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異世界に於ける護り屋の表稼業と裏稼業  作者: 塵無
一章 護り屋、異世界へ
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募る猜疑と生まれる不信

「ここを通れば、王都よ」


 アンドレイ達の目の前にある橋は、今二人が立っている所と王都とを繋ぐ唯一の道で、水を張った堀で囲まれている。橋は長さ15メートル、幅3メートル程の頑丈な造りで、時折馬車が行き来しているとのルイーナの言葉を示すように、石畳が削れている箇所が見受けられる。橋の下にある堀は側面と底を橋同様に石で加工され、深さは橋の幅と同じ3メートル程ある。


 アンドレイが正面を向いた先にある橋の奥には高さが5メートル、幅が4メートル程の木製の門が見える。人が通れる程度に開けられた観音開きの門は、その(いか)めし()な佇まいのまま来訪者を迎え入れ、旅に出る者を送り出す。


 その門が備え付けられている石壁は視界の左右一杯に広がり、顔を横に向けるとなだらかな曲線になっているらしく、途中で石壁が途切れているように見える。王都と言うだけあり、それなりの広さはあるだろう。


 石橋の手前と門の前にはそれぞれ二人ずつ、四人の門番が立ち、アンドレイの二つ名と違い本来の意味と役割を果たしていた。


 人の出入りが無かったのもあり、八つの目は全て自分達とは異なる服装を着ている二人の…加えて人であることを疑いたくなるような体躯を持った傷だらけの男に向けられていた。


 おそらく人の出入りがあったとしても門番の目は自分に向いていただろう、寧ろ出入りする人間にまで奇異の目を向けられかねない。やれやれと溜息を吐いたアンドレイが、思い出したようにルイーナに訪ねる。


「…言語はどうなっている」


 ああ、ごめんなさいとルイーナも思い出したかのような声を上げると、「しゃがんでもらえる?」とアンドレイに言う。何故だと問う前に「話せるようにするから」と続けてきたので、アンドレイはルイーナの方を向いて片膝をついた。アンドレイには女に花束を差し出してプロポーズをする男というお決まりの構図が思い浮かんだが、門番達の目には荘厳(そうごん)で屈強な兵士が女王の前で(ひざまず)いているように見えていた。


 跪いた兵士に加護を与える女王のようにルイーナの手がアンドレイの頭にかざされると、ルイーナの唇が少し動く。この世界に来る際ドアにかけた魔法と同様、聞こえない程の声で二言口にする。かざしていた手から白い光が生まれ、アンドレイに降り注ぐ。少しばかり眩しく感じていると、「終わったわ」とルイーナの声を合図に立ち上がる。


「行きましょう」


 言われるがまま橋に向かい、門番の所で立ち止まる。ルイーナの顔を知っていた門番がすぐに対応した。


「よくぞご無事で戻られました魔導士様。そちらが…?」


「ええ、新しいフォーリナーです」


「随分と大きな…ああ、失礼しました。ようこそクライムハイン王国へ」


「……ああ」


 先程受けた魔法の効果か、門番が自分を快く迎え入れる言葉がアンドレイにも理解出来た。それどころか、自分が普段話している日本語そのものだった。


 あまり目にしない石畳の感触を足の裏で感じながら、アンドレイは後ろから聞こえた「あんなに大きい人間いるのか?」という言葉を聞き流すと、普段はとても厳しく取り締まっているからと、門番のフォローを入れたルイーナに視線を戻す。


「自分が使っているのと異なる言語を貴方が使える言語…さっきまでいた国の言葉でもある日本語に変換されるようにしたわ。同時に貴方の発言も、各々耳にした本人が普段使っている言語で変換されるようになっているから。問題無かったでしょう?」


 それを聞いて一拍考えると、言葉の意図を理解したアンドレイが返す。


「…成程、自分と違う国や他の世界から来たフォーリナーの言語にまで対応している訳か。これは便利だな」


「あら、気付いた? 頭良いのね」


「アンタもな」


 アンドレイはルイーナの発言にあった「自分が使っているのと異なる言語」が、単純に「この世界の言葉」という意味では無いという結論に至った。


 ルイーナの説明で、この世界にはアンドレイ自身がいた世界でもある地球の他の国に住む人間や、地球でもこの世界(エクスィゼリア)でも無い第三の世界から来た人類、つまり自分以外のフォーリナーも存在している。この世界の言葉だけ分かるようになっているのであれば、他のフォーリナーの言葉が理解出来ず、またこちらの言葉も相手が理解出来ない。


 ルイーナは他のフォーリナーと遭遇した時にも備え、先を見据えて意思疎通にも問題が無いように魔法をかけた。そのことにアンドレイは彼女の知的さを素直に評価し、またルイーナもアンドレイがそれにすぐ気付けるだけの外見に反する理性を持っていたことに嬉しい裏切りを感じた。


 二人が門の前までたどり着くと、ルイーナは石橋の門番の時と同じ対応をしてから、僅かに開けられた門の間を通る。「こっちよ」と言われアンドレイも通ろうとするが、通るには少し狭く感じた。顔を赤くしながらルイーナと話していた若い門番が、丁寧な物腰でアンドレイに話しかける。


「ああ、すみません、この門は結構重くて、片方だけでも二人がかりでやっと動く位なんです。今開けますんで少し待って下さい」


 門にいた若い門番はそう言ってもう一人いた門番を呼んだ。アンドレイは試しにと片側の門に手をかけ力を入れる。すると、重さのある木と石畳が擦れ、大きな音を立てながら、門が動いた。


「え!!」


「嘘でしょ…」


 その様子を見て驚きの声を上げる門番と呆然とするルイーナを(しり)()に、十分な間を開けたアンドレイは「すまんな」と一言門番に詫びて中に入った。


「……何で門を動かせたの? 結構重い筈なのに…」


「…それ程重く無かったからな」


 そんなことは…と言葉を出そうとしていたルイーナから少し離れた後ろにあった豪華な馬車から、二人に近づいてくる若い男が見えた。一足先に気付いたアンドレイがルイーナに教える。


ルイーナが振り向いて金髪の男を見ると、少し驚いた顔をして訪ねる。


「アーソンじゃない。どうしたの、こんな所まで」


 アーソンと呼ばれた金髪を肩甲骨辺りまで伸ばした男がアンドレイを一瞥すると、ルイーナに言葉を返した。平静を装ってはいるが、声には所々感情の波が表れていた。


「早く謁見の間に来るようにとの国王陛下のご命令だ。ここからあの馬車に乗って城まで行くから、ついて来るんだ」


 チョーカーの解呪(かいじゅ)によって戻ってきたことが分かっただろう、ルイーナのかけてくれた魔法の効果で、アンドレイにはアーソンが国王の我儘(わがまま)で自分達二人を連れてくるように命令された哀れな国臣だというのが分かった。


「早く来るようにって…王都や国民の様子を見せて理解を深めてから城に向かうことも事前に国王陛下にお伝えしたはずだけど…」


「僕に言っても無駄だろう、国王陛下のご命令なんだ。早く行くぞ」


「え、ちょっとアーソン! もう…仕方ないわね。ごめんなさい。馬車に乗ってもらえる?」


 急な予定変更に困惑したルイーナを気にも止めず、アーソンは青と白で彩られたローブを翻し、馬車に向かった。どうやら態度を見るに、その人間性は元来の物だというのが容易に伺える。


 ルイーナも少し困った顔をすると、アンドレイに謝りながら馬車へ向かう。


 その様子を見て、アンドレイの中に国王への猜疑心に加えて国臣への不信感が生まれた。この国は頭も手足もこの(ざま)なのか…。そう思った後に馬車に向かうルイーナに顔を向けた。


「? どうしたの?」


 ちょうアンドレイの方を向いたルイーナが視線に気付き問いかける。


「…アンタ位か」


 まともに見えるのは。そこまでは言わず、ゆっくりと歩き出した。


「え?」


「独り言だ、行くぞ」


 今度は立ち止まったルイーナを促すように、アンドレイは馬車に歩き出した。

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