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第12話 マサシ 常識を教わる

 「例えば巨大なババアがいるとする」

 「ずいぶん唐突だな」


 授業の合間の喧騒の中、俺は意を決して例え話を斎藤(しんゆう)にする。斎藤(しんゆう)は相づちのようにツッコミを入れた。


 「取り敢えず、ばばあを殴るとする」

 「突然のバイオレンス!」


 以前は俺がツッコミ役だったのだが、最近は攻守交代しているような気もする。これも異世界だからだろうか。


 「理由は『巨大なばああなど存在しないから』だ」

 「どんな世紀末覇者!?」

 「いや、どちらかというと世紀末救世主」

 「老婆も救う世界に含めてあげて!」


 今日はやけにツッコミが厳しい。


 「何が言いたいかというと、七英雄は道行く人のお尻を息をするように撫でることは許されるのだろうかということだ」

 「許されないから!」


 なんと理不尽な。


 「七英雄の義務に対して、権利が釣り合わぬ」

 「道行く人の人権はどこへいったの!?」


 反抗期なのだろうか。親友はことごとく俺の考えを否定する。埒が明かないので本題を切り出す。


 「七英雄だとどこまで無茶して良いの?」

 「そんなんだから、朝礼であんなことを言い出すんだよっ!! あのあと、僕が何で一時間目遅れたのかわかる? 監督不行き届きだって怒られてたんだよ! 理不尽すぎるわっ! 僕はマサシの監督じゃないよな? 何で普通に出来ないの? 普通に……ごめん。マサシには普通は無理だった……混合系だもんね……」


 斎藤が切れた。抑圧されたイドが解放されたのかも知れない。しかし斎藤(しんゆう)は既に自己完結して気分もダウン気味だ。いつもの仲直りで大丈夫だろう。そう考えた俺は左手を差し出す。斎藤(しんゆう)は応えるようにその手をしっかりと握った。


 「我ら2人、生まれし日、時は違えども兄弟の契りを結びしからは、心を同じくして助け合い、困窮する者たちを救わん。上は国家に報い、下は民を安んずることを誓う。同年同月同日に生まれることを得ずとも、同年同月同日に死せん事を願わん。皇天后土よ、実にこの心を鑑みよ。義に背き恩を忘るれば、天人共に戮すべし。」


 「「「何か、急に重い話になった!」」」


 聞き耳を立てていたクラスメイトが揃って、俺たちの友情の誓いに突っ込みを入れてきた。



 * * *


 『世界の常識を混沌のマサシに教える会』


 黒板に黄色のチョークでそう文字が書かれている。


 先程の斎藤(しんゆう)とのやり取りを聞いていたクラスメイトが教師にそれを伝えたため、授業が変更になった。最初は舐められているのかと思ったが、思いの外、皆が真剣な表情であるため特別授業を受け入れることにした。


 「青信号は?」

 「渡って良い」


 一般常識を一時間で全部は網羅できないので、皆が一言ずつ俺に質問して正誤を確認することになった。流石に信号くらいはわかる。


 「黄色信号と赤信号は?」

 「黄色は『急げ』、赤は『もっと急げ』」

 「いつ止まるの!?」


 どうやら、この世界では黄色は『注意』、赤は『止まれ』らしい。このような元の世界との微妙な違いが聞けるのは有意義と捉えることにする。だから、皆の奇妙なものを見るような視線は置いておく。



 「原付きは右折する時どうやって曲がる」

 「二段階右折」

 「正解」


 「SDとHDの違いは?」

 「SDはStandard Definition Televisionの略で、標準画質のテレビ放送のこと。640x480の場合と720x480の場合の二種類がある。HDはHigh Visionの略で1280x720」

 「正解」


 「ブランデーとウイスキーの違いは?」

 「ブランデーは果実酒から作った蒸留酒の総称。ウイスキーは大麦などの穀物を麦芽の酵素で糖化、発酵させた蒸留酒」

 「正解」


 「カラスが電線に止まっても感電しないのは?」

 「同電位の電線だけに触れているから」

 「正解」


 「バナナを長持ちさせるにはどうしたら良い?」

 「バナナツリーに吊るすなど接地面を減らす。りんごと一緒に保存しない。これは、りんごは腐食を進行させるエチレンガスを排出するから。冷蔵保存する。ただし冷蔵保存すると甘みが落ちる」

 「正解」


 「レディーファーストとは?」

 「女を弾除けに使うこと」

 「正解」


 「geegle検索するときに『斜め』と入力するとどうなる?」

 「画面が全体的に斜めになる。『一回転』と入力すると360度回転する」

 「正解」


 「中東戦争はどこで起きている?」

 「イスラエル」

 「正解」


 余裕だな。この程度では雑学王マサシと呼ばれた俺をひれ伏すことなぞ出来ぬわ。



 「物質中の水分子を振動させて熱するセクスィは?」

 「ん?……電子レンジ?」

 「……いや、波動系でしょ。近接なら振動系だけど」


 波動系セクスィ?

 電子レンジの原理はマイクロ派の重ね合わせだから波動ということだろうか……


 「セクスィの反対は?」

 「……難しいな。コケティッシュ?」

 「いや、グロテスクだろ」


 そもそも外来語の対義語って難しくないか。

 

 「マサシの従兄弟は?」

 「……従兄弟なぞいない」

 「いや、『漆黒のヴォルフガング』だろ」

 「…………………………………………え?」


 ガングちゃんが、俺の従兄弟?

 うはっ。それなんてエロゲ?


 テンションの上がった俺に質問が続けられる。


 「ネームドとは?」

 「……名付けられること」

 「……合ってるといえば合っているけど……神に名付けられることだよね。普通は血族名(ファミリーネーム)しかないし……」

 「え?」


 クラスメイトが馬鹿なことを言う。

 ファーストネームが無ければ、どうやって個別の認識しているんだよ。


 ……………………………………あれ?


 ……そう言えば斎藤の名前(ファーストネーム)って何だっけ……


 千駄ヶ谷さんの、藤沢さんの名前ってなん……だっけ……


 ……親父の名前って……何だっけ……




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