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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【中】
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第一〇三話【来訪者XV】

「咲耶ちゃんと可憐ちゃんとも仲直りできそう?」

「わからないけど、ちゃんと話をしてみるよ。」


神社の出口で、熾輝を見送る燕が心配そうに見つめてくる。


当初、今回の原因は自分にもあると言った燕は、自分も二人の元へ行って謝ると申し出てくれたが、熾輝はそれを断った。


確かに事の発端は燕からの告白から始まったことではあるが、元はと言えば熾輝が燕に心無い言葉を浴びせたことが原因なのだから、彼女に責任があるとは微塵も思っていないのだ。


「話してみて、許してもらえなくても、何度も謝る。……もう、逃げないって決めたから。」


熾輝の覚悟を聞いて、燕は「そっか」と短く答えを返した。


神社の石段を下りていく熾輝の背中を見送りながら、彼女もまた、何かを決意したかのような、そんな表情をしていた。


「仲直りが出来るといいな。」


不意に、彼女の後ろから声が掛かる。


振り返らずとも、その声の主は判り切っている。


神社の神使であるコマだ。


彼の言葉に肯定を示した燕は、先程と変わらず決意の表情を彼に向けた。


いつになく真剣な彼女の態度に、自然と彼は姿勢を正す。


そして―――


「コマさん……私に戦い方を教えて。」


突然の燕の言葉に対し、コマは落ち着いていた。


もしかしたら、いつか、そんな事を言われる気がしていたのだ。


気がしていたが、コマは敢えて彼女に何故だと問う。いや、問わなければならなかった。


「熾輝君の隣に居たい……それだけじゃダメかな?」


燕から返ってきた答えは単純なもの。


ただ好きな人の隣に居たい。


実に単純、それでいて明快な答えだった。


「…いいだろう、しかし、決して楽ではないぞ?」

「望むところよ!愛の力を見せてあげるんだから!」


今日まで、彼女に寄り添い、守ってきた彼等神使は、燕の決意に対して嬉しさと寂しさを抱いていた。


だが、こうなる日が来ることを覚悟していたコマは、だからこそなのか、割とすんなり彼女の修行を了承できたのだった。



◇  ◇  ◇



熾輝が燕と別れた丁度そのころ、3人の少女と女性が商店街を少し外れた通りを歩いていた。


「―――それでね、その時に駆けつけてくれたのがシキだったのよ。」


その内の1人、依琳という名の少女が3人にある男の子の話を聞かせていた。


熾輝が中国に来たばかりの頃、彼女は熾輝を嫌っていた。


それは、しょうがない事で、彼女が物心が付いたくらいのときに、祖父は孫娘を置いて日本へと旅立ってしまった。


それから5年の間、一度も中国に帰らずに何をしていたかというと、熾輝の修行だ。


彼女は、お爺ちゃん子であったため、自分から祖父を奪った熾輝を敵視し、事あるごとに熾輝に因縁を付けては、絡んでいたという。


そんなある日、祖父白影が中国に帰国したことを知ったマフィアが、彼女を誘拐した。


彼等の目的は、依琳を人質にして白影を始末する事だった。


「あっ、わかった!その時、熾輝くんが依琳ちゃんを助けてくれた事を切っ掛けに仲良くなったんだね!」


依琳の話を聞いて、咲耶は彼女と熾輝の関係を予想した。


ちなみに小学生の口からマフィアという単語が出てきても不自然に思わなくなってきているのは、自分たちが関わっている魔導書事件のせいで、現実に対する認識が麻痺してきているせいでもある。


「ぶぶー、外れ!確かにシキが駆けつけてくれたんだけど、中国マフィアの連中って、それなりに武術を治めている奴らの集まりだったのよ。だから、シキが駆けつけてくれたんだけど、逆に返り討ちに遭ったのよ。」

「それは、…よくお二人とも無事でいられましたね。」

「まぁね、私はシキが庇ってくれたから、傷一つ負わなかったわ!」

「あうぅ、なんだか恐いよぉ。」


彼女の話を聞いて、2人は驚き半分恐さ半分に聞き入っていた。


「結局、マフィアの連中は、その後に駆けつけたお爺ちゃんが1人残らずやっつけて、私達は無事に家に帰れたんだけど、その後、めちゃくちゃ怒られたわ。」


話の始まりを省略してしまったが、実は、マフィアに誘拐される切っ掛けは、依琳が構成員に喧嘩を売ったことが発端で、そのときに白影の孫と知られたために誘拐まで発展してしまったのである。


「でもね、お爺ちゃんたら、助けに来てくれたシキに無謀なことをするなって言って、シキを叩いたの。その時、私が悪いのにシキを叩かないでって……泣いてお願いしたの、あんなに嫌いだったのに」


実際、彼女はあの時、恐かったのだ。


今まで、周りの大人たちに守られ、自由奔放に育ってきた彼女は、初めて身の危険を感じた。


凶悪な連中に囲まれて、いつ殴られるか、もしかしたら殺されるかもしれないという恐怖に打ち負かされていた。


そんなとき、今まで自分が意地悪をしていた少年が、誰よりも早く駆けつけてくれた。


自分を庇って、怪我までして……あれ以来、彼女は熾輝の事を―――


「依琳ちゃんは、熾輝くんのことが好きなんですか?」


彼女の話を聞いて、可憐はそんな質問を投げかけた。


中国に居た頃の熾輝は、自分達が知る彼そのものだった。


いつも、何処か冷めているように見えて、いざという時に助けてくれる。


だからだろう、そんなふうに助けてくれる男の子を好きにならない女の子はいないと感じた可憐が、そういった質問をしてしまったのは


「大好きよ。」


そして、彼女も熾輝を好きになった女の子の一人、ただ―――


「だって、シキは私の家族だもん。家族を嫌いな人なんて居ないわ。」


彼女にとって、熾輝は家族なのだ。


その感情が恋に変わることはないと、彼女は知っている。


頼りになる兄であり、世話の焼ける弟のような存在……それが彼女にとっての熾輝なのだ。


「だから……今回のこと、私に謝らせて。何も知らない私が咲耶に酷い事を言ったこと、私の家族があなた達を傷つけたこと。」


依琳は、先程までの態度を一変させて、頭を下げた。


「…依琳ちゃん、頭を上げてください。私は今回、依琳ちゃんから話を聞けて良かったです。私達が知っている熾輝くんが、昔も今も変わらない人だって判りましたもの。」

「そうだよ、私達、熾輝くんの事を知らなさ過ぎて、その、少し怖いって思っていたけど、やっぱり、熾輝くんは熾輝くんだった。…本当は優しいのに、思っていることを言葉にするのが苦手で・・・」


2人は、依琳から聞いた熾輝が、自分達の知る彼のままだった事に安心感を覚えていた。


林間学校を境に、知らなさ過ぎて怖かった、知ってしまって怖かった、自分たちが知っていた彼は本当は違う人間なのかもしれない。


そんな思いが彼女たちの心に疑心を産みつけていた。


「ありがとう、あなた達みたいな人がシキの傍に居てくれて良かったわ。」


依琳は、二人に対して笑顔で答えるが、その笑顔を次第に曇らせて言葉をつづける。


「それと、シキの過去の事で色々と思う事があるとは思うけど……」


彼の過去は、普通の人間では、およそ理解できない部分が多く存在する。


多くの困難と多くの敵によって、彼と彼の周りの人間を否応なく巻き込んでしまう。


だけど、だからこそ、そんな熾輝の力になってほしいと思ってしまう。……だが、これは彼女たちにも危険が及ぶかもしれないという事に他ならない。


だから彼女は最後の台詞を言えなかった。


『シキの友達でいて欲しい』と・・・


「依琳ちゃん?」

「……何でもないわ!」

「「?」」


その言葉を最後まで口にすることなく依琳は、言葉を懐深くに飲み込んでいた。


「それにしても劉邦のヤツ、遅いわね!」


先ほどまで歩いていた彼女たちの目的は、劉邦との待ち合わせ場所まで行くというもので、話し込んでいる間に到着し、今は彼の到着を待っている状態だ。


とは言っても、約束の時間の20分も前に到着してしまったものだから、手持無沙汰になっているのだ。


そんなときである


「おい、あれって乃木坂可憐じゃね?」


彼女たちが居る場所に数人の柄の悪そうな男たちが近づいてきた。


「あっ、本当だ!」

「うわっ!リアル芸能人初めて見た!」


こんな場所で芸能人と会えるなんて思ってもみなかったのか、柄の悪そうな男たちのテンションが上がって、あっという間に彼女等を囲んでしまっていた。


もちろん、こんなことは可憐にとっては、よくあることで、いつも外を出歩くときは、ちょっとした変装をしてボディーガードを付けているのだが、今日は変装のみでボディーガードは付いていない。


「……こんにちは」


だが、こういった状況に臆していては、とてもではないが芸能人なんてやっていけない。


相手がいかに柄の悪そうな相手だろうと、ニコリと笑って挨拶が出来るのがナンバーワン子役の実力なのだ・・・なのだが、今日は何やら相手の毛色が違っていた。


「うおお!すげえ、マジで乃木坂可憐だ!」

「こっちの金髪美人は誰だ!?見たことがないけど、あんたも芸能人?」

「お嬢ちゃん達も可愛いねぇ、なに?二人も子役なの?」


可憐の周りにいたアリア・咲耶・依琳たちを見た彼らは、3人にも近づいてきた。


いかにも柄の悪い連中に、依琳の目つきがギロリと吊り上がり、咲耶は怖くなってビクビクしている。


「三人は私の友達です。今日はプライベートで遊びに来ているだけなので、これで失礼しますね。」


見事なまでの対応で、その場を離れようとした4人だった。


しかし・・・


「え~、マジで?だったら俺らが遊んであげるよ。」


アリアは子供相手に、いい歳の大人が絡むなと心の中で毒づく。


「俺らも暇していたところだし、芸能人と遊べるなんて自慢になるぜ。」

「いいね!俺らが面白いところに連れて行ってあげるよ。」


しつこいまでに男たちは彼女らに絡んでくる。


「いえ、折角のお誘いですが、今日は本当にプライベートなので―――」

「そんな事言わないで行こうぜ。」


なんとかこの場から離れようとする可憐たちの行く手を遮って尚も引き下がらない男とたちは、何を思ったのか、可憐の手を取って強引に連れて行こうとした。


その行為を見かねて、この場で一番の年長者であるアリアが遂に動いた。


「ちょっと、貴方たち、いい加減にしなさい。大人が子供を困らせて、みっともないわよ。」


アリアは、可憐を強引に連れて行こうとした男の手を取って二人を引き離す。


「は?なんだよ。・・・・あっ、もしかしてお姉さんが俺らと遊んでくれるわけ?」


(うわ、お酒臭い。)


可憐と男の間に入ったはいいものの、今度は矛先がアリアに向き始めた。


しかも、男は酔っぱらっているのか、かなり酒の匂いが強い。


「へへ、子供よりもアンタと遊んだほうがいいや。」

「ちょっと、本当にいい加減にしないと怒るわ―――『へぎゃんっ!』」


いい加減、アリアが男の態度に怒りを感じ始めたそのとき、突然、アリアに詰め寄っていた男が股間を抑えながら地面に倒れ込んだ。


一瞬、何が起きたのか判らなかったアリアであるが、崩れ落ちた男の後ろに居た依琳を見て全てを理解した。


「しつこい!酒臭い!どっか行きなさいよ!」


男達のあまりのしつこさに、我慢の限界を迎えた依琳は、男の背後に回って全力の金的蹴りを炸裂させたのだ。


だが、その結果、酔って正常な判断能力を欠いていた彼らは、怒りを表して彼女らに対し詰め寄ってきた。


もちろん、暴力を振るうという意味でだ。


「おい餓鬼!何すんぶへっ!」

「おまっ!ふざけんなガフンっ!」


依琳は、近づいてくる男2人の金的を的確にとらえた蹴りを手加減することなく打ち抜く。


当然、男の弱点とも呼ぶべき急所を狙われた者は、いかに大人でも耐えられはしない。


彼らにとって幸運だった事と言えば、彼女がオーラを纏って攻撃をしなかったことぐらいだ。


仮に、彼女が怒りに任せてオーラを発現させていれば、男から女へ強制的に性転換させられていただろう。


ただ、男たちは彼女達の倍の人数も居ることを依琳は見落としていた。


3人を沈めたからといって、残り5人は依琳ではなく、他の3人にも手を出し始めたのである。


「餓鬼が調子に乗るなよ!こっちに来い!大人を馬鹿にして、どうなるか教えてやる!」

「きゃっ、やめて下さい!」

「フォー!やめて下さいだってよぉ、可愛いねぇ!」

「可憐ちゃん!やめて!離して!」

「うっせえ!黙ってろ!」

「きゃっ!」


男の1人が可憐の手を掴んで、何処かへと連れて行こうとした。


それを見た咲耶が止めに入ったが、男の1人が横に払った手が彼女の頬に当たり、その衝撃で転倒してしまう。


「「咲耶!ちゃん!」」

「あんた達、よくも!?」


咲耶が倒れたことにより、依琳が助けに出ようとした矢先、倒れていた男の1人が彼女の足を掴んで動きを封じた。


混乱する状況の中、アリアは魔術の行使を躊躇する。


いかに相手が乱暴者であろうと、一般人に対して魔術を行使する事は、魔術師の倫理に反する。


だが、このまま彼らを野放しにすれば、場合によっては最悪の状況に陥ってしまう可能性もあるわけで・・・そんな心のせめぎあいを他所に男たちは可憐を連れ去ろうとする。


「だれか!誰か来て!」


迷った彼女は、魔術行使をしないことを選んだ。


だから、彼女には助けを求める事しか出来なかった。


だが、ここは商店街を外れた通り、誰かと待ち合わせでもしない限り通る者はおらず、人通りも少ない。


今に至っては、誰もこの道を通っている者は居なかった。


そう、誰かと待ち合わせをしていなければ――――


「必殺!荒狂雷蹴!」

「ぶへぇっ!」


必殺技と共にアリアに迫っていた男が吹っ飛ばされた!


そして・・・・


「痛でででで!」


可憐の手を掴みとっていた男の手首を捻り上げる少年


混乱する現場に現れたのは、八神熾輝と雷劉邦の兄弟弟子だった!




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