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システム・サクラメント  作者: Kesuyu
第5部 激突と処女懐胎
41/71

1【K】とにかく闘う前から湿っぽいことを言う気はない




〈ウロボロス〉の山梨県でのアジトが判明した。場所は笛吹市内の人里離れたところにある廃墟となった元旅館ということである。特定したのはハンター・シャークだ。以前、山梨県を捜索に出てからずっと方々に潜伏していたのだ。

 司令室で管理者Ⅹは改めて確認した。

「間違いないな?」

 シャークは頭をかきながら言った。「へえ、〈ウロボロス〉の連中の後をつけていやしたらそこに集まってやした」

「でかした。これで攻勢に打って出ることができるな」

「襲撃するんですか?」と同席していたKが尋ねる。

「もちろん」、管理者Ⅹは微笑した。「守るより攻める方が楽や」

「なるほど」

「午後1時に会議場で作戦会議を行う。二人とも、ハンターを集めといてくれ」

「承知しました」、Kとシャークは敬礼した。

「あとアウルもな」と彼女は付け加えた。「欠かせへん樹海のガイドや」

 シャークが退出したあとKは居残っていた。

「そういえば司令、ゴーストさんが依頼を引き続き受けてくださるそうです」

「ほんまかいな」、管理者Ⅹは目を丸くした。「てっきり事情を知ったら、尻尾を巻いて逃げ出すと思ってたわ」

「それだけ腕に覚えがあるか、何かしらの重責を担っているのか、あるいはその両方か」

「両方にベットやな」、彼女は笑った。


 午後1時、会議場にはハンターが集まっていた。これだけの顔ぶれがそろうことは珍しいので中々壮観である。とはいってもハンター・ウルフは未だに目を覚ましていないので、その姿はない。入口からは管理者Ⅹがハンター・シープを引き連れて壇上に立ち、マイクを取った。

「よく聞け」と管理者Ⅹは言った。「今うちらは〈ウロボロス〉によって危機的な状況に追いやられてる。ハンター・フロッグが亡き者となり、ハンター・ウルフも未だ昏睡状態や。ここ山梨では〈ウロボロス〉の連中がはびこり、うちらを捜索してる。だが奴らの山梨でのアジトを見事ハンター・シャークが突き止めた。よって〈システム〉の威信にかけて攻勢に転じ、アジトの敵を根こそぎ殲滅することをここに宣言する」

 ハンターらのあいだで歓声が起こった。

「シープ、映像を出してくれ」

 最前列に座っているシープがプロジェクターでスクリーンにマップと作戦概要を映した。

「敵のアジトは見てのとおり、笛吹市の端にある廃墟となった旅館『ドナルドエン』や。うちらは明日の午後4時にここを出発して一時潜伏。翌日午前2時にこの〈ウロボロス〉のアジトに奇襲をかける。寝込みを襲うわけやな。可及的速やかに、日の出までにはかたをつけてくれ。襲撃をかけるメンバーは以下12名」

 シープがプロジェクターの映像を切り替える。メンバーとその振り分けが映し出される。


 A班:ピジョン、レオパード、シャーク、ウォルラス

 B班:オルカ、スクワロル、ライノセラス、オッター

 C班:K、バイパー、ホース、モモンガ

 D班(先導役):ゴート、アウル


「頭に名前が書いてるやつがチームリーダーや」と管理者Ⅹは言った。「名前の記載がないやつは〈システム〉で待機や」

 会議場内でどよめきが起きる。たまらずハンター・イーグルが声を上げた。

「ちょっと待ってほしいですぞ。相棒のウルフがやられたのに私が作戦に参加できないのは不条理ですぞ」

 管理者Ⅹが答えた。

「D班以外チームはすべてバディ同士でマッチングしとる。その方が何かと連携も取れるし危険も少ない。あんたのバディは残念ながらベッドの上やろ?」

「くっ」、イーグルが悔しそうにした。

「俺も作戦に参加したいです」とハンター・プードルが叫んだ。「絶対に活躍しまくってみせます」

「あかん。あんたは純粋に力量不足やし協調性もない」

「ぐっ」、プードルは大人しくなった。

「最初はレオパードのおるA班に突入してほしい——ってあれ? レオパードがおらんがな」

 いつの間にか会議場にハンター・レオパードの姿がなかった。レオパードのバディのハンター・ピジョンが申し訳なさそうに答えた。

「なんかお腹が痛いとか言って、部屋を抜け出してから帰ってきません」

「また、ばっくれおったな」、管理者Ⅹは呆れた。「まあいい。ピジョンは相棒として後で捕まえてきっちり作戦伝えや。まあ、あいつはいつも派手に暴れるだけやけどな」

「A班が敵を引きつけるということですか?」とオルカが質問した。

「そのとおりや」、管理者Ⅹは頷いた。「B班とC班はその隙に二手に分かれてアジトの敵をしらみつぶしに撃滅してほしい」

「承知しました」とオルカが答えた。

「あと記載のとおり、ハンター・ゴートとアウルは樹海の先導役を頼む」

「わかり申した」とゴートは言った。

「とにかく闘う前から湿っぽいことを言う気はない」、彼女は咳払いをした。「必ず全員生きて帰れ」


 翌日午後3時半、A班からD班のメンバーにはインカム式の無線機が支給された。左耳にイヤホンを装着し、イヤホンから口もとにマイクが伸びている。これで無線が繋がっているもの同士通話ができる。ただし通話できる距離は3km圏内ということだ。

「とにかく相手は何人おるかわからん」と管理者Ⅹは言った。「もしかしたらうちらの想定を上回る可能性もある。だから皆、連携を忘れへんように」

 ハンターたちは各々声を上げた。

 Kのもとに同じC班のホースとモモンガがやってきた。

「Kさん、今回の作戦よろしくお願いします」、モモンガはぺこりと頭を下げた。

「Kさんと一緒なら心強いです」、ホースは胸の前で拳を握った。

「ああ、こちらこそよろしく頼む」とKは言った。

 それを見ていたバイパーが対抗心を燃やした。

「先輩、僕も活躍してみせますから、見ていてください」

「見ているだけでいいのか?」

「そういう意味じゃないです」、バイパーはしょんぼりした。

「せいぜい活躍してくれ。期待してる」

「はい」とバイパーは声を上げた。

 アウルもKのもとにやってくる。

「Kさん、どうかご無事で」

「アウル、また手間をかけるな。俺たちなら大丈夫だ。皆精鋭だからな。明日の夕食はアウルの食べたいものを作ってやる」

「はい、楽しみにしています」

 Kはアウルの後ろにいるゴートにも声をかけた。

「ゴート、アウルのことを頼む」

 ゴートはあご髭をさすりながら言った。「あい、わかった。くれぐれも慎重にな」

「ああ」

 午後4時、ゴートとアウルを乗せたジープを先頭に3台のジープが後に続いた。樹海の中は湿っぽく、また、いつものように鬱蒼としている。見慣れない景色に樹海が大きく変容したのがわかる。Kを乗せたジープはバイパーが運転していた。助手席にK、後部座席にはホースとモモンガだ。

 50分で樹海を抜けた。無線でアウルが言う。

『皆さん、どうかお気をつけて』

 ゴートも言葉を添えた。

『明日の午前6時には迎えに来る。それ以上は言うまでもあるまい』

『いちいちまわりくどいんだよ、おめえはよ』とレオパードの声がする。

『レオパード、少し黙りなさい』とピジョンが言った。『シャークいわく富士吉田市には〈蛇〉は現れていません。だからそこで潜伏しましょう』

『了解』とKとオルカが応えた。


 日付が変わり、午前2時前となった。ハンターたちは「ドナルドエン」の入口のそばの茂みに隠れて集結していた。レオパードの情緒はハイになっていて銃を両手に持ってやる気満々だ。

「全員、俺ひとりでぶちのめしてやる」

「作戦を忘れないでくださいよ」とピジョンがたしなめる。

 そんなやり取りの最中、風はやけに冷たく、辺りは妙に静かだった。

「いやに冷えますね」とバイパーが寒そうに言った。

「そうだな。もう冬だからな」とKは答えた。「芯から冷えるようなら軽くアップしとけ」

 Kはジャケットの内側に装着したショルダーホルスターからグロック17を抜き取るとスライドを引き、初弾を薬室に送り込んだ。

「もうすぐ作戦開始だ。皆も最終確認しておけ」とKはC班の仲間たちに言った。

「了解です」

『みんなインカムの調子は大丈夫かな?』とオルカが無線で言った。

『問題ないです』、大勢がそれに応えた。

 腕時計を見つめる。午前2時ジャストになった。A班がピストルをかまえて「ドナルドエン」に突入した。開戦だ。




K「レオパード、顔中蜂に刺されたか?」

レオパード「司令にボコボコにされた……」

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