2
隼人は今日も野菜が入っている袋をぶら下げていた。けど、昨日とはちがってこざっぱりとした服に着替えてあった。シャワーまで浴びてきたのか、うっすらシャンプーの匂いまで漂わせている。
「今日はナス、ブロッコリー、あとミニトマト」
「野菜のサブスクでも始める気?」
わたしはあきれて笑った。
「そ、夏野菜キャンペーン中。先着一名様かぎり」
持つべきものは、いつ来るかわからない、それでいて気が置けない男友だちだね。野菜をくれるひとなら、なおよしだ。
「うれしいけど、たくさんは困る。こっちも独り身だもん」
「ならさ、おれといっしょに食べればいいじゃんね? 春江さんがそうしていたみたいに。朝メシまだだろ?」
「いいけど、何も支度できてない」
「おまえ、いつも遅刻ギリギリだったもんな。いいよ、おれが作るって」
さっきのは撤回! 料理下手な身としては、ありがたいお話だ。
「しょうがないなあ、あがって」
それでも、しかたないなあという雰囲気で中に入るよう勧めると、
「なんだよ、その格好。それ、高校のジャージだろ。わざわざ着替えてきたおれがバカみたいじゃん」
隼人は靴を脱いで縁側に上がりながら言った。
変なの、どうでもいいことなのに、やけに突っかかってくる。
「そういうそっちこそ、なんでオシャレしてきたの? どっか出かけるん?」
隼人は畑仕事の時に着る、いつもの作業着ではなく、こざっぱりとした服装だった。と言っても半そでTシャツにジーンズ姿だ。力仕事で鍛えられた筋肉にそってラインがでている。
「あのなあ、ちがうって。おばちゃんのせい」
隼人は憤慨したように答えた。
おばちゃんとは、そのままの意味ではなく、隼人のお母さんのことだった。子どものころはちゃんと「お母ちゃん」と呼んでいたのに、いつ頃そうなったのか知らないけれど、「おばちゃん」と言い方を変えた。たぶん、思春期に入ったとき仲間内で「おまえ、まだお母ちゃんなんて呼んでるのかよう」とかなんとかからかわれたのではないかと、わたしは見ている。
ちなみに隼人のご両親は今、豪華に北海道一周の旅とやらに出かけている。おじさんは長年、農業の組合長を務めていて、おばさんに苦労をかけたからと奮発したのだそうだ。まさか、うちの祖母が亡くなるとは思っていなかったため、「こんなときに旅行なんてすみません」と平謝りしながら空港に向かった。帰ってくるのはひと月後らしい。
「沙織ちゃんちに行くなら、汗臭いのはダメだ。シャワーを浴びてからにしろ、みっともないからって、電話越しでうるさいのなんのって」
隼人はそのときのことを思い出したのか、「うへえ」と肩をすくめた。




