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システム・サクラメント  作者: Kesuyu
第4部 日常と非日常
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1【K】とにかくひとつでも多くの仮説を立てることだよ




〈システム〉本部、地下1階の駐車場に一台のジープが乗り入れると、それを管理者Ⅹとハンター・Kとハンター・オルカは待ち受けていた。広間にジープが停車するとハンター・プードルが車の運転席から降り、まわりこんでトランクを開けると、中には両手両足を縛られ、口にガムテープを貼られた屈強な男が芋虫みたいにうねうねともがいていた。その口のガムテープをプードルがはがすと、とたんに男は怒声を放った。

「てめえら、こんなことしてただで済むと思うなよ。絶対に報復してやる」

 プードルはナイフを取り出して男の頬にあてた。

「大人しくしやがれ、三下。目ん玉くりぬくぞ」

 管理者Ⅹがプードルに尋ねた。「どうやって捕獲した?」

「いやー、町中で見かけて、後をつけてたら、人気のない道路を横断したのでジープで轢きました」、プードルは意気揚揚とした。

「そうか」、管理者Ⅹは羽織っていたローブを翻した。「とりあえずさっそく尋問に取り掛かる。Kとオルカはそいつを地下牢に入れてくれ。プードルは帰ってええ」

「承知しました」、三人は敬礼したが、プードルは褒めてもらえなくてしょんぼりしていた。


 捕虜の名前はツカマタダシといった。尋問は難航するかに思えたが、拷問の影をちらつかせると、威勢の良かった態度が急に萎縮して、知っていることは何でも進んで話しだした。要はただの末端の構成員であり、組織への忠誠心なぞ微塵もないのだ。

 ツカマタダシ曰く〈ウロボロス〉は拠点をいくつも持っていて、幹部クラスは索敵されぬように、その拠点を定期的に転々としているらしい。それに応じて構成員の配置も流動するようだ。

 ただ、いくら脅しても、幹部の名前はひとりも摑めなかった。どうやら末端の構成員には幹部の情報は知らされていないらしい。拠点の場所も知らない。拷問しようとすると、彼はひどくわめいた。「本当に何も知らないんだ。嘘じゃない。信じてくれ」

 管理者Ⅹはさらに言及した。「うちらのことをなんで知っとる?」

「わからない。ただ国家転覆を目論む悪の組織だと聞かされている」

「悪の組織?」、彼女は眉を一瞬しかめた。「舐めとんか。どっちが悪の組織やねん」

「あんたらは見るからに悪者じゃないか。車で轢いてくるし」

「むう」、管理者Ⅹは言葉に詰まった。「せめて義賊と言え」

「わかった」

 管理者Ⅹはハンター・フロッグの写真を見せた。

「この写真の男に見覚えはあるか?」

 ツカマタダシは写真をまじまじと見つめたあとに答えた。

「いや、覚えがないな」

「ちょっと痛い目見るか?」

「ほんとだ。〈ウロボロス〉は寄せ集めの集団だが、情報に関しては堅いんだ。末端の俺らは指示されて動いているだけだ」とツカマタダシは言った。

「ならどうやってうちらを判別して襲撃しとる?」

「まず車だ。山梨ナンバーのモスグリーンのジープは敵のものだと知らされている。あとあんたらはいつも黒いスーツを着ているから——誰が言い出したかは知らないが——便宜上『(からす)』と呼ばれている。そして襲撃に向かう際にターゲットの写真が配られ作戦が伝えられる」

「ターゲットの写真?」、管理者Ⅹは一瞬眉をしかめた。「それはどこにある?」

「今は持っていない。来る前に暗記させられた」

「この中で見覚えのある奴はおるか?」と言って彼女は部屋を見渡した。

 ツカマタダシはうつむいて迷った挙句、尻込みした。やがてゆっくりとKを指差した。

「やっぱりか」、管理者Ⅹは溜息をついた。「参ったわ」

「これで知っていることは洗いざらい話した」とツカマタダシはすがるように言った。「釈放してくれるよな?」

「あほ」、管理者Ⅹは冷たい目をした。「寝言は寝て言え。まだまだこってり搾ったる」


 司令室に行くと管理者Xは椅子に座って意見を求めた。

「どう思う?」

「嘘をついているようには見えませんでしたね」とオルカが答えた。

「右に同じです」とKも言った。「何かを隠している素振りもない。たぶんあれ以上は本当に何も知らないんだと思います」

「そうやな」、管理者Ⅹは腕を組んだ。

「司令、とりあえずジープの色は塗り替えたほうがいいかと」とオルカが言った。「山梨ナンバーはともかく、車の色は変えられます」

「確かにな」、管理者Ⅹは頷いた。「何色にしよう。黄色とかどうやろ?」

「かえって目立ちますって」、Kが制した。「白が無難かと」

「業務用みたいで可愛くないやん」

「業務用みたいだから目立たなくていいんですって」

「じゃああいだ取って水色で」

「どことどこのあいだを取ったらそうなるんですか?」とKが指摘する。

「むう」、管理者Ⅹは難色を示した。「せめて赤」

「オルカはどう思う?」とKがオルカに尋ねた。

「ジープの色を統一するのはリスクがあるね。色がばれたらすべての車が危険に晒される恐れがある。配色はバラバラにしたほうがいいよ」

「なるほど」

「ピンクも熱いな」

 Kとオルカはその言葉を無視した。


 その日の午後はよく晴れていた。まさに塗装にうってつけだ。残っているハンターが集まって本部の地下駐車場に停めてあるジープを外に出して塗装をしていた。Kとバイパーは協力して自分たちの車にマスキングテープを貼り、やすりがけを行うと、粉や油分を拭き取り、刷毛とローラーでベージュに外観を塗り替えた。新しく色を塗り替えるだけで、まるで雰囲気も変わったし、新車のように見える。

「お前もハンターみたいなもんだからな」とバイパーがジープをなでながら言った。「この前の襲撃の傷も消えて、綺麗になってよかったなあ、シャロン」

「シャロンって誰だ?」、後ろでそれを聞いていたKが尋ねた。

 バイパーが振り返って照れ臭そうにした。「ああ、この車の名前です。勝手にそう呼んでいるんです」

 そうしているとハンター・オルカとハンター・スクワロルが様子を見に来た。

「もう塗装が終わったの?」、オルカが言った。「仕事が早いね」

「ああ、そっちは何色にしたんだ?」とKが聞き返す。

「ベタだけどうちは黒にしたよ」

「それが一番無難かもな」、Kは苦笑した。「そっちも作業は終わったのか?」

「うん、あとは塗料が渇くのを待つだけかな」、オルカは空を見上げた。「K、このあと夕食でもどうかな?」

 アウルは樹海に駆り出されているので家にはいない。特に断る理由もなかった。

「バイパーが一緒でもいいか?」とKは尋ねた。

「まあ、こちらもバディと一緒だからよろしく頼むよ」

「よ、よろしくお願いします」とスクワロルが言った。


 4人は居住区の食堂で談義した。Kとオルカは〈システム〉の中でも一貫して中立の姿勢を保持している少数派なので、意外と気が合うのだ。おまけにどちらも腕が立つ。だからお互い敬意を持って認め合っていた。

 サンマの塩焼きを食べながらオルカは言った。「Kは我々の今後の動向をどう読むの?」

「わからないな」とKは栗ご飯を食べながら率直に述べた。「ただし、あまり受けにまわるのはよくないだろうな」

「それは〈ウロボロス〉を潰せるとでも?」

「まさか、奴らは名前のとおりなんでも——有象無象を取り込んでいく集団だ。しぶとく生き残るさ」

「こういった事態は今までにもあったんですか?」とバイパーが尋ねた。

「前例がないね」とオルカは断言した。「それに我々は別にプロの殺し屋集団ではないから。〈システム〉の雑用係みたいなものだよ」

「〈ウロボロス〉はなぜ僕らを目の敵にするんでしょう?」とスクワロルがおずおずと言った。

「確かに」とKは言った。「なんでだろうな?」

「おそらくは裏で莫大な金が動いているんだよ」とオルカは言った。「〈システム〉を疎ましく思っているから潰すことに利益があるんだよ。それしか説明がつかない」

 バイパーはサンマの塩焼きの身を骨だけ残して綺麗に食べていた。そして魚の骨をはがすと皿の端に寄せた。

「ということは〈ウロボロス〉側の資金の流れを絶てばいいわけですね?」

「理論上はそうなるね」とオルカが言った。「可能かどうかは別にして。〈ウロボロス〉のトップは誰なのか、またバックには誰がいるのか——もしかするととんでもない大物が飛び出してくるかもしれない」

「政争に巻き込まれたと言うのか?」とKはサンマの塩焼きをつつきながら言った。

 オルカは人差し指を立てる。「あくまで可能性の話だよ」

「政治はあまり好きじゃありません」、スクワロルが意気消沈した。

「僕はいつだって先輩についていきますよ」とバイパーは誇らしげに言った。「なんたってバディですから」

「とにかくひとつでも多くの仮説を立てることだよ」とオルカは言った。「それが身を助けることもあるからね」

 食事を終えると四人はあっさり解散した。

 Kが自宅に戻るとアウルはすでに帰宅して、リビングで本を読んでいた。

「また明日も樹海に駆り出されます」とアウルは言った。

「ご苦労さま」とKは言った。「夕飯は食べたのか?」

「ゴートさんとレーションを食べました。ストロベリークリーム味の」

「あれか」、Kは苦笑した。「甘くて苦手なんだよな」

「美味しかったですよ?」とアウルが言う。

「まだ腹が減っていたら今から何か作ろうか?」

「いえ、大丈夫です。Kさんも休んでいてください」

「そうか」

 Kは自室に入り、〈システム・サクラメント〉にログインしたが、特に異変は見つからなかった。ショップ画面の品物が値上げされているくらいだ。高難度ミッションを受注したいところだが、今の切迫した状況がそれを許してくれそうにはない。Kは〈システム・サクラメント〉をログアウトして、寝支度をして寝た。


 翌日、山梨市に出向いていたハンター・ウルフが負傷して帰ってきた。




K「いきなりしれっと登場して誰っ?」

オルカ「以後お見知りおきを……」

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