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第二十三話・・さよなら民宿パハヤチニカ・・最終日

第二十三話・・・さよなら民宿パハヤチニカ・・最終日



昨日の雨が嘘のようにからりと晴れ、

太陽の光が眩しい朝を迎えた。

部屋の窓を開け、綺麗な空気を胸にいっぱいに吸い込み、

遥かに見える早池峰山に手を合わせ挨拶をした。


「晴れにしていただきありがとうございます。 

今日一日よろしくおねがいします。」

その時、隣の一人達の部屋の窓がガラリと開く音がして、

一人が思いっきり背伸びをしているのが見えた。


「おはよう。一人」

「はなちゃん、おはよう。良い天気でよかったな」

「うん。今、早池峰の神様にお礼を言ったところよ、あれ?福ちゃんは?」

いつも早起きの福ちゃんの姿が見えない。

「福山は二日酔いでダウンしているよ、

昨夜彼には珍しくかなり呑んでいたからな」

「やっぱりね。お薬は飲んだの?」

「モトさんにお願いしたところだよ」

「そう。今日は続石に行く予定だったわよね。無理しないように言ってね」

「☆☆〜#∈■・・・」

「今、福ちゃんらしき声が聞こえたんだけど」

「福山がゴメンって謝ってるよ」

一人は振り返って福ちゃんと言葉を交わしているようだった。

「出発は十時三十分にしてくれって言ってるよ」

私は指でOKマークを作り合図した。


昨夜の福ちゃんの様子からして、こうなることは予想していたから、

私も一人もさして驚きもしなかった。

夕方、新花巻の駅に着けば良いのだから、

それまでのんびり遠野の郷で過ごすのも、

早池峰の神様の粋な計らいなのかも知れない。

一人と二人で食堂へ降りて行き、

ゆっくりと朝食をいただく事にした。


「今日でいよいよ終わっちゃうね」

食後のお茶をいただきながら一人が言った。

「うん。そうだね。でもね、今度里帰りした時に、

もう一度訪ねてみようと思っているの、

ゆっくり、ゆっくり神様の波動を感じながら歩いてみたくて」

「その時、俺も一緒に来て良いかな」

一人の言葉に驚きながら、私は小さく頷いた。

「本当に良いの?」

「その代わり運転は一人に任せていい?」

「当たり前だよ。はなちゃんの運転じゃ心配だからな」

「あはは!そうだよね」

二人して顔を見合わせて笑った。


今はこんなさり気ない瞬間がとても嬉しく感じる。

遠野の郷で気づいた一人への私の気持ちを大事にしたい。

本当に大切にしたい。

そして少しずつ二人の距離が縮まっていったらいいな。

心からそう願った。


「あの鳥居の形の岩にいよいよご対面だね」

「長いような短いような不思議で夢のような、

きっと一生忘れられない時ってこう言う時を言うのかしらね」

「いろんな事があり過ぎだったよな」

「うん。今まで経験したことのないことの連続で、

私の頭の中がおかしくなったんじゃないかって、

心配したことが何回もあって、

でもね、一人と、福ちゃんがいつもそばに居てくれて

とても安心したの、本当にありがとう。感謝しています」

「俺も、はなちゃんと福山と一緒に旅が出来て楽しかったよ」

一人がそう言うと、てれくさそうに頭を撫でた。

その時

「すみません。お水ください」

と、二日酔いでダウンしているはずの福ちゃんが食堂に姿を現した。

「おい、まだ寝てろよ」

一人が福ちゃんに歩み寄った。


「大丈夫だよ。さっき宿の御主人のモトさんが、

二日酔いの特効薬だってくれたカプセルとドリンクが、

めっちゃ効いてさ、すっかり元気になったよ。

心配させてごめんよ」

確かにさっきまで力なく話していた福ちゃんではなく、

いつものダンディーな福ちゃんに戻っている。


「すみません。これから朝食をいただいていいですか?」

「今、お粥を用意していますから、もう少しお待ちください。」

厨房からモトさんの声がした。

「本当に大丈夫なの?

でもよかった福ちゃんがいないと何にも進まないから。

で、特効薬のカプセルとドリンクってなんだったの?」

あの状態からいつもの元気な福ちゃんに戻した

宿の御主人が使った魔法はなんなのだろうか

「水素カプセルと元気の素がたくさん入っている特別なドリンクなんですよ」

いつの間にか、宿の御主人のモトさんが

福ちゃんの朝食をお盆に用意して私たちの後ろに立っていた。

「番茶に潰した梅干しを入れて、醤油を垂らしたものも効きますが、

今朝の福山さんの状態だと水素が一番効果的ですよ」

モトさんの機転で、すっかり元気を回復した福ちゃん。

早速特製のお粥を食べ始めている。

あんなに具合が悪そうだったのに、既におかわりまでしている、

特効薬の凄さに驚いた。

この民宿パハヤチニカは、

確かに座敷わらしの棲む宿として有名だが、

一人ひとりの客を、大切な家族の一員としてもてなしてくれる、

この暖かさが予約の取れない所以ではないかと思った。


福ちゃんも元気になり、いよいよこの民宿ともお別れの時が近づいている。

玄関には宿の御主人始め、

スタッフの皆さんが勢揃いして

私たちを見送りに集まってくれている。

「福山さんも元気になりましたし、

これで皆さん無事にお発ちになれますね」

モトさんが言った。

「おかげ様ですっかり元気になりました。ありがとうございます。

また遠野にきた時はぜひこちらに泊まらせていただきますので、

それまで皆さんお元気でお過ごしください」

福ちゃんがモトさんと握手しながら言った。

「ハ・ナ・エ・アリガトウ」

私の胸に、座敷カッパのたっちゃんの声が響いてきた。

はっ!と思い振り向いたけれどやはり、たっちゃんの姿はなかった。

(ほんの短い間だったけど、

座敷カッパのたっちゃんとの出逢いは、

私の今までの人生とこれからの人生を足しても、

きっと一番の衝撃的な出来事になると思う。

たっちゃんには、たくさんのことを教えてもらった。

おかげですっかり遠野が好きになった。

ありがとうたっちゃん。

またいつか必ず会いましょう。)

そう心でたっちゃんに語りかけた。

「冷たい!」

突然、頭のてっぺんに冷たい水滴が落ちてきたように感じて、

手でなぞってみたけれど濡れていない。

天井を見上げたけれど、水滴らしきものは見当たらなかった。

(もしかして、たっちゃんのいたずらかな?)

「はなちゃんどうかしたの?」

一人が私の様子を見て話しかけてきた。

「なんでもな〜い」

その時、どこかでたっちゃんが笑ったような気がした。

(さよならたっちゃん。またね)


見送るモトさんとスタッフの皆さんの姿が見えなくなるまで

私と福ちゃんは手を振り続けた。

宿の御主人のモトさんが宿泊の記念にと渡してくれたのは、

民宿パハヤチニカの名前と

緑色の可愛い顔のカッパのイラスト入りのビールジョッキーだった。

お嬢さんのマキさんがデザインしたと、モトさんが嬉しそうに話してくれた。

「このビールジョッキーを持ち寄って旅の反省会を開こうね」

福ちゃんが言った。

「賛成!」

「ただし呑み過ぎには気をつけましょう」

三人の笑い声が車内に響いていた。

                                             


感謝しています。

お読みいただきありがとうございます。

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