勇者が勇気のおすそ分け
なんでこんな書きにくい喋り方にしたのか(´・ω・`)
サシナ回で毎回苦労することが予想できなかったのか私は……。
「という訳で。婚約の話を聞きに明日の朝にはここを発つことになった」
「もうそんなにすぐ? その相手がいるのは?」
「シズィ。ヴィっくんを筆頭にパーティー全員で向かう」
「そ、そうなの……」
今日は師匠への見舞いついでにそろそろ出発することを伝えに来た。
ヴィっくんの療養期間は無事終了したみたいだし。当然わたしもついていくので。
寝台に半身を起こした師匠は相変わらず顔色が薄いけど……だいぶ回復してそう。
ラ・ヴァアズに飲み込まれて長期間消化されかけていたのだから当然。対魔王軍が大急ぎでソワンに運び込めたのが功を奏したのか。欠損していた四肢も元通りに見えるし。
師匠が人質にされたときはもう二度と取り返せない可能性も覚悟していたけれど……。
──「師匠の無事も確認できたし、これで安心してシズィに向かえるな」
うん。
今日もイマジナリーヴィっくんの言う通り。
師匠がそんなすごい毒物を奥の手として運用していたことは初めて知ったけれど……後遺症諸々が不安だったから。こうして元気にしていることが確認できて非常に安心。
師匠も自分が昏睡していた間に全部解決していたことに驚いていたけど弟子が災厄討伐に役立ったことを誇らしく喜んでくれたし。後は傷も治してユイヌに帰るだけ。また平和に暮らしていくことになるはず。
わたしもイマジナリーヴィっくんのおかげである程度自律して動くことができるようになった。
今日お見舞いにやって来たのもイマジナリーヴィっくんが「出発前に弟子が見舞いに来たら師匠も嬉しいんじゃないか」って言ってくれたから。
現に師匠はちゃんと報告に来てくれたことを喜んでいるみたいだし。流石イマジナリーヴィっくん。
一人は寂しいだろうしイマジナリー師匠も作ろうと思ってたけど……それはイマジナリーヴィっくんが照れるかもしれないから止めておいた。
イマジナリーヴィっくんって語呂悪いな。
イっくんでいいか。どうせ本人がいないときの代役でしかないし。
──「後は本体の俺が見舞いに来て……その、告白……するだけ、だな」
そうそう。
後はヴィっくんが見舞いに来て長年の想いを告白するだけ。
ヴィっくんは怪我人ということもあってずっとこっちに来れてなかった。
ただついこの前ルメドがほぼ完全な快復を確認していたしもう大丈夫のはず。
ヴィっくんは師匠が大好きだし。何よりこれから──ディアマとかいう人との謎の婚約問題とも向き合わなきゃいけない。
その前に初恋の相手と積もる話もあるはず。もしかしたら告白イベントのフラグが立っているかも。
いや立っている。間違いない。きっとヴィっくんは自分の気持ちにケリをつけるため告白する。
彼はそういう人。他に好きな人がいるのにそっちを片付けず他の女との縁談に花を咲かせはしない。
なので今回わたしがすべき「正解」というのはズバリ……。
師匠の下へやってくるヴィっくんの背中を押すこと!
実はこれもイっくんの提案。ヴィっくんの告白の前に──緊張している「本体」を勇気づけてやればきっと頑張れる。だから勇気づけてやれと。
イマジナリーが「本体」のことを想いやって「勇気づけろ」と指示するのもだいぶ変だな。わたしの自我はおかしなことになっていないか?
まぁいい。
ヴィっくんが告白するかしないか。したとしてそれが成功するか失敗するか。それは幼馴染のわたしには分からない。
ただ後押しすべきだろうと判断したから後押しをするだけ。
師匠も鈍感だけど今の成長したヴィっくん相手なら満更でもな……。
「それにしても、ヴィクトールが結婚……ねぇ。もうそんな年に……」
……ん?
「そうよね、もう立派な年だもの。良い相手ならそのまま結ばれるでしょうね」
……んん?
「母親代わりみたいなものだったけど、子離れってこういうことなのかしら」
これは……どっちだ?
わたしとしてはヴィっくんが出発前に師匠に思いの丈を伝えるものかと。
旅の道中もあまり師匠の話は持ち出さなかったけれど、あれは自分が魔王であるという引け目があったからで。問題を解決した今ならヴィっくんは自分の気持ちに向き合うだろうと考えていた。
師匠もヴィっくんの気持ちには気づいていないけれど……別にヴィっくん相手なら満更でも無いんじゃないかと想定していた。
ヴィっくんのアプローチはなんだかんだ分かりやすかったし。心のどこかで薄々気づいていたんじゃないかと……。
あれ?
なんか結構他人事みたいだな。
「師匠……」
「なに?」
「師匠はヴィっくんを……男としてどう思う?」
「どうって? 背負い込みがちなところはあるけれど良い男よ。相手は幸せになれると思うわ」
ああなんだよかった。
それならまだ──
「──まぁでも私の守備範囲ではないわね。年の差離れすぎてるし」
えっ。
──「えっ」
……あっ。
「まぁ私の意見は参考にすべきじゃないわ。年のせいか、男を見るっていう感覚そのものが、もうあんまりピンと来ないし」
あー……。
「あの子はほぼ身内だから。普通より余計にひいき目が入って客観的に見れないと思うの」
わー……。
「私からしたら本当に小さい頃からの……うん、どう考えても『息子』だし。それ以外で見ようがないというか」
おー……。
お、思ったより。
綺麗に脈無しだったぁ……。
*
「元気出して……」
──「いや、俺は、大丈夫だ。だが、その……」
「しまった解像度を上げ過ぎた」
なんてこった。
隣を歩くイっくんの気配が重い。「本体の事情」とはいえ告白する前に玉砕が成立してイマジナリーが本気で落ち込んでいる。
顔は見えていないけど見えていなくても分かる。すごくしょげている。
言葉を発しない。発しないというよりは発する元気がないというか。発せられる状態にないというか。
わたしの隣でただ俯きながら歩いているだけ。
……これあかんやつや。
イっくんは本来「本物のヴィっくんがいない時にヴィっくんの思考をトレースして『正解』の判断材料を提供してくれる便利な代役」のはず。
指示待ち人間のわたしが自律して動けるようになるための補助輪としての機能を果たす存在。なのに今は完全に補助輪が外れて転がっていく寸前のお荷物。
これはわたしのトレース精度が高すぎるせいか?
幼馴染を十年以上やった結果ヴィっくんの解像度がイマジナリーに反映されすぎている。「師匠に告白して断られると分かった時のヴィっくん」までしっかり再現してしまったのか。
なんというわたし。これを流石というべきか。融通が利かないというべきか。
結果としてご覧の意気消沈モード。ここまで生々しく落ち込んでいるイマジナリーに構ってやらないわたしもひどい妹分だが……いやいや今はそれどころじゃない。
問題は本物のヴィっくんだ。
わたしは本物のヴィっくんに会いに行く途中。告白の背中を押す予定。
しかし師匠の答えはほぼ「断り」確定。
……これ。
結果が分かっているのに本当に背中を押していいのか?
幼馴染としてはさ。失敗が予測できる行動を止めないのは無責任なのでは。
兄貴分を守るのは妹分の役目では。
「……ふむ。どう思う?」
──「……え? あ、そ、そうだな。えっとだな……」
「いや。もういい。あまり期待できそうにない」
──「えっ」
完全に役立たずじゃないかお前。
お荷物は脇に置いてもう一度整理しよう。
まず師匠の発言。「年の差離れすぎてる」「男を見るっていう感覚そのものがピンと来ない」「身内枠」「息子枠」。
確かにこれらだけ聞けば即お断り案件にしか聞こえない。
しかしよく考えるとこれは「現時点での」師匠の認識でしかない。告白されたら考え直す可能性は普通にある。
女性は告白されてから相手を意識し始めるという話はわたしも聞いたことがある。
つまり師匠が現時点でその気がないからといって今後もずっとその気にならないとは限らない。
可能性。希望は捨てきれない。
次にヴィっくんの感情。幼少期から十年以上師匠に好意を寄せていたのは事実。
しかし旅に出てから数年経過。わたしと出会って以降も師匠の話の頻度はあまり高くない。
もしかすると本人の中で気持ちの整理が既に終わっている可能性もある。告白というよりは「今までお世話になりました」のような区切りをつけに行くのかも。
であれば告白の成否は最初から問題ではない。
最後に師匠の言い方。「守備範囲ではない」と言いつつ「相手は幸せになれると思う」とも言っていた。
ヴィっくん本人の人格や性質には文句なし。ということは年齢差さえどうにかなれば──とまでは言わないが。
絶対的拒絶ではない。可能性ゼロではない。
数百年生きたエルフが「年下の人間を男として見る」感覚を取り戻すきっかけが告白だったというパターンも理論上はあり得る。
ポジティブに考えれば別にヴィっくんの背中を押す理由は他にだってある。
あるはず……。
「……いや」
難しく考えすぎか。
可能性はある。可能性はないかもしれない。可能性は半分くらいかもしれない。
だったとして──その可能性をわたしが操作できはしない。
だってこれを判断するのはわたしじゃない。
師匠の感情は師匠のもの。ヴィっくんの感情はヴィっくんのもの。告白するかしないかも告白した結果どうなるかも全部当事者の話。わたしが考えても答えは出ない。
ヴィっくんが告白して師匠が断って。ヴィっくんが意気消沈する未来──それはそれ。
ヴィっくんが告白して師匠が考え直して。何かが変わる未来──それもそれ。
ヴィっくんが告白しない未来──それはそれで仕方ない。
わたしの行動原理は「今現在の正解の指示に従って行動する」。
ただこの一つ。他の選択肢なんか初めから存在しない。そんな風に器用に動ける人間ではない。
ただ応援することが今の正解だから──わたしが応援したいから応援するというだけ。
予測できる失敗を止めないのが無責任?
知らない。失敗するかどうかはわたしが決めることじゃない。
わたしが勝手に「失敗するから止める」と判断する方がよっぽど傲慢では。
それはヴィっくんの選択を奪うことになる。
──「……」
イっくん相変わらず重いけど……でもまぁ。仕方ない。あなたには悪いけれど現実は現実。
本物のヴィっくんが告白するかどうかも分からないし告白したとしてどうなるかも分からない。
「──うん」
決まった。
ヴィっくんが告白したいなら──わたしは迷わず背中を押せばいい。
*
他のみんなは自分の荷造りで忙しいから不在。シズィへ向かう一行はそれぞれの部屋に散っているはず。
ヴィっくんの部屋も……既にきっちり片付けられていて机の上には荷物がまとめられた背嚢が一つ。窓際に旅装。明日への準備は万端っぽい。
「ヴィっくん」
「……サシナ、か。えーと……」
「準備できた?」
「ああ。そう、だ……」
……なんか混乱してる?
あああれか。エペから告白を受けたのか。それで今も動揺していると。
……そんなんで大丈夫か?
サシナちゃんは幸先が不安だぞ?
「で、せっかくだし。この後、師匠のとこに挨拶にも、行こうかと」
「良いと思う。結局ユイヌでは会えず終いだった。師匠もヴィっくんに会いたがっている」
「……それで、その。挨拶のついでに、なんだが」
「ふむふむ」
「……実は、師匠に、告白しに行こうと思ってる」
……ふむ。
やはり、予想通り。
むしろその口ぶりだと今まで隠せていたつもりだったのか。
無駄な抵抗だぞ。
確かに最近は大人しいと思っていたけれど。幼少期からずっと続いていたあの分かりやすい好意を──出発前にちゃんと形にする気だった。
なるほどなるほど。そうするだろうと思っていた。
「……明日にはここを発つだろう。シズィの話もあるし、次に師匠と会えるのがいつになるか分からない」
「うん」
「俺は……そのままにしておきたくないんだ。中途半端なまま、シズィに行くわけにはいかない」
ふむふむ。
まぁ分かりやすいくらいにヴィっくんは緊張している。
いつもより姿勢が硬い感じ。声の張りも普段の半分くらい。視線もちょっとずつ動いていて落ち着かない。手元の荷物を意味もなく整え直したり。
あのヴィっくんがここまで挙動不審なのは中々レアかもしれない。あまりにも分かりやすい緊張。
数百年生きたエルフは厳しいぞヴィっくん。
「サシナだから言うが……正直、上手く言える気がしない」
「うん」
「でも、言わないまま先に進むのは違うって思ったんだ」
覚悟を決めようとしている。頑張って決めようとしている。ヴィっくんらしい。
わたしが背を押すのは確定した。
……でもこの様子だと押す側にも工夫がいる。
ただ「頑張って」とか言うだけじゃ足りない感じ。緊張の度合いが普段とは違う。もう少し強い後押しが必要。
……。
……あ。
そういえばエペが勇者会議で言っていた。「ヴィクに正体を順番で告白していこう」と。
あれからもう結構時間が経っている。
エペが筆頭に立候補していたし。さすがにエペはもう言っているはず。流石に。
ということは──もうわたしが告白しても問題ない。
しかもこれは使える。
ヴィっくんは勇者シエルに憧れていた……らしい。
そんな憧れの存在から「告白頑張れ」と言われたら?
間違いなく効くはず。
うん。決まった。
「ヴィっくん」
「ん……なんだ、サシナ」
「ヴィっくん憧れの勇者シエルであるわたしが──ヴィっくんに勇気をおすそ分けー」
「……は?」
「……おすそ分けー」
「………………は?」
「その。だから頑張って」
滑ったじゃないか。
どうしてわたしの渾身の勇気パワーを受け取らないんだ。これじゃわたしが急に変なこと言い出した人みたいだろ。
サシナちゃんに羞恥心が無いと思ったか?
甘いな。普通に今恥ずかしいぞ。
「ま、待ってくれ……サシナ、勇者シエルの……俺の、幼馴染が、勇者の……」
「いや落ち着いて」
「えっ、いや、頭が、整理が……ちょっと待ってくれ、これ、どうすれば」
「とりあえず告白頑張って」
「い、今その状態で師匠のところに行けと?」
「いえす」
「……」
……。
ふーいい仕事した。
背中は押した。わたしの仕事はもう終わり。
後はヴィっくん次第。告白が成功するかどうかは分からないけれど……上手くいくことを祈っている。
「は、え……お、俺……え……?」
「ほら行った行った。いつまで部屋にいるんだお前」
「えっちょっ、ここ俺の部屋──」
──バタン!
……さて。
じゃあわたしはこの部屋で待って結果を聞く係に徹するとしよう。
成功したならそれで万歳。幼い頃からの恋の成就を祝い、新たなる門出を祝福してやるのが幼馴染の役目というもの。こればかりはイっくんに頼らずとも正解が分かる。
もし失敗したなら。
その時は……。
……仕方がない。
本当に仕方がないことだが──わたしで慰めてやろうか。
わたしは生娘ではあるけれど──失恋の慰めぐらいなら一晩ぐらい付き合ってやってもいい。
それでヴィっくんが元気になれるなら軽いもの。元気になったらまた次の恋を目指せばいい。世の中には師匠以外にも女性が大勢いる。噂のシズィのお嬢様もいるし選択肢は一つではないのだ。
とりあえず一回失恋を消化し、溜まった気持ちをとりあえず発散して、諦めをつけてから次に進めばいい。
そうすればスッキリした気持ちでシズィに向かえるはず。我ながら完璧なプラン。
「ところでイっくん」
──「……」
「はぁ……」
そろそろ復活しない? 本物のヴィっくんはちゃんと出ていったよ? 半ばわたしに強制されてだけど。
こっちのイっくんはだらしないな。いくら本物のヴィっくんをトレースした存在とはいえ、未だに失恋のショックを引きずってるのか。
まぁこっちは慰めなくても情報をアップデートすればいいだけだから楽でいいけど──
──「サシナが……勇者シエル……?」
「いやお前もかい」
なんてこった。解像度が高すぎる。
わたしってばヴィっくんに影響されやすすぎ?
なおこの後ヴィっくんは困惑しきったままエネの元へ向かい容赦なく玉砕します。
可哀想(´;ω;`)
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