(7)禁書①
翌日、執務室をおとずれたシルビアは眉をひそめた。
セオディア・メレ・エトゥールの専属護衛が部屋の外に待機しているのを不思議に思ったが、執務室内にはメレ・エトゥールの他にカイルがいた。
しかも執務を手伝うわけでもなく、カイルが長椅子で本を読んでおり、メレ・エトゥールもなぜかそれを許していた。
「カイル、ここで何をしているのです?」
「本を読んでいるんだ」
「なぜ執務室で?」
「禁書だから執務室から持ち出し禁止なんだよ」
「何も、今読まなくてもいいのではありませんか?明後日は婚約の儀ですよ?」
セオディア・メレ・エトゥールは二人の会話に関知しないかのように、執務を続けている。
「緊張して落ち着かないから」
「貴方が?」
「僕をなんだと思ってるの?」
「貴方、緊張するタイプじゃないでしょう?」
「ファーレンシアに告白するときは緊張したよ?」
「嘘おっしゃい」
「嘘だな」
「……メレ・エトゥール、どうしてそこで突っ込むの?」
カイルは拗ねたように言った。
メレ・エトゥールはカイルの抗議が聞こえなかったようなふりをした。
「貴方ほど心臓に毛がはえている人物はいません」
「ひどいよ、シルビア。ディム・トゥーラじゃあるまいし」
「メレ・エトゥールも、大事な時期なのですから、カイルに書を与えないでください」
「すまぬ。餌は小出しにするべきだったな」
「そうです」
「……ねえ、シルビア、本当に僕をなんだと思っているの?」
「書を食らい尽くす人型のウールヴェです」
シルビアの言葉がツボにはいったようで、メレ・エトゥールが小さな笑いをもらした。
カイルがきっとセオディアを睨んだが、彼は再び無視して執務を続けた。
「シルビア、メレ・エトゥールに何か用?」
「たいしたことではないので、後日で結構です。……カイル、禁書の件ですが……城のことは、メレ・エトゥールに確認しました?」
カイルは、はっとした。
「すっかり失念してた」
「まあ、婚約の儀のあとの方が落ち着いて捜索できますけどね」
「何の話だ?」
「城か王都の地下に、初代の拠点が遺構として残っていないか、と思ってね」
「遺構があるとどうなる?」
「大災厄時に避難所にできるかも」
メレ・エトゥールは書をしたためる手をとめた。
「初代エトゥール王がメレ・アイフェスなら確かにあってもおかしくないな。それを元に王都として成長していったことは、ありうることだ」
「城の書庫には、城の図面はなかったけど……」
「あるわけなかろう。城の構造など重要な機密だ。攻城戦を左右するのだからな」
「……御説ごもっとも……やはり禁書として、メレ・エトゥールの管理下?」
「もちろんそうだ」
「見ることは可能?」
メレ・エトゥールはカイルを見つめる。
「見るだけなら。模写は禁止だ。これが流出するならば、大災厄前にエトゥールが滅ぶ」
「見て記憶するのは?」
「カイル殿なら容易いだろう。許可する」
メレ・エトゥールは立ち上がると書棚に近づいた。そこから取り出すのかと思えば、違った。彼が書棚の一部をいじると、書棚が動き、隠し扉が現れた。
「気がつかなかった」
「簡単に気付かれては困る」
セオディアは鍵を取り出し、扉をあけた。執務室と同じ広さの隠し部屋には書棚があり、山のように古書が積まれていた。カイルの目は興奮のあまり輝いた。
同行し部屋に足を踏み入れたシルビアがやや非難する視線をメレ・エトゥールに投げた。
「メレ・エトゥール。カイルにさらに餌を見せびらかして、どうするんですか」
「餌付けはウールヴェ使役の基本だ」
「では、完璧に使役してください」
「無理だな」
サクッとエトゥール王は努力を放棄した。
「彼を使役するより野生のウールヴェの生捕りが楽なぐらいだ」
「……そうかもしれません」
メレ・エトゥールの例えに、シルビアは考えこみながら同意した。




