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「言っとくけど、ホントに本当だからな。春江さん、うまいと言ってくれたんだぞ」
主のいない台所は、ひとりの男の出現によりにぎやかだ。ひとりぼっちの自由と寂しさを堪能するヒマもない。おばあちゃんが隼人を気に入っているわけが、ちょっとわかったような気がした。
それからまもなくして、みそ汁はできあがったけれど、隼人は忙しそうだった。ざるやらボウルやらあっちに置いたり、こっちに置いたりして、台所を行ったり来たりしている。どうやら作ってくれるのは、卵焼きだけではないらしい。シンク下で見つけた蒸し器からシュンシュンと白い湯気が立っている。
「何を蒸してるの?」
「ああ、これ? ちょうどできた」と言って、隼人は蒸し器のフタをあけた。中には、彩りが鮮やかなミニトマト、ナス、ブロッコリー。
「見ろよ、うまそうだろ?」
隼人は少しだけわたしを見て、すぐ、手もとに視線を戻す。
「蒸し野菜なら、おかしな味にならない。あとはマヨネーズとかごまだれとか好きなタレでたべるだけだからな。ていうか、おれの畑でとれた野菜に不味いものはない。さあ、食うぞ~!」
「うん、はやく食べよ。さすがにおなか空いたよ」
げっそりしながら台所の壁時計を見ると、料理を始めてから一時間もたっていた。いつのまに? なんか信じられない。
それからの行動は早かった。わたしたちは急いで食器を並べ、それぞれセルフでごはんとおかずの盛り付けをする。それから、「いただきます」と手をあわせ食べだした。
「へえ、ごきげんのルールなんてものがあるんだ」
おなかがやっと落ち着いたころ、隼人は横に置いてあったごきげん通帳を見ながら言った。さっき見たページを広げたままだった。
「わたしもね、知らなくて。そのページに気づいたばかり」
隼人にごきげん通帳を手渡す。
「ふうん、比べない、自分で作る、寝る前に思い出す、か。三原則だな」
「おばあちゃん、なんで書いたんだろう。ひとに見せる前提だったのかな。ね、どう思う? 隼人、おばあちゃんを近くで見ていたでしょ? なんか気づいた?」
隼人は「うーん」とごきげん通帳とにらめっこをしだした。
「わるいけど、わからんわ。すまん」
潔くあやまり、わたしにごきげん通帳を返す。
「そっか。やっぱりわからないか……」
いったい自分は何を考えているんだろう。自分から話題にしておきながら、ためらっていると。
「どうしたん? 気になることでもあるのか?」
たずねられた瞬間、胸がドキッとした。とっさに笑ってとりつくろう。




