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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第13章 精霊の選択

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(34)閑話:夢(前編)

凛花と阿修、鍋事件(笑)のあとのネタ

 凛花(りんか)が目覚めると、そこは最近移住したエトゥールの小さな自分の部屋だった。

 東国(イストレ)は平屋が多かったので、凛花(りんか)はエトゥールの階層構造の家屋(かおく)を不思議に思ったものだ。年をとったら、階段の上り下りをどうするのだろうと――。


 そして今、凛花(りんか)の目の前にはエトゥール特有の低い天井が目に入った。凛花(りんか)は、ぼぉーっとしながら、それを見つめていた。


――なんだ、やっぱり夢か……


 いい夢だった。どうせならもう少し夢の世界にいたかった。

 凛花(りんか)は寝返りをうち、身体を丸めた。もう一度夢の世界に戻りたかった。


 阿修(あしゅう)が生きていて、働いている店にきたのだ。

 嬉しかった。夢のようだ、と思った――実際夢だったが。


 阿修(あしゅう)が生きていて、店にきて、無事な姿を見せてくれて――。



「ああああああああ」



 凛花(りんか)は寝台の上で、もだえた。

 後悔先に立たず、どころじゃない。

 夢でもいいから会いに来て、霊体でもいいから会いに来て、と散々願っていた相手に――。



 鍋を投げた。


 

 なんて、大馬鹿なんだろう。リアルすぎる夢だったから、羞恥(しゅうち)が半端ない。

 なぜ、鍋?

 霊体の界渡りだったら、二度と会いに来てもらえないレベルだ。


 頭に血がのぼった状態だったのは確かだ。

 死んで遺産まで渡されたのだ。その相手が生きていた。死んだふりをして、今の境遇を憐れんで金を寄越したことになる。

 生きて、援助をするなら、まだわかる。


 

 阿修(あしゅう)は死んだことにして、凛花(りんか)との関係を切ったのだ。



 それを悟った瞬間、阿修(あしゅう)にありとあらゆる物を投げた。投げているうちに、誰かにあたって、主人に怒られて、なんかして――目が覚めた。


 ああ、なんて馬鹿なことをしたんだ。

 どうせ夢なら、もう少し、自制できなかったものだろうか?


 凛花(りんか)は身体を丸めたまま、頭の中で、自分の望む展開を考えてみた。


――無事だったのね

――もう一度会いたかったの

――ううん、貴方が昔、去った時からずっと会いたかったの

――あんなお金が欲しかったんじゃない

――どうして生きているなら、もっと会いに来てくれなかったの



 だめだ、やっぱり鍋が飛ぶ。



 鍋がなければ、阿修(あしゅう)を殴っている。泣きながら殴っているのだ。

 死んだと思った、初恋の相手に再会したら、普通の女はもっと愛らしい反応をするのではないだろうか。



 鍋はいただけない。鍋はダメだ。



 やっぱり、敗因は阿修(あしゅう)が去り、父が処刑され、蛇韓(ダカン)に土地と家屋を奪われ、行かず後家の道を野生のウールヴェ並みに突っ走って、三十路(みそじ)になったことに思える。(はた)から見れば、かなりこじらせているように見えることだろう。


 布団の中でジタバタしながら、夢を何度も反芻(はんすう)する。


 ようやく凛花(りんか)は正解にたどりついた。


――助けてくれてありがとう

――貴方がきてくれたから、生きのびることができたの


 言うべき言葉はこれだ。

 今度夢であったら、絶対に言わなければならない。

 凛花(りんか)は半身を起こした。小さな声でつぶやいて練習をする。


「……助けてくれてありがとう」

「どういたしまして」


 ん?!


 声をする方を見ると、足のある幽霊が腕を組み、戸口によりかかって、立っていた。


「……幽霊?」

「お前は、幽霊に鍋を投げたのか」

「……え?いや?あれ?だって?夢だよね?」

「賢者に鍋を投げたからといって、現実逃避をするな」

「――賢者……」



 全てを思い出した凛花(りんか)は大混乱に陥った。


 

 


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