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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第14章 精霊の祝福

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(7)禁書①

 翌日、執務室をおとずれたシルビアは眉をひそめた。

 セオディア・メレ・エトゥールの専属護衛が部屋の外に待機しているのを不思議に思ったが、執務室内にはメレ・エトゥールの他にカイルがいた。

 しかも執務を手伝うわけでもなく、カイルが長椅子で本を読んでおり、メレ・エトゥールもなぜかそれを許していた。

 

「カイル、ここで何をしているのです?」

「本を読んでいるんだ」

「なぜ執務室で?」

「禁書だから執務室から持ち出し禁止なんだよ」

「何も、今読まなくてもいいのではありませんか?明後日は婚約の儀ですよ?」


 セオディア・メレ・エトゥールは二人の会話に関知しないかのように、執務を続けている。


「緊張して落ち着かないから」

「貴方が?」

「僕をなんだと思ってるの?」

「貴方、緊張するタイプじゃないでしょう?」

「ファーレンシアに告白するときは緊張したよ?」

「嘘おっしゃい」

「嘘だな」

「……メレ・エトゥール、どうしてそこで突っ込むの?」


 カイルは()ねたように言った。

 メレ・エトゥールはカイルの抗議が聞こえなかったようなふりをした。


「貴方ほど心臓に毛がはえている人物はいません」

「ひどいよ、シルビア。ディム・トゥーラじゃあるまいし」

「メレ・エトゥールも、大事な時期なのですから、カイルに(えさ)を与えないでください」

「すまぬ。(えさ)は小出しにするべきだったな」

「そうです」

「……ねえ、シルビア、本当に僕をなんだと思っているの?」

「書を食らい尽くす人型のウールヴェです」


 シルビアの言葉がツボにはいったようで、メレ・エトゥールが小さな笑いをもらした。

 カイルがきっとセオディアを(にら)んだが、彼は再び無視して執務を続けた。


「シルビア、メレ・エトゥールに何か用?」

「たいしたことではないので、後日で結構です。……カイル、禁書の件ですが……城のことは、メレ・エトゥールに確認しました?」


 カイルは、はっとした。


「すっかり失念してた」

「まあ、婚約の儀のあとの方が落ち着いて捜索できますけどね」

「何の話だ?」

「城か王都の地下に、初代の拠点が遺構(いこう)として残っていないか、と思ってね」

遺構(いこう)があるとどうなる?」

「大災厄時に避難所にできるかも」


 メレ・エトゥールは書をしたためる手をとめた。


「初代エトゥール王がメレ・アイフェスなら確かにあってもおかしくないな。それを元に王都として成長していったことは、ありうることだ」

「城の書庫には、城の図面はなかったけど……」

「あるわけなかろう。城の構造など重要な機密だ。攻城戦(こうじょうせん)を左右するのだからな」

「……御説(おせつ)ごもっとも……やはり禁書として、メレ・エトゥールの管理下?」

「もちろんそうだ」

「見ることは可能?」


 メレ・エトゥールはカイルを見つめる。


「見るだけなら。模写は禁止だ。これが流出するならば、大災厄前にエトゥールが滅ぶ」

「見て記憶するのは?」

「カイル殿なら容易(たやす)いだろう。許可する」


 メレ・エトゥールは立ち上がると書棚に近づいた。そこから取り出すのかと思えば、違った。彼が書棚の一部をいじると、書棚が動き、隠し扉が現れた。


「気がつかなかった」

「簡単に気付かれては困る」


 セオディアは鍵を取り出し、扉をあけた。執務室と同じ広さの隠し部屋には書棚があり、山のように古書が積まれていた。カイルの目は興奮のあまり輝いた。

 同行し部屋に足を踏み入れたシルビアがやや非難する視線をメレ・エトゥールに投げた。


「メレ・エトゥール。カイルにさらに餌を見せびらかして、どうするんですか」

「餌付けはウールヴェ使役の基本だ」

「では、完璧に使役してください」

「無理だな」


 サクッとエトゥール王は努力を放棄した。


「彼を使役するより野生のウールヴェの生捕りが楽なぐらいだ」

「……そうかもしれません」


 メレ・エトゥールの例えに、シルビアは考えこみながら同意した。

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