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異世界に於ける護り屋の表稼業と裏稼業  作者: 塵無
一章 護り屋、異世界へ
13/38

愚王との謁見 02

R2.7.14

一部修正

 階段を上がり、城の入口にいる門番の挑発的な睨みを無視して城の中に入る。その入口を入ってすぐの所から俺の目の見える限りの距離に、長く赤い絨毯(じゅうたん)が敷かれ、城を形作る白い石の中では見事に映える。


 等間隔で建てられている柱や壁の至る所には彫刻が施され、大きな城でありながら細かな装飾が成されていることに少しばかり驚いた。これらの彫刻は城門と違い長い年月を経ているものらしく、所々欠けていたり(ひび)が入っているのが見て取れる。柱が支えている天井は10メートル以上の高さで、柱同様に一定毎にステンドグラスがはめ込まれ、時間によっては色鮮やかな光が床を彩るだろう。


 時折すれ違う城の関係者だろうか…誰一人違うことなく俺を見ては新たな話のネタとして早速使っている。王の影響だろうか、入口の門番といい城にいる人間は何かと人間性に問題があるようだ。


 暫くルイーナとアーソンに着いていくと、やがて大きな扉の前に辿り着く。


「ここが謁見の間よ。もう少ししたら扉が開くから、開いたら中に入って待っていて。私は着替えてから中に入るから、また後で会いましょう」


 頷いて返事をしたのを確認し、ルイーナは横にある別の道に入っていった。アーソンもそれに続くように歩いて行くが、俺の視界から消える前にまたこちらを睨んできた。言葉を発していないからといって鬱陶しくない訳でも無いのだがな…。やはり(はた)いておくべきだったかと思いながら、目の前の扉が開くのを待った。




 暫く待っても扉が開く様子は無い。屋内ではあるが、葉巻を吸おうか…。そんなことを考えポケットに手を伸ばした所で、謁見の間の扉が動き出した。異世界の自分が国の王と会う、おそらく話は長いだろう。俺の予想している通りの人間なら尚更だ。


「…暫く吸えそうに無いか…」


 間の悪い招待に若干機嫌を悪くしながら、俺は歩みを進めた。




 謁見の間に足を踏み入れると、入口からこの部屋の手前まであった長い絨毯と同じものが敷かれているのが目に入る。それはこの間の奥…階段のような段差の手前まで伸びており、その段の最上部からはより赤みが強い…紅色というべきか、鮮やかな色の絨毯が敷かれている。


 紅色の絨毯の上には、形の異なる椅子が三つ置かれている。壁や柱よりは規模が小さいながらも、それら以上に彫刻や装飾が施された椅子だった。その中でも中央にある椅子が、おそらく国王のだろう。三つの椅子の中で一番豪華に造られている。横の二つは…一つが王妃の物だと思うが、もう一つが考えあぐねる。


「…(めかけ)か子供か…」


 この世界に一夫多妻制が用いられているのであれば、妻が複数いてもおかしくはない。ただ複数の妻がいる場合は、その妻が正妻か妾かで、生まれた子供が第一、第二…と王位継承権の優先順位が変わる。あとは派閥同士の対立で謀略と死人に満ちた呪われた一族だと、また話のネタになる物が出来上がる。


 そうでなければ、単純に国王と王妃の子供の椅子だろう。いずれにしろ、俺には大して関係が無かった。


 そう考えている内に、段差の横にある通路らしき穴や、謁見の間の俺が入ってきた所とは別の場所から何人か出てきた。おそらく国臣達だろう。余計なことも考えてみるものだ。


 絨毯の中央、段差から5メートル位離れた所に立っている俺の斜め前、絨毯の横に、臣達が絨毯を踏まないように並んだ。数は全部で12人。その中にはルイーナとアーソンもいた。ルイーナは先程まで着ていた服ではなく、宮廷魔導士という役職に似合った赤と紫の模様に所々金の装飾を施されていたローブを身にまとっていた。


 装飾を目にしてチョーカーを思い出し、俺はルイーナの首元を確認した。少し離れていると見えづらいが、注視すればチョーカーの有無を確かめることは出来る。


 注視した先には金のチョーカーは見られなかった。ルイーナがこちらの視線とその意図に気付いて、首を撫でてから頷いた。どうやら着替えの段階で外すことが叶ったらしい。おそらく城内にいる特定の人間でなければ、あのチョーカーの解呪が出来ないようだ。そして仮にも宮廷魔導士という立場のルイーナにすらどうにも出来ない程の呪具を解呪出来る可能性が高いのは、今ここにいるルイーナ以外の11人の国臣の誰かになる。


 誰だろうかと思い他の臣を見ると、全員揃って俺を見ては驚きの顔をしたり、隣にいた臣同士がこちらを横目に口元を隠して陰口を叩いていた。俺としては前から相変わらずのよくある光景ではあるし、何か目新しい物を見つけると飢えた野良犬の様に餌に飛びつくのはどの世界でも同じだった。こいつらも普段は娯楽が少ないのだろう。言いたいだけ言わせて放っておけば…。


 ふと一人の臣に目が行った。全員俺の方を見ていたのは確かなのだが、その一人だけが俺に向けていた目が他と異なっていた。黒を基調にして紫の模様と宝石で彩られたローブにフード、中央に少し大きめな青の宝石が飾り付けられている黒の眼帯で左目を隠した女は、穏やかな表情をして残った右目をこちらに向けていた。


 何だ一体…? そう思ってその女を見ていると、まるで人ごみの中で待ち合わせた友人にでも出会ったかのように、肘から先だけを動かして俺に向かって手を振っている。


 過去にも滅多にない反応だった為どう反応するかを考えていると、何処からかラッパのような音が聞こえてきた。それを合図に、ルイーナや今まで俺をダシに話をしていた臣、手を振っていた女が全員起立の姿勢をとり各々の正面を向き、絨毯を挟んで互いが向かい合った形となった。


「クライムハイン王国、アドルフ・クライムハイン6世陛下の、おなぁーりぃー…」


 国王等の貴人が出てくる時の「御成(おな)り」を異様に伸ばした声の後に、俺や臣が出てきた場所とはまた別の、おそらく王族専用の出入口なのだろう。そこから薄毛の肥えた男が、明らかに装飾過多な服をまとって段を登り、中央の椅子に乱暴に腰かけた。どうやらこの肥えた男が国王のアドルフのようだ。


 その後に続くように、また必要以上に(きら)びやかなドレスを来た女が二人、両脇の椅子に座る。熟年の女はおそらく王妃で、もう一人は見るからに若かった為王女だと予想出来た。その三人も、また例によって俺を見て驚きを隠せずにいる。王妃らしき女に至っては汚らわしい物でも見るように扇子で自分の鼻から下を覆い隠した。


 この男がどのような言葉を言ってくるのか。城に入る前に立てた予想は合っていて欲しいような、欲しくないような複雑な気分のまま、俺は王の言葉を待った。

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