でも刺されたのか? シュヴァか? シュヴァなんだろ?
「リュトは……その、シエルなんだよな」
「おう。そう言ったろ」
「……そのせいで、自分を男だと思ってるんだろうが──今のリュトは女だぞ」
……あー、なるほどな。
心配性が発動してやがる。
周りのシエル共が急に正体開示した挙句あんまりにもべたべたするようになりやがったからな。ヴィクもあんまり健全じゃないとは薄々分かってたんだろ。
そんなアイツらの様子を見てて、今のオレのマッサージ要求が同じ風に見えてんのか。言ってみりゃ相手に体を触るよう要求してる訳だし、傍目からすると確かにアプローチにも見えなくはねェ。
いや、分かるぞ? お前がそう感じる気持ちも、それを口にした理由も、全部分かる。
……分かるんだが。
オレを、その中に入れるのは違ェだろ?
オレはな、純粋に、ただ、体が凝ってるから頼んでるだけだ。武闘家として当然のメンテナンスで、それをやってくれる相手が他に居ねェってだけの話。下心も好意も、混じってる訳がねェ。
なのにお前は、オレもアイツらと同列に扱おうとしてるってのかよ。あいつらの色ボケと、オレの純粋なマッサージ要求を、同じ箱に放り込もうとしてやがる。
要はオレを他の連中と一緒にしようとしてやがんだ。
心外だぜ。マジで。
「今更なに意識してんだ。別に大層なもんじゃねェだろ」
「……これまで旅をしてきて自覚したが、皆は俺に依存してる節がある。あまりこういうのは良くないと、最近思うようになった」
「やっとかよ……じゃなくて。だからってこれは違うじゃねェか、そもそも──」
「──お前に、どうせ性欲なんざねェだろうが」
「えっ」
おいおい、「えっ」ってなんだよ。実際そうだろ。
今までだって、何もなかったじゃねェか。オレの肩揉んでも背中揉んでも脚揉んでも、変な空気一度も出したこと無ェよな? そんな、急にオレを女扱いするような素振り見せられてもよ。
お前にとってオレなんて、ただの仲間で男友達だろうが。オレはアイツらとは違ェんだから、さっさと納得して、いつも通りマッサージを始める。それで全部済む話だろ?
「……」
「ほら、早く始めてく……れよ……?」
……あ?
なんで急に近づいて……って、ああ。やる気になったのか。
ちょい待ち、今寝転がるか、ら──
──ドサッ!
「……っ?」
……は?
…………押し、倒されてる? オレが?
いや、待て。抵抗だ、振り解け。
なんで押し倒されてるかは分からねェが、こんなのさっさと振り解いて話を聞かねェと。
あ、いや、ちょっと固いな。そりゃそうか、コイツの方が力強いもんな。
待てよ、なんか固いな。マジで動かねェぞ。そこまで力の差はないよな?
は、あれ、なんで押し倒されてるんだオレ。
ピクリとも……嘘だろ。岩盤だって砕けるんだぞ、流石に一切動かないなんてことは……。
「リュト」
「っ、なんだよ。てかなんだ、この状きょ──」
「──俺も、男だ」
……えっ。
………………えっ?
「今までのマッサージも、頑張って抑えてたんだ」
「ばっ、ちょっ、何言ってやがる。そんな訳……」
「リュト」
……っ。
ち、近くねェか。声も近いし、息も近い。
なんでだよ、なんで、こんな動かねェんだ。
なんか、力も入らねェし。目が合わねェし。
でも、そんな素振り見せなかっただろ。
本当にただ手加減するのに必死だっただけ? 好きだった「師匠」のことが心にあったから? 自分が「魔王の生まれ変わり」だからそんな気持ちになっちゃ駄目だって抑え込んでただけだってのか?
それで、隠してただけで、本当は、意識してたって?
「分かったか」
「分か、分かったって。離、せ!」
「悪い、乱暴な真似して。でも、もう少しよく考えてくれ」
「……っ、わ、悪かったよ。オレも、ちょっと、不用心だったから」
「ありがとう」
なんだ、今の。なんだったんだ、今の。
なんで、こんなに心臓がうるせェんだ。
ヴィクが男なのは、知ってた。最初から知ってた。男だってのは知ってたはずだ。
オレより力が強いってのも、押し倒されたら敵わないってのも、分かってた。
でも、実際に押し倒されたことは無くて。まさか、あそこまで力強いなんて思わなくて。
でもオレは、あいつらとは違うはずだ。純粋で、何の下心も無く、ただ仲間として……。
なのに、まさか、オレ……。
な、何なんだよ、これ……!
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