人型戦闘機 巨大レールガン搭載艦
屁理屈炸裂回です。
巨大レールガン搭載艦は万久里と巨大レールガン双方のあまりのデタラメさに、万久里量産は不可能と片付けられた。
とにかく全長2キロメートルのレールガンを船体内部に収めないといけない。
真空中とはいえ浮遊物質は必ず有る。特にデブリだらけになる戦場での使用が必然である戦闘艦なら、砲口は必ず扉を着けて内部に不必要な物が入らないようにしないといけない。
使用場所が戦場で有るからには、流れ弾や様々な浮遊物から砲を守らねばいけない。
レールガンを剥き出しで運用するなどしてはならない。だから砲口に扉も着ければ内蔵もする。
「全長2キロのレールガンを内蔵ですか。それも複数」
「必然的に装甲部まで入れると全長は2キロではすみませんね」
「装甲と機関部も入れると万久里の長さは、あれで最低限なのか」
「そうですが説明しておきますと、万久里の長さを決めたのは運用上の問題で超弩級戦艦が収まる大型宇宙船ドック4基を内蔵するということからです。レールガンの長さは現在製作できて内蔵できる最長として決めました」
「もしかしてまだ余裕があるのか」
「後500メートルは伸ばせます」
「今ので最終速度が1000km/sだよな。後500有れば」
「制御が出来ないので出せても1100かと思います」
「1200は?」
「試験的に全長3キロのレールガンも試作しましたが、1200は出せませんでした。今の技術ではこれ以上の制御が出来ないのです。それに長すぎると精度が出せません」
「精度か。確かに精度がないとどこに行くか分からないな」
「[ 子供でも出来るレールガンの作り方教室 ]という本を渡しましたね。メディア付で」
「渡されましたが読んだのと実際に体験するのでは大違いでしょう」
「分かります。では製作に関わった人間から言わせてもらいます」
「聞きましょう」
「2度とやりたくない」
「「「……」」」
「何故?」
「お聞かせしましょう、あの苦行を」
「え?ちょっと待って。苦労や苦闘ではなくて苦行と言うの」
「アレが苦行でなくてなんなのかと言いたい」
「それほどに」
「それほどにです」
「一体どんな」
「まず製作場所がおかしい」
「「おかしい?」」
「重力の影響を最小限にすると言って、製造元の川崎重工本社工場が有る兵庫星系惑星神戸の播磨コロニーから1000万キロに持って行った工場コロニーが製造現場」
「1000万キロとな」
「そうです。休暇で本星に行っても日帰りは不可能。高速船で往復1日。高速船は緊急以外の旅客割り当てが少ないのでした。つまり年4回の長期休暇以外はほとんど閉じ込められていたのです」
「厳しいですな。しかし、日本連邦なら暇つぶしの種が多いのでは」
「確かに専用の余暇コロニーまで備え広い運動場からプールやゲームコーナーやコンサート会場など多彩でしたが、地上での生活に慣れていると空の見えない閉鎖的環境はマジつらい」
「分かる気がします」
「気だけですね」
「すみません」
「いえ、いいです。では製造上の苦労を」
「まず精度出しが厳しい。2キロの直線です。2キロで5ミリまでとされました」
「2キロで5ミリなら出来るのではないでしょうか」
「現在、一番長い構造用押し出し鋼材を製作できるのが川崎重工と真日本製鉄です。それでも最長で500メートル。縦横がそれぞれ6メートル。これは宇宙戦艦等大型宇宙船の中央構造材に使われる物です。万久里にも使われています」
「長さが足りないので組み立てですか」
「一応技術的チャレンジということでレールガン投射軌条の形状で長さ1キロを目指しましたが、形状から仕方なく発生する応力歪みと熱歪みでどうしても5センチ程度曲がってしまいました。」
「削れば修正できそうですが」
「削りました。削れば直線は出ましたし、加速部長さ1キロ、発射速度600km/s、弾体重量1トンのレールガンも組み立てましたが試射で問題が出ました」
「問題?」
「これだけの初速を持たせるのは初めてのことで計算上は大丈夫なはずでした。加速部長さ250メートル発射速度300km/s、弾体重量500kgは現在の超弩級宇宙戦艦に装備されているのはご存じのはず」
「確かに。ですがなにか問題でも」
「熱が想像以上に出ます。勿論、放熱は過剰なまでに設計しましたが、それでも足りませんでした」
「結果は」
「1発は撃てます。しかし、2発目以降はレールが摩擦で削れるのと摩擦熱で歪んでしまい撃てませんでした」
「使い捨てですか」
「そうです。修正も出来ないほどに曲がりました」
「どうやって2キロまで伸ばせたのですか」
「ここからが苦行の始まりでした」
「聞きたくないような」
「クックック。聞かないと完成しませんよー」
「うう、嫌だなー」
ここでお昼のベルが鳴った。昼食にする。
「さて、再開します。レールは500メートルのレールを4本繋ぎます。そして、当然ですがレールガンで使えるほどの直線にはなりません」
「1キロのレールを試作したのでしょう。何故使わないのですか」
「先程説明したように、長すぎて直線の管理が出来ないのです。そこで4本とすることで管理が出来るようにしました」
「管理というのは、ひょっとして1発使い捨てにならないようにですか」
「そうです。1キロのレールよりも直線性の高い500メートルのレールを組み合わせて2キロにしました」
「継ぎ目で狂いますよね」
「当然です」
「サーボ機構を付けたのですか」
「まさか。サーボ動作がレールガンの速度に追いつきません。最初は純粋に構造で直線を出します。発射後に出る歪み対策としてサーボ機構は付けてありますが、発射する前のレールはできる限り構造で追い込みます」
「面倒そう」
「そうです。二度とやりたくないと言ったのはまさにその部分」
「そんなにですか」
「温度管理が大変」
「突然ですね」
「レールガンの温度を一定にしないと直線が出ません」
「2キロを一定にですか」
「そうです」
「建造ドック内で温度調整すれば可能では?」
「発射する時は真空です。常温で保管されたレールガンを真空中に曝せば温度変化が」
「あー」
「ですから作業は全て真空中。無重力と真空の建造ドック内で太陽光に当てないように宇宙服を着て作業です。当然作業は捗らない」
「重力と温度ですか。太陽光が当たると温度が上昇する。日陰側は低いまま。歪みが出ますな」
「重力の影響を最低限にすると言って遠くまで放り出され、今度は温度管理と言って真空中での作業。なかなかでしょう」
「なんかやりたくなくなってきた」
「まだ甘いですよ」
「続きが?」
「レール製造からちょっと離れて、大事なのはケーシング」
「レールを支える?」
「それが歪むとレールが歪んでしまいます」
「そこもか」
「こちらはレールほど精度を要求されません。艦艇搭載時に温度変化を最低限として、あとは発射時の衝撃荷重に耐えればよい」
「それならまだ楽かな」
「そうです。搭載時に艦内熱放射から遮蔽するため2重構造にした以外は」
「そこまでしないといけないのですか」
「200メートルクラスのレールガンだと問題無いんです。その10倍ですから」
「でも意外と建造費が安いですね。超弩級宇宙戦艦2隻分でしょう」
「それは部品点数が少ないからです。人件費は上回っています」
「うわ~」
時計を見ると終了時刻まであとわずか。今日はいいだろうと残業をしないことにした。
「では皆さん。また明日」
「続きが有るのですね」
「苦労話を聞きましょう。これこそノウハウです」
「お願いします」
次回更新 02月25日 05:00
次回「レールガン搭載艦量産へ」
レールガンで終わってしまった。次回こそ、搭載艦の話を。
次回も屁理屈炸裂するよ。




