OUT エピローグ
「おいしいね、ここのパスタ」
「そうでしょ。でもやっぱり現実で食べるのが一番だね」
幸せって何だろう。
日頃真剣に向き合った事などなかったし、向き合う必要もない事だと思って生きてきた。自分とは無縁で、人並みの幸せを得る事なんて無理だと決めつけてかかっていた。
でもそもそも、人並みの幸せって何なのだろう。
幸せの価値を比べる事自体がナンセンスで、無駄な事ではないだろうか。比べねば分からないような幸せを、果たして本当に幸せと呼べるのだろうか。
「次は何を研究するの?」
「そうね。何がいいかな。でも主任からは、もうしばらく休んでろって言われちゃってるしな」
「まあそうだね。無理は良くないか」
「結局、幸福の研究は良く分からなくなっちゃったしね」
「研究するものじゃなかったんだよ。もともと」
「そうかもね。あんなに頑張ったのに、無駄だったなー私の研究」
「ごめん、そんなつもりじゃなかったけど」
「いいの。無駄だって事が分かったから」
翠の顔はすっきりとして、穏やかだった。
「幸せなんて、なろうと思ってなるもんじゃないんだよ。本来そうやって意識するものじゃないんだよ。自分が今幸せって気付けるかどうか、ただそれだけなんだと思う」
翠はまるで独り言のように、自分に言い聞かせるように呟いた。
「そうかもね」
翠とこうして、現実で話せている。
こうしてお互い生きている。
「また来ようね、ここ」
「うん」
それだけで十分すぎるほど幸せだ。